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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****202号機救助作戦(Unit 202 rescue operation )*****
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【三人の狙撃手②(3 snipers)】

“一体どこに行った……”

 右の狙撃手を探している時、Dozor-B軽装甲兵員輸送車から“カンッ”と言う外板に銃弾が当たった音がした後、ドスンと人の倒れる音が聞こえた。

「どうした!?」

「何でもありません。銃眼に弾が当たったのに驚いて倒れただけです!」

 Dozor-B軽装甲兵員輸送車には銃眼が3つずつ左右についている。

「他に銃眼を開けている者が居たら、直ぐに閉じろ!」

 2つの銃眼が閉じられる音がした。

“さあ続き……”

 さっき監視員を射撃した位置から左に40m離れた位置の森の木から、2羽の鳥が慌てるように飛び立つのが見えた。

”居た”

 丁度鳥が飛び立った木の根元に、走っている足だけが見えた。

“チャンスだ!”

 私は大きく視界を取るために、横に一回転して銃を構えた。

 この位置だと、敵からは丸見えだろう。

 まるで、撃って下さいと言わんばかりの位置。

 だから私を見つけた敵は、必ず直ぐ撃って来るに違いない。

“先に撃たせてやる代わりに、チャンと位置を教えろよ……”

 チカッと青白い光が見えた。

 すぐさま、その光に向けてこっちも撃ち返す。

 お互いの距離は700m。

 敵の銃がT-5000なら銃口初速は900m/s(毎秒900m)を超える。

 ドラグノフは830m/sだが、お互いの放った銃弾が相手に届くまで1秒前後時間が掛かる。

 つまり、共倒れと言う場合もあり得るという事。

 撃った姿勢のままポケットの中に入れたスコープを取り出しながら、敵の放った銃弾が届くのを待つ。

 伏せて広げた足元の土に、敵の銃弾が砂埃を上げる。

 外していたスコープを銃にセットした頃に、お互いの銃声が相手に届けられる。

 スコープを覗くと、そこには私の放った銃声を聞くこともなく眠る敵の狙撃手の横たわる姿があった。

 右の狙撃手は封じた。

 次は正面の2人。

「監視員!防弾ガラス2枚越しの位置から敵を探せ!」

「了解しました!しかし、防弾ガラス2枚越しって……」

「装甲兵員輸送車の外から見れば良い。もう1人の狙撃手が左に寄った可能性もあるから、なるべく右に背を低くして探せ!」

「了解!」

 この状況は我々にとって圧倒的に不利だ。

 なにしろ敵は見晴らしのいい場所から、この車列の範囲内を見張れば良いのに対して、我々は高台の森に潜む敵を探さなければならない。

 狙撃手を倒すために一番大切な事は、相手に見つからない事。

 先に見つかった状態では、相手に先手を取られてしまう。

 だが相手よりも早く見つけて、相手よりも先に撃とうとして焦ると墓穴を掘る。

 手っ取り早いのは相手に位置を教えてもらう事だ。

 要は、分からなければ聞けと言う事。

 Dozor-B軽装甲兵員輸送車の所に移動して、外板を叩きハッチを開けるように依頼した。

 ドラグノフ狙撃銃を肩に掛けた状態で、開いたハッチから中に乗り込んだ。

 中には通信兵が2人残っていた。

「怪我はないか?」

「ありません。さっきはビックリして尻もちをついただけです。すみません」

「すまないが頼みがある」


 高台から見下ろす敵の狙撃兵。

 Dozor-B軽装甲兵員輸送車のドアが開き、誰かが乗り込むのが分かった。

 姿勢を低くしていたため姿は見えなかったが、肩に担いでいる銃の先は見えた。

 ドラグノフ狙撃銃。

 乗り込んだのはウクライナ軍の狙撃兵であることは間違いない。

 ドラグノフの有効射程距離は800m。

 ここから敵との距離は1400m丁度。

 ドラグノフの有効射程距離を600mもオーバーしているが、左に展開していた仲間を撃った狙撃兵だとしたら油断は出来ない。

 有効射程距離と言うのは“狙って当てる事が出来る距離”と言う事で、誰が狙うのかは明確な基準などなく、一般的に言えば弾が真直ぐに飛ぶ距離を指すことが多い。

 凄腕の狙撃手なら有効射程距離の2倍の距離からでも、十分に狙いを付けて当てて来る。

 乗り込んだ敵の装甲車の閉じられていた銃眼が開いた。

 後部ハッチに近い方の銃眼が開けられた時に、ハッチが開き放しになっていたため、日の光が入り一瞬だがドラグノフ狙撃銃のバレルとフロントサイトがこっちの様子を伺ているのが見えた。

 敵もそのことに気が付いて直ぐ後にドアを閉めたので少し暗くなり、おそらく後部ハッチについている防弾ガラス窓や運転席側のオープンスペースに光が差し込まない様に何かで覆ったのだろう、その後は全く見えないくらいに暗くなった。

 こっちに向いている3つの銃眼のうち開いているのは、前と後ろの2つ。

 真ん中の銃眼は1㎝弱だけ隙間を開けているから、この銃眼と天井に着いている機関銃のペリスコープの2つで位置を探っているのだろう。

 どのみち、こっちの大まかな位置は掴んでいるだろうから、撃てば所在が知れる。

 肝心なのは撃っても正確な位置を掴まれない事。

 仲間に頼んで、そのための細工をしてもらった。

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