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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****202号機救助作戦(Unit 202 rescue operation )*****
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【混乱④(confusion)】

 ユリアに言われるまま、正直に胸の内を打ち明けた。

 家宅捜索に伴うリスクと、ここに数分留まる事のリスク、その2つの事が敵の狙いではないかと言うことを。

「たしかに踏み込まれた家の人に危害が及んでは、軍への信用は失墜するわね」

「つまり敵はここで時間稼ぎをしていると言う事なのか?でも何故そんなに付け狙われる?」

「何故かは屹度ユリアたちの撮ったビデオを解析すれば分かるでしょう。そのビデオを我々が持っている限り、敵は執拗に狙って来るはずです」

 レーシが首に掛けていたホイッスルを鳴らすと、直ぐに追っていた部隊は戻って来た。

 部隊の報告を聞き、特に何も問題がなかった事を確かめる。

 地図を広げて進軍方法も提案してみた。

 メインの道に並行するように左右に農道が走っていたので、部隊を3つに分けてみてはどうかと。

 敵は必ず森の中に隠れているはず。

 そして森に居る限り木々が音を反射してしまうので、正確な音の位置が分り辛い。

 3つに分かれた部隊を並走させることにより更に音の出所は分りにくくなるので、見通しの悪い森に隠れている敵にしてみれば我々が、どの道を通って来るのかさえ分からなくなってしまう。

 必然的に森に隠れたままでは攻撃するタイミングを逸してしまうので、敵は見張りを路上に出す必要が出て来るので、それを見逃さないようにすれば攻撃を防ぐことは出来るはず。

 3つに分かれた部隊の合流地点は、集落の入り口にある採掘場と決めた。

 ここから先は、直ぐ街に入り大通りになる。

「私もこの車に乗せてください」

「私も」

 私の後にユリアも乗ると言ったのは、レーシ中佐が同意しやすいようにしてくれたのだと思った。

 案の定、レーシ中佐は少し困った顔はしたが、2つ返事で同乗を許可してくれた。

 13時30分。

 部隊を3つに分け、我々中央の部隊はレーシ中佐が乗るDozor-B軽装甲兵員輸送車を先頭に、再び首都キエフに向けて出発した。

 この車両は乗員3名の他に8名の兵員を乗せる事が出来、クーガー軽装甲輸送車と同様にウクライナ国内で設計されている。

 クーガーと違い後部座席には銃眼じゅうがんはあるが窓はない。

 8名乗り込めるキャビンにも通信兵が2名いるだけ。

 折角ユリアと、ゆっくり話ができる機会が出来たわけだが、のんびりもしていられない。

「レーシ中佐、軍曹と見張りを後退させてもらっていいですか」

「いいですよ」

 助手席に座る中佐に許可を取り、車の天井に備え付けてある銃座に就く。

 中東に居た時の経験から、次の攻撃は地雷などの爆発物か、もし持っていればRPGによる不意打ちだろう。

 しかし家宅捜査をしないで捜索自体を中止したから、敵も落ち着いて仕掛けた爆弾の方は偽装を施す時間は無かったはずで、ひょっとしたら爆弾自体を仕掛ける余裕すら無ければ良いのだが、それはあまり期待しないでおこう。

 いずれにしても、まだしばらくは森の中の道を通るので、厄介なことに違いは無い。

 中央のメイン通りには、次の村までに敵の攻撃ポイントは3カ所あると私は睨んでいる。

 3カ所とも、少しだけ森が開けた個所がある。

 両脇の農道の方には森が開けた場所は無いので、こっちの部隊を攻撃するには先ず見張りが道の傍まで出てきて確認する必要がある。

 決して動くことのない木々の中で、道路際の動く物体と言うのは、よく注意していれば意外に見つけやすいが、先ず農道の方には敵は居ないだろう。

 そもそも部隊を3つに分けたのは、敵を倒すことが目的ではなく、敵を見つけ易くすることが目的なのだ。

 車の走行音が広範囲に広がる事で、メイン道路を狙える位置でジッと待機していればいい状態を崩すことが目的。

 見張りを農道に振り分けることで、動きのない森の中に動きが生じる。

 それを見つけられれば、敵の攻撃は未然に防ぐことが出来るはずだ。

 予想していた第1ポイントをクリアして、第2ポイントもクリアした。

「ふう……」

 後部キャビンから身を乗り出すように、フロントガラス越しに監視を手伝っていたユリアの溜め息が漏れた。

 次の第3ポイントを過ぎれば右手に採掘場が現れて見通しは良くなり、その先は少し大きな村がある。

 ポイントが近付くごとに、敵の動きを捉えやすいようにスピードを緩めて走行した。

 ただしアクセルは緩めずエンジン音を変えずにブレーキのみでの減速。

 人間の耳は正確な音の出所を見つけるのには不向きだが、優秀な分析能力を持つ脳のおかげで、経験に照らし合わせて予想する能力には長けている。

 車のエンジン音がすれば、その音が一定である以上、あとどのくらいでこっちに来るか計算しなくても直感で分る。

 エンジン音が緩めば、その時間は遅くなり、逆に大きくなれば時間が速く訪れることも。

 だからエンジン音を変えないで減速することで、違和感を誘う。

 部隊を3つに分け、尚且つ森と言う特殊な状況下で敵には正確な音の位置は分からない。

 頼りになるのは、その音の大きさや質感だけ。

 来ると思った所に、来るべきものが来ないとなれば、慌てるのが当然。

 都合よく裏に農道が走っているので、慌てた敵は必ず動き出してしまう。

 13時42分。

 第3ポイントに差し掛かり森が開けた瞬間、450m先の森に動く影を2つ発見し即座に銃座に備え付けられたNSV重機関銃を連射した。

 狙ったのは人の頭のやや上の高さ。

 まだ攻撃していない以上、その人影が敵に限られたわけではない。

 激しく銃弾の雨をばら撒いていると、あと2人、合計4人の影が森の奥に向かって逃げるのが見えた。

 彼らが逃げる先には、農道を走る別動隊が居る。

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