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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****202号機救助作戦(Unit 202 rescue operation )*****
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【再会②(Reunited)】

【再会②(Reunited)】

 敵の最後尾が見えた!

 後ろからの不意打ちで申し訳ないが、ユリアたちの命には代えられないので容赦なく銃弾を叩き込みながら突き進み追い越してゆく。

 最前線に到達してもなお走る速度を落とさずに、ありったけの手りゅう弾をばら撒いて敵の最前線の突破を試みる。

 敵の最前線の単独突破は普通なら、好い的になるだけだが、私には私を良く知っている頼れる部下が4人も後から付いてきているから躊躇ちゅうちょなく突き進む。

 案の定4人が私をカバーするように、進路場の両側面に手りゅう弾の煙幕をバラ巻いて、尚且つ援護射撃で敵の側面を叩いてくれた。

「ガナー!大丈夫か!?」

「ああ、やはりナトー軍曹でしたか。自分は大丈夫です」

「ユリアは?」

「向こうに居ます。自分に付いてきてください」

 一旦敵から見えない様に大回りするガナーの動作が面倒に思えるほど、今の私は焦っている。

 兎に角一刻も早くユリアの無事な姿が見たい!

 絶対にユリアを死なすわけにはいかない!

 それは、たとえ自分の命と引き換えだったとしても。

 ユリアは国も違うし部隊も違う。

 コンゴで2回と、キエフで3日それとアフガニスタンで数日一緒に過ごしただけ。

 それなのに目の前で亡くしかけるかも知れないと感じたときから、私にとってはまるで……そう、まるで姉の様に大切な命に思える。

 勿論、親友のエマやハンス、隊員たちの命も同じように尊いが、なにか特別なものとして感じてならなかった。

 敵の銃弾から離れて走るたった数秒間が、じれったくてしょうがなかった。

「あそこです」

 ガナーが指さしたときから、ユリアを見て、ユリアを見る敵目掛けて銃弾を叩き込んで走った。

「ユリア!」

「ナトー!やっぱりナトちゃんだったのね!」

「弾は?」

「もう無い」

「これを使ってくれ!」

 弾帯を外し皆に銃弾の詰まったマガジンを渡す。

「ナトちゃんの分は?」

「私は、これで充分だ!」

 マガジンは、さっきの移動中に交換して、残っていた8発のマガジンはポケットに仕舞ったから、残りは38発。

 これからは狙撃に切り替えるから、これだけあれば充分だ。

 敵の中央に割り込んだブラームとトーニが右翼を叩いて、モンタナとフランソワが左翼を叩き、瞬く間に敵は散り散りになり戦闘は終わった。

 ブラームとトーニは、そのまま追撃戦を仕掛けながら置いてきたリュックを取って戻って来た。

「重てえよぉ~」

 リュックを3つも抱えたブラームが涼しい顔をしているのに、2つしか持っていないトーニが汗だくで文句を言って皆を笑わせた。

「残存兵は?」

「5~6人でしょう」

「敵の死体を数えながら、仕える装備その他を徴収し必要な情報が無いか調べろ。ユリアとガナーには、その間の見張りを頼む」

 倒れている一人一人から銃弾を奪い、地図や作戦計画書などを持っていないかポケットを探る。

 銃弾や手りゅう弾以外には手を出さない。

 地図や作戦計画書、身分を証明するものなどが有ってもカメラで撮影するだけで元あったところに返す。

 勿論、金品には一切手を付けない。

 第三者から見れば略奪行為に見えるだろうが、これは列記とした歩兵の任務の一つ。

 しかし我々のしている行為の一場面だけを切り取ってカメラに収められれば、やはり略奪行為と報道されてしまう可能性はあるだろう。

 報道とは、そう言うもの。

 倒れている敵の中には未だ息のある者も居たし、致命傷を負っていないものも居たけれど、治療は最低限その者が持っているエイドキットでのみ行った。

 時間を費やすことはリスクを伴う。

 負傷者の中には、連れて行ってくれと願うものも居れば、とどめを刺して欲しいと願うものも居たが、それらは全て無視した。

 自ら足かせを作るわけにもいかないし、戦闘が終わった以上それが望みのない命であったとしても、もう他人の命を奪う事も我々には許されない。

 命を惜しむのなら、苦しむのが嫌なら、戦場に足を運ばなければ良かったのだ。

 敵の中でグラコフ少佐とムラジニコフと言う通信士がいないか探したが、グラコフ大佐は逃亡しムラジニコフは既に息絶えていた。

 ムラジニコフの鞄にあった暗号表をカメラで全頁を撮影して再び鞄に戻し、トーニに周波数を記録させた。

 暗号表は正直欲しかったが、これを奪った事が敵に知れると暗号は必ず変えられてしまい只の紙くずになってしまうから、ここだけは時間が掛かってもカメラに収めた。

「中尉、すべて終わりました」

「なにか新しい情報は?」

「やはりこいつら、殆どロシア人ですぜ」

 やはりな。

 準備が整ったようなので、4人を集めて出発の確認をした。

「ポケットのボタンの閉め忘れはないか?」

「ありません!」

「銃弾は、マガジン内の残弾とチェンバー内の物も確実に回収したか?」

「回収しました!」

「ピストルも同じか?」

「同じです!」

「自分たちの遺留品は何も残していないか?」

「残していません!」

「怪我はしていないか?」

「怪我はしていません!」

「平常心か?」

「平常心です!」

「よしOK。では出発するぞ!」

「了解しました」

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