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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****202号機救助作戦(Unit 202 rescue operation )*****
32/301

【捜索③(search)】

 0時38分。

 ブラームの手が回り安全確認が済んだことを知らせたが、まだモンタナとトーニが戻ってきていないので、戻ってくるように指示した。

 ブラームは定石通り、ほふくで戻って来た。

「どうだった」

「ウクライナ兵が7人」

「あの周辺だけでか?」

「はい」

「死体が運ばれた形跡は?」

「ありません」

 敵の人数を見誤ったのか?

 ほぼ同数の分隊同士の戦闘なら、不意打ちを食らっても密集した状態でやられることはない。

 ただし圧倒的に火力の違う相手なら話は別だ。

 敵の小隊が待ち構える中に入って行った場合は、一瞬で全滅させられることもあるが、7人と言う数が腑に落ちない。

 ウクライナ陸軍の分隊定員は10人のはず、あとの3人はどこに行った?

 0時50分。

 周囲の偵察に出ていたモンタナとトーニが戻って来た。

「何か見つけたか」

「いえ、なにも」

「なにも?」

 小隊規模の人数が移動したのなら、草が踏み荒らされて即席の獣道が出来るはずで、それを見落とすモンタナとトーニじゃない。

「死体を調べる。全員マスク着用」

 もう少し広範囲に調べると、死体は全部で8つあった。

 私がウクライナ兵の死体を調べている間、他の者には敵の射撃地点や敵の死体を調べさせた。

 敵の遺体は無かったが、射撃地点は薬莢が落ちていたので分かった。

 ブラームの見つけた薬莢は5つ。

「他にないか、もっとよく探せ」

 しかし、結局探しても、他に4発追加されただけで、空マガジンなどは見つからなかった。

「ひぇ~敵にもナトー中尉並みの射撃の名手が居やがる。たった9発で8人とは恐れ入りましたね」

「いや、彼らが撃ったのは1人だけだ」

「1人だけ!?」

「そう。彼らが射殺したのは、彼らと7人の死体の中間地点で死んでいた男だけ」

「だったら、この7人は誰が?」

「見ろ」

 私は予め死体を銃痕のある方に向け直しておいた。

「後ろの4名は全員背後から背中を撃たれている。残りの前に居る3名は背中からわき腹に掛けて、最後に見つけた8人目だけが正面から撃たれている。そして死んだウクライナ兵全員が銃を全く撃っていない」

 死体が持っていたAKMからマガジンを取り出して、確認するようにフランソワに投げた。

「チャンと30発入っています」

「これは一体どういうことです!?」

「つまり裏切り者が居た?」

「その通り。死体の背後には沢山の空薬きょうが散乱している」

「でも、何故味方に裏切り者が?」

 これは現在のウクライナ情勢と大いに関係がある。

 現在のウクライナは18世紀から19世紀に誕生したが、常にロシアとドイツ、ポーランドと言う相反する強大な国家に国土を脅かされていて幾度も戦争をした。

 1922年にウクライナ社会主義共和国としてロシアやベラルーシと共にソビエト連邦を結成するが、ソビエト憲法により自治共和国として事実上併合させられる形となった。

 第2次世界大戦時、ウクライナではキエフ、ハリコフ、オデッサ、クリミアなどで大規模な戦闘が行われ、特に激戦となったスターリングラードに近いハリコフでは4度も両者の間で攻防戦が繰り返され多くの市民が巻き添えになった。

 戦後、激戦地となり人口が減少した東部やクリミアを中心として、多くのロシア人が移民として入り、このことは現在ウクライナ政府が抱える問題となっている。

 つまり親ロシア派勢力の誕生。

 ロシア人移民たちにとっては、西側に近い政策をとる現政権を認める事は出来ない。

 おそらく今回の問題も、要点はそこ。

 そして、親ロシア派は普通に国軍の中にも居るので、この様な裏切り行為が行われたのだ。

「さすがにキツイですね。それだと、もし次にウクライナ兵とこの森で遭遇したとして、それが敵か味方か分からないと言う事になりますが……」

「いや、まだ分裂前だと言う場合もあり得る」

「それだと、余計に厄介ですが、どうしたらいいのですか?」

「暫くは、ウクライナ兵に近づかないことだ」

「暫くとは?」

「おそらく、これはあくまでも私の推理だが、現在ウクライナ軍の動きが悪いのは、こうした味方内での裏切り行為に対して何らかの対策を撃っているからだと思う。対策が済めば、軍として機能する」

「そうあってもらいたいですね」

「ああ。悪いが死体を埋葬している暇はないから先を急ぐ。ウクライナ兵の中に裏切り者が居たと言う事は、ユリアたちが見つかってしまう可能性も高くなったと言う事だからな」

「つまり、奴等を追ってゆけば、ユリアの居場所に案内してもらえるって寸法だな」

「行くぞ!」

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