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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****202号機救助作戦(Unit 202 rescue operation )*****
30/301

【捜索①(search)】

『ナトー中尉、降下準備は整いましたか?』

「ああ。全員準備完了した」

『まもなく降下ポイントです』

「まもなく降下ポイント、ドアを開けろ!」

「ドア開きます!」

「ドア開きました!」

『降下10秒前、幸運を祈る……5.4.3.2.1降下開始!』

「Go! Go! Go!」

「案内感謝!ご無事で!」

『ご無事で!またお会いしましょう!』

 グージェルミン中尉は、コクピットの窓から開いて行く白い落下傘の花を見ながら、最後の言葉は屹度ナトー中尉には届かなかっただろうと思い少し悔しい気持がするのを感じていた。

 何故こんな気持ちになるのだろう?

 いつもなら次に会ったときに、最後に言った言葉が聞こえたかどうか聞けばいいだけの事。

 だけど今夜は訓練ではなく、ここは戦場。

 次に会えるかどうかなんて、だれにも分かりはしない。

 もしかしたらもう2度とナトー中尉には会えないかもしれない。

 そんな不吉なことを少しでも考えてしまった自分自身に腹が立ち、その事が最後の言葉を伝えられなかった悔しさに拍車を掛けていた。


 夜空に6つのパラシュートが開く。

 人数より1つ多いのは、無線機と食料、予備弾薬などの物資を別に分けて降下させたから。

 この様な低空での降下では、出来る限り身を軽くしておかないと、膝や腰が持たない。

 無事地上に降り立ちパラシュートを畳んで、とりあえず木の茂みに隠して自分の前に降りたトーニに合流する。

「大丈夫か?」

「大丈夫だ。こういう時、小さいと言うのは役に立つな」

「言える」

 トーニは冗談を言いながらも、目をギラギラさせて周囲を警戒していた。

 正しい行動。

 パラシュート降下で最もリスクが高いのは、降下直後の数分。

 こちらがまだ現在地や周囲の状況を把握しきれていない状況で、敵に襲われてしまえば無防備なうえに正しい退路さえも分からないまま右往左往することになってしまう。

 トーニの後はブラームと合流して、それから無線機などを乗せた物資のパラシュートの所に行くとモンタナとフランソワが居た。

 皆無事降下出来たので一安心。

 時刻は現地時間19時30分。

 早速物資を移動させブラームとフランソワを周囲の偵察に出し、モンタナとトーニに皆が適当に片付けたパラシュートを回収させ穴を掘って埋めた頃、偵察に出していたブラームとフランソワが戻って来た。

「どうだ?」

「周囲に人の気配は有りません」

「よし、トーニ無線のスイッチを入れておけ」

「了解」

「これから202号機の着陸地点に向かう」


 薄暗い夜道を静かに進む。

 21時、着陸地点の近くに到達。

 21時45分、着陸地点を発見。

 周辺に争った跡はなく、202号機の残骸だけが横たわっていた。

「結構スムーズに来ることが出来ましたね」

「ああ」

 しかし、何かがおかしい。

 何もないと言う事は有り難いが、何もなさすぎるのは逆に怪しい。

 無線機を置いて、今度はモンタナとトーニに周囲の偵察を、フランソワを見張りに立たせてブラームと2人で機内を調べる。

 先ずユリアの居たコクピットを見ると、計器類はそのままの状態で血痕もなかった。

 ガナーの方も似たような状態。

 通常の墜落なら縦に落ちる衝撃で計器類の止め金具がダメージを受け、パイロットたちはそれで足をやられるが、それがなかったと言う事はユリアとガナーは無事だろう。

 キャビンの方を見ると、ここには撮影機材や、銃、弾薬などの各種機材が散乱して、若干の血痕も確認したが内部の破損は軽微なものだったので、軽い怪我だけで済んだのかもしれない。

 ただし、こちらの座席は簡素なものだったので、骨など体の内部で起こったトラブル迄は分からない。

 それにしても見事な着地。

 まるで神業だ。

「中尉、少し疑問があるのですが、質問して構いませんか?」

「なんだ?」

「ユリア中尉の居場所は例の発信機で特定できているのではないですか?それなら何故ここへ来たのです?」

 確かにブラームの言う通り。

 ユリアが遭難信号の発信機のスイッチを入れていれば、ここに寄る必要も無いし、そもそも私たちがこの捜索に呼ばれるはずもなかった。

「ユリアは発信機を切っている」

「切っている!?」

「ああ、1度は確認されたが、その後数時間で切れた」

「それは?」

「機材の故障かも分からないし、故意に切ったのかも知れない」

「故意に切るなんて……」

「理由は、これからの捜索で分かるだろう。今は不明確なことを考えている余裕はない」

 実際問題、救難信号を切る意味が分からなかった。

 軍用の救難信号は、特殊な周波数が割り当てられているので敵に感知される確率は薄い。

 それに、その危険性を考えるなら、信号を入れっぱなしにせずに時々生存の証として入れればいいだけの事。

 もうひとつ気になるのは、この無線。

 私たちの到着は、私たちがリスクを抱えて発信しなくとも、空港に着いたグージェルミン中尉からウクライナ軍に報告されているはず。

 なのに、一向にウクライナ軍からの無線が入ってこない。

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