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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****将校としての最初の仕事(First job as an officer )*****
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【義勇軍②(Volunteer army)】

 編成が決まると即座に移動が始まり、真っ先に私たちの偵察部隊が現地に赴くことになった。

 出発はパリ15区にある第117パリ空軍基地。

 装備は今まで使っていたHK-416自動小銃ではなく、7,62mm弾を使用するAKM。

 これはウクライナ軍が装備するものと同じで、現地で弾薬の供給が容易に行われるための配慮。

 5.56mm弾を使用するHK-416では、弾薬が切れたときに現地調達が難しいからだ。

 空港に着くと軍用輸送機ではなく、イザック准将と民間のHONDAジェットが私たちを待っていた。

 まず准将から直接作戦計画書を渡され目を通すと、私にとっては初日から願ってもない任務が待っていた。

“202号機乗員救出作戦”

「これは?」

「君は、このために私たちを動かせたのだろう?だからご褒美だ」

「有り難うございます!」

「礼を言うのは早いぞ。202号機の墜落現場には既にウクライナ軍も救出部隊を派遣しているが、かなり難航している。現地に到着次第現地部隊と連携を取りユリア・マリーチカ中尉以下3名を救出してやってくれたまえ」

「承知いたしました。必ずや御期待に応えてみせます!」

 駐機している飛行機に向かおうとすると、イザック准将からまた声を掛けられた。

「ナトー中尉」

「はい何でしょう」

「君はパイロットの免許も持っていると小耳に挟んだのだが、間違いはないかね」

「間違いありません」

 これは正規に取得したものではなく、ある任務の際にサオリに貨物用のジェット機を操縦させられて覚えたものだが、その運行前に既に免許は取得したことになっていた。

「では、操縦も頼む」

「私が、ですか?」

「ああ。実は航空機は何とか手配したものの、パイロット迄は手が回らなくて1人は空軍の見習いパイロットを確保したが、肝心の機長クラスの手配が出来なかったのだ」

「承知しました。何とかやってみましょう」

「すまない」

「いえ。では失礼します」

 一刻も早く現地入りしたかった。

 ここからキエフ・ジュリャーヌィ国際空港までは約2000㎞。

 このジェット機なら約3時間で到着するだろうが、そこから202号機の現場までは直線でも150㎞近くある。

 道路状況にもよるが車で約5時間かかり、そこから徒歩で森の中を捜索することになるから、概ねユリアたちを見つけるまで10時間以上はかかる計算になる。

「義勇軍のナトー中尉であります。よろしくお願いします」

 コクピットに着くと、空軍の見習いパイロットらしき人物が航空機のマニュアルを広げていた。

「ナトー中尉です。宜しくお願いします」

「あっ、空軍のグージェルミン中尉です。すみません。俺、この飛行機初めてなもので……」

「マニュアルは、その一冊だけですか?」

「いえ、もう一冊あります」

 差し出されたマニュアルに目を通しながら、各部の点検を始めた。

 後ろのキャビンではモンタナとフランソワが狭いとボヤいている。

 さすがに190㎝もある大男が3人も乗ったのでは狭いのも当たり前だ。

 エンジンを始動させ各部の点検を済ませ、管制塔の指示を仰ぎ滑走路に進入する。

「慣れたものですね」

「いや」

 相手を不安にするのも悪いので、離着陸の経験が浅いと言う事は伏せておいた。

「離陸は、そっちでやりますか?」

「いえ、お任せします」

「では」

 スロットルを空け加速し離陸し、高度42,000フィートまで上がったところでオートパイロットに入れて作戦計画書を開いた。

 急ごしらえの作戦計画書には色々な箇所が抜けていて、このフライトに関してもキエフ・ジュリャーヌィ国際空港に着陸するところまでは記載してあるが、その後ウクライナ軍の誰に会いどの様な手順で現地に入るかの指示が抜けている。

 書いてあるのは現地の司令官がイヴァネンコ大尉であることと、その無線周波数だけ。

 まさか空港に着いて、現地に居るはずのイヴァネンコ大尉に車の手配を頼む訳でもないだろう。

 パリを出て丁度2時間が経過したときに、それまで黙っていたグージェルミン中尉が口を開いた。

「ウクライナ国境に入ります。降下の準備を」

「降下?パラシュートは持ってきていないぞ」

「トイレの向こうにもう一つドアがあり、そのドアの向こうにパラシュートが用意されていますので、それを装着してください」

「まさか降下は貨物室の扉を使うのか?」

「その通りです」

「つまりグージェルミン中尉は、夜間での低高度低速進入の訓練を受けているベテランパイロットと言う事ですね」

「すみません」

「つまりイザック准将に、そうしろと言われたというのですね」

「すみませんが、その通りです」

 騙された。

 そうとも知らずに私は、まんまとグージェルミン中尉をサポートするつもりで素人の分際で点検を行い操縦迄してしまった。

 恥ずかしいのと騙されたことで頭を抱えている私に、グージェルミン中尉が声を掛けてくれた。

「ナトー中尉は本当に、この機体は初めてだったのですか?」

「そうだが、なにか?」

「では、本当にあの時にマニュアルだけを読んで、点検と離陸を?」

「そうですが」

「失礼ですが、飛行時間は?」

「20時間チョイ。離着陸は今回で5回目です」

 そう言うと急にグージェルミン中尉が笑い出した。

「どうしたのですか?」

「私もイザック准将に騙された口です」

「と、言うと?」

「ナトー中尉はベテランパイロットだから、君は素人の振りをして学ばせてもらえと」

「そんな馬鹿な!」

「いや、でも、この飛行機自体初めてだったのは嘘じゃないし、マニュアルだって実際に分からない所があって調べていました。それを貴女は初めてなのに……イザック准将に見込まれるはずです。では御無事で」

「ああ、グージェルミン中尉も無事にフランスに戻ってくれ」

 コクピットを後にして私もパラシュートを装着するために貨物室に向かった。

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