【セルゲイを捕まえろ!②(Catch Sergei!)】
今度は分断ではない。
1人に対して2人掛かりの、同時攻撃。
このような戦いに慣れている私には問題ないが、慣れていないトーニにとっては、かなり不利な状況になる。
勿論その事は私にとっても不利な状況を作りやすい。
トーニの事に気を取られてしまったり、トーニを助けるために焦ったりしてしまうと墓穴をほってしまう。
つまり今の戦いの逆の事が起きるのを、セルゲイは狙っているのだ。
奴がトーニを残している訳は、私への足かせを狙ってのことだろう。
しかし、トーニは、そんなに簡単に“足かせ”になるような人間ではない。
だが、なんと言っても部隊内の格闘技成績が最下位のトーニが、スペツナズ2人を相手にするのは荷が重い。
しかしトーニは、思いもかけない行動を取ることで、事態を打開する。
なんと、その場から逃げ出したのだ!
私も面食らったが、もっと驚いたのはトーニの相手をするはずだった2人。
逃げるトーニを慌てて追いかける。
さすがトーニ。
不利な状況を打開するための、最良の一手を知っている。
これで私は目の前にいる2人に集中できる。
トーニは逃げ回りながらコンテナの陰から相手の足を引っ掛けて倒したり、不意に落ちていた物を拾って相手にぶつけたりと多彩な攻撃で敵を翻弄して、ついには2人共倒してしまった。
途中から新たに敵を投入されると困るので、私はトーニが戻ってくるタイミングに合わせて私の相手をしてくれていた2人を倒した。
「ナカナカやるな。しかし、お遊びはここまでだ」
セルゲイが再び指を鳴らす。
今度は指を立てない。
嫌な予感がした通り、残りの13人が輪を縮めて来た。
「敵の狙いはナトーだ。俺が敵の注意を引き付けておくから、その間に逃げろ」
「ありがとう。でも、それは出来ない」
「何故!?俺に構わないで、逃げろったら逃げろ‼」
ドンドン輪を縮めてくる敵。
それでもナトーは余裕の表情を浮かべて笑って言った。
「仲間を忘れたのか」と。
仲間のことは忘れねえ。
でもモンタナたちは、今頃ベラルーシの偽アジトに誘き出されて……。
「ようトーニ、頑張っているじゃねえか」
「はあ??」
なんで敵に励まされるのかと不思議に思っていると、声をかけてきた男が目出し帽を脱いだ。
「フ、フランソワ!オメー一体ここで何を!?」
「フランソワだけじゃねえぜ」
「ジェイソン!ボッシュ!」
次々に目出し帽を取る13人は全員ベラルーシに向かったはずの仲間たち。
おまけにハンス隊長やニルスに、帰国したはずのマーベリックも居る。
「こ、これは、どういうことだ‼」
俺様より遥かに驚いたのは、このアジトの主であるセルゲイ。
まあ驚くのも無理はねえ。
テメーの仕掛けた罠に引っかかったと思っていた奴らが、目の前に現れたのだから。
「ごめんなさいね。貴方がチェルノブイリから逃げ出したときから、既に貴方の捕獲作戦が始まっていたの」
セルゲイの背後に居た部下たちの最後尾から声がしたと思うと、目出し帽を脱いだエマが居た。
「俺を守れ‼」
セルゲイが残った部下たちに命令し、乱闘が始まる。
銃を使わないのは、各々の距離が近過ぎで下手に拳銃を使うと同士討ちにもなりかねないから。
人数が多いのでグチャグチャの乱闘。
さすがに取り巻き連中は猛者ばかりで、苦戦しているが、徐々にこちらのペースになってゆく。
「一緒に戦わなくて良いのか?」
観戦を決め込んでいた私に、同じく観戦していたトーニが話しかける。
「いいよ。私達は、もう充分に戦った」
「だな」
「それよりもセルゲイを見失うな。奴は逃げるかも知れない」
「まさか、ここはヤツのアジトだろう?逃げる場所なんて……あっ!ヤロー逃げやがる!」
「追うぞ!」
予想通りこの乱闘に乗じてセルゲイが逃げ出した。
とりあえず乱闘に加わっていなかったトーニと私の2人でセルゲイを追った。
倉庫から出て外に出ると、ヴィクトルとシモンの乗るトラックが門の前に出て、逃げようとするセルゲイの車の進路を塞ごうとして動き出すのが見えたので私は「車から直ぐに降りろ‼」と大声で叫んだ。
私の声に驚いて、慌てて車から飛び降りる2人。
セルゲイの車から機関銃が運転席に向けて乱射され、門を出て行く。
ヴィクトリとシモンの側に駆け寄り、無事を確認して何人乗っていたかと聞くと、2人共「4人」だと答えた。
さすがに優秀な生徒だけのことはある。
こんな危険な場面でも、チャンと命令を聞き、敵から目を離さないでいるとは立派なものだ。
「トーニ、追うぞ!」




