【クラウディー救出作戦①(Crowdy rescue operation)】
「よし、私たちも行くぞ!」
「トンヅラか!?」
「いや、クラウディーを助ける!」
「なんでアイツを助ける?クラウディーはナトーの命を狙っているんだぞ!それに殺すのなら、もうあの倉庫で……」
「いや、あの倉庫から銃声は聞こえていない。それにクラウディーには、まだ利用価値がある」
「利用価値?」
「彼女はPOCでサラのボディーガードをしていたから、サラの素性やPOCの秘密の部分も知っている可能性が有る。それに」
「それに?」
「確かにクラウディーは私の命を狙っているのは知っているが、命を取られたわけではないだろう?それよりも早く見つけないとセルゲイがクラウディーの命を奪ってしまう」
「でも、秘密を探るんじゃなかったのか?」
「クラウディーの気性から考えると、セルゲイの怒りを買いかねない。なにしろ、ブレジネフの命を奪った奴だからな」
「そりゃ大変だ!でも、いいのか?アイツの執念は1度や2度命を助けられたからって、ナトーの命を奪う事を諦めねえように感じるんだが」
「それでも構わない。肝心なのは余分な死者を出させないことだ!トーニだって、そのための消火器爆弾だったんだろう?」
「い、いや、あれは……」
いつの間にかナトーの考えと時分の考えが、リンクしていることに気が付いて驚いてしまった。
昔の俺ならあの時、ひたすら拳銃を撃ちまくって“弾がねえ!”と喚いていた事だろう。
それが消火器を使う事によって、ワンカートリッジで事が足りた。
でもマダマダ。
まさか自分の命を狙っているクラウディーを助けに行くとは思っても居なかった。
こういう時は意地でも止めるべきなのだろうが、俺はナトーの好きなようにやらせることにした。
無責任じゃねえ。
ナトーの人生は、ナトーらしく、ナトーが決めるもの。
俺は、それをサポートしてやりてえ。
いざと言うときには、ナトーの楯として守ってやりてえ。
屹度、俺はそのために生まれて来て、外人部隊でナトーと出会ったんだ。
「行くぞ!」
「おお!……でも、クラウディーの居場所は、どこだ?」
「おそらく、まだ倉庫に居るはずだ」
「そりゃあいい。来た道を引き返すか」
「いや、手っ取り早く、窓から飛び降りる」
ナトーが言い終わる前に窓から飛び降りた。
普通の家の2階の窓から飛び降りるのとはまるで高さが違う。
なんたって工場の2階だから、どちらかと言うと2階の屋根の天辺から飛び降りるのに近い。
ナトーは無事着地したみたいだが俺は自信がねえから、不細工だけど一旦窓からぶら下がった所から手を放して降りた。
身長分低くしたって事。
恰好悪いが、着地の際に捻挫して戦力にならなくなるよりはマシだ。
つまり、良い恰好したいだけで無理をしちゃあ元も子もないって事。
逃げる私たちに向けて発砲されて空いた穴から倉庫の中を伺うと、暗い倉庫の中で縛られたクラウディーが2人の見張りに監視されていた。
その状態が少し異様に思えたので注意して見るとクラウディーは両手を後ろで縛られていて、足は膝と足首を縛られていて足首を縛っているロープは体が伸びないように手を縛っているロープと結ばれて、柱を背に当てて空気椅子状態になる様にさせられていた。
しかも酷いことに、空気椅子状態からお尻を地面に着かせないように、柱の上部から伸びたロープが首に巻き付けられている。
要するに空気椅子を緩めると、首が閉まると言う寸法。
「ひでえな、これじゃあ虐待じゃねえか」
たしかにトーニの言う通り虐待だ。
体を伸ばすことは出来ないから、いつまでも空気椅子を続けるしかない。
できなくなれば自らの体重で、自らの首を絞めてしまう。
なんとも汚い縛り方。
「入るか?」
「いや、このままドアを開ければ、外光が入る事で簡単に敵に私たちの侵入を察知されてしまう。だから、このドアよりも大きな板切れを探す」
「了解」
さすがに元工場だけあって、大きな板切れは直ぐに見つけることが出来たので、その板でドアを覆ってから中に忍び込む。
見張りは2人。
「銃でやるか?」
「いや、銃は極力使わない」
「そう来ると思ったぜ」
トーニが楽しそうな笑顔を向けてくれた。
通信室で更に2丁の拳銃を押収しているから、トーニだけでなく今は私も銃を持っているし、予備のカートリッジもお互いに2つ以上は有るので弾にもそう不安はない。
でも、できるだけ銃は使いたくない。
出入り口のドアに衝立を立てている以上、発見されるまでそう時間は掛からないはずだから、その前にクラウディーを救出する。
壁伝いにクラウディーが拘束されている場所に近付いて行く。
他に誰かに見張られていないか細心の注意を払いながら進み、コンテナの影を上手に使いなら近付いて行く。
クラウディーとの距離が5mまで縮まったとき、その過酷な状況が確認できた。
ただの空気椅子ではない。
背中にある鉄の柱には、のこぎりが結びつけられてあった。
つまり空気椅子を楽にしようと背中を柱に押し付けると、のこぎりの歯が背中に食い込み、それが嫌で背中を離すと足への負担が大きくなる。
もうクラウディーの足は限界近くに達していてプルプルと小刻みに震え、耐えかねて背中を柱に付けては、のこぎりの歯が食い込みギャーと悲鳴を上げる。
「なんて、酷えことを……」




