【セルゲイのアジト①(Sergeis hideout)】
通路を抜けて次の建物に入ると、直ぐに見張りに出くわして、これを倒して武器を奪う。
見張りが所持していた銃は、ロシア製MP-446 ヴァイキング。
この銃は軍用銃として2008年に採用されたイジェメック MP-443グラッチの民間バージョン。
威力の高い軍用弾薬(7N21弾)を発射できない様に改造されてはいるが、その分耐久性が上がり、フレームの材質にポリマー素材を採用してグリップ感が増し軽量化にも成功している。
一応、罠の可能性も考えて銃及び銃弾の確認をして、トーニに渡す。
「俺は後で良いから、ナトーが持てよ」
「ボディーガードが素手でどうする?」
「でも」
「言っておくけれど、ボディーガードに守られる女王様は普通、銃は持ち歩かないはずだ。それでも私に持たせるつもりか?」
「いや、分かった。でも、次の分は持ってくれよ」
「当たり前だ。では、それまで頼む!」
「あいよ!」
トーニは、いつも私の事を大切に思ってくれているから、そこのところを上手に伝えれば素直に言うことを聞いてくれるから好き。
こう言うところはハンスも似ているところはあるけれど、トーニの方がヤザに似ている。
んっ!?。
べ、別にヤザに似ていようが、似ていまいが何も関係はないけれど……。
「どうしたんだ?」
「えっ、なにが??」
「顔が少し紅いぜ」
「走ったからな」
「そうか」
なにか余計な事を考えていて、勝手に頬が赤くなってしまった。
なぜこんな時でも、人の事を愛しく思うと心が暖かくなってしまうのだろう?
グリムリーパーと呼ばれていた頃……いや、つい最近まで、こんなことは無かったのに。
「追え!追え!男の方は射殺しても構わんが、女の方は無傷で捕えろ!」
くそう!なんて奴なんだ。
戦いながら脱出ルートを探していたなんて、さすがにグラコフやツポレフが敗れるわけだ。
部下にするには多少の時間はかかるだろうが、あの女と組めばどの様なミッションも易々とクリアできるだろう。
元グリムリーパーと呼ばれていただけで、その筋の人間は震えあがる。
でも、それだけの女じゃない。
なにせ俺の計画を全て打ち壊した張本人。
弱点があるとすれば、正義感が強いと言うところだけだろう。
何しろ、正義と言うやつはルールに厳しい。
正直、奴が手に入るなら隊員の命や金なんか、いくらでもくれてやる。
奴に拘るもう一つの理由は、俺の後継者として充分託すことが出来る器量の持ち主だから。
なにせ四捨五入すれば俺ももう50歳、いつまでもこうして現場の指揮が取れる歳ではなくなってきている。
「おいっナトー!逃げるだけなら、外に向かった方が、良くはないか?」
「悪事が降りかかった時に、逃げ回っているだけでは何も解決はしない!」
「2人だけで、戦うのか?」
「嫌か?」
「いや、嫌じゃねえ。ナトーとなら、たとえ地獄の底に堕ちる様な闘いであろうとも、俺は大歓迎だ」
「すまない」
「いいってことよ。俺にとっては、むしろ有難てえこった」
「ありがとう。兎に角、戦うのは最終手段として、とりあえず証拠を探す」
「証拠!?」
「そう。奴等が誰の目から見ても悪党だという証拠だ」
「証拠が何になるんだ?」
「証拠は私たちの味方になってくれ、奴等を孤立させてくれる」
「なるほどな。でも、それはエマたちがベラルーシに行って見つけるんじゃねえのか?」
「ベラルーシのアジトは囮で、こっちが本物のアジトだ」
「じゃあ、エマたちは……」
「とりあえず通信室を探す!」
この建物に入る時、2階の角部屋の側面から配線が屋上に出ていたので、そこを目指して行った。
道中には他に1人の見張りとしか出合わなかった。
おそらく大部分の兵士を倉庫に連れて行っていたのだろう。
3階に着き、角部屋のドアを蹴破って中に飛び込むと、そこはやはり通信室だった。
ヘッドフォンを付けた2名の兵士が、慌てて拳銃を抜こうとしたが、体ごと飛び込みざまに2人の拳銃を払い落とす。
体重を浴びせた1人が机の角に激しく腰を打ち怯んだ隙に、もう1人の顔面にハイキックをお見舞いしてノックアウトして、後ろ向きのまま机に腰を打った男の腹に肘打ちをお見舞いして倒した。
「おいおい、2人の敵に対して2秒も掛かってねえぜ。相変わらず凄えな」
トーニが倒すのに要した時間を告げる。
初めて会ったときもそうだった。
“おい、17秒だぜ!こりゃあデンゼル・ワシシ●ト●より、二秒早いぜ”
今でもハッキリ思い出す。
あれはモンタナを倒したときに言ったトーニの言葉。
ブラームの時は、新記録だと言ってくれた。
その時は“ウザイ奴”と思っていたけれど、早く倒したことに驚いてくれて私は正直言うと気持ちが良かった。
口は悪いけれど、ひょっとしたら入隊試験を受けに来た時からトーニは私を応援してくれていたのかも知れない。
「通信記録を抜き取るから、ドアの外を見張っていてくれ」
「あいよ!」
データーの抜き取りは時間が掛かるので、機器のハードディスクごと抜き取る事にした。
手っ取り早く壊しても構わないが、その場合ハードディスクを修復しなければならなくなり、決定的な証拠としてしては、いささか難癖が付けられる恐れもあるのでパソコンをシャットダウンしてから抜き取る事にした。
廊下の向こうからバタバタと、人が歩く音が聞こえた。
「来たぜ!」
普段通りのトーニの声が、私にその事を伝える。
コイツも、ナカナカ度胸が据わっている。




