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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
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【エマの新しい作戦①(Emma's new strategy)】

 基地に戻るとハンスの車がなかったのでニルスに聞くと、夕方に開かれる国防省の会議に出席するために出て行ったと言っていた。

 佐官になり、特に基地の最高責任者となったハンスは忙しい。

 折角、エマの歓迎会なのに……。

 でも、会議がなくてもハンスは忙しいから出席したとしても、どうせ顔見せ程度しか出来ないんだろうな。

 男性は、出世するとドンドン忙しくなり、遠くに行ってしまう。

 基地ここに来て、ゆっくり話をしたことなんてあったかな……。

「おーい、ナトー始めるぞー……」

 司令部でボーっとしているところに、トーニが呼びに来た。

「ああ」

 私が席を立ったというのに、トーニは突っ立たまま。

「どうした。呼びに来たのではなかったのか?」

「隊長は、いねえのか?」

「ああ、夕方から国防省の会議で出ている」

「日にちを変えるか?」

「もう皆が集まっているんだろう」

「なぁ~に、俺たちは出動の無い時は、ただの暇人だ。日程の変更ならいつでもできる。ちょっと皆に声を掛けて来らあ」

「待て」

 立ち去ろうとするトーニを止めた。

 日にちを変えたところで、急用や来客が入ればハンスはそれを優先しなくてはならない。

 何もなくても、今のハンスにユックリ皆と酒を飲む暇などないから、途中で直ぐに退席してしまうだろう。

「一旦今日やると決めた事は、絶対に先送りにしてはならない」

「でも」

「もし明日何か重大な事件が起こって、隊員の誰かが死んだとしたら必ず今日やらなかった事を後悔するだろう。確かにハンスは忙しい。だが私たちの仕事に明日生きて基地に帰れるという保証はどこにもないだろう?」

「ナトー……」

「さあさあ、皆が集まっているんだろう。パーティーはいまやらなくっちゃ!」

 私は無意識にトーニの腕に自分の腕を巻き付けて、まだ躊躇っているその体をグイグイ引っ張りながらパーティーの行われるサロンへと向かった。


「おっ、トーニがナトーを連れて来た……いや、ナトーがトーニを連れて来た」

「なんだそれ?」

 外に出ていたボッシュの言葉に反応して、カールもサロンの外まで出て来た。

「見ろよ、ありゃあナトーに連行されているみてーだろ」

「いや連行じゃあねえ淫行だ」

「淫行!?」

「見てみなナトーに掴まれているトーニの腕を」

「腕……?」

「よく見ろ。トーニの肘がナトーのボインに密着しているだろう」

「おっ、本当だ‼」

「さすが、えろカール!見る所が違うぜ!」

「まあな」

「さあさあ、2人とも、まだ準備は終わっていないのよ」

 エマが出てきてボッシュとカールの腕に自分の腕を絡め、グイグイと自慢の巨乳に擦り付けるように抱くと、2人とも見事なばかりに鼻の下を伸ばしながら連行されて行った。

 ナトーが到着して、全員でパーティーの準備をする。

 パーティーと言っても特別な食事は無くて、いつもの部隊食に酒が付いているだけ。

 酒は各自の自前。

 部隊食とは言っても、事前に厨房に声を掛けておいたので、フライドポテトやソーセージなどの酒の肴は多めに作ってもらっている。

 もちろんトーニがナトーのためにサラダとフルーツも多めに頼んだのは言うまでもない。

「ふう、疲れた」

 張り切りすぎて額の汗を拭くエマにタオルを渡して聞いた。

「どうして自分の歓迎会なのに、エマが張り切っているの?」

「私の歓迎会だからこそよ」

「えっ!?」

「折角皆が私のために準備してくれても、それに不備があったら台無しでしょう?それに対して招待される側の私は、文句も言えなければ不機嫌な顔もできない。だから自分で率先してやるの」

「それって、信用していないってこと?」

「まさか。信用云々ではなくて、彼等に覚えてもらうためよ」

「覚えてもらうって?」

「私のために開くパーティーを私と一緒に準備すれば、2回目以降はどうしたら私が喜ぶのかコツが掴めるでしょう」

 さすがエマ!

 まさか2回目以降の事まで考えているとは……。


「乾杯‼」

 食前酒のサングリアで乾杯。

 サングリアはフレーバードワインの一種で、今日テーブルに並べられているのは白ワインにコアントロー(リキュール)を合わせ、串切りに切ったオレンジの皮を半分まで剥いたものがグラスに引っ掛けられている。

 なるほど、エマならではの凝った演出で見た目も鮮やか。

 部隊食の普通のサラダにも、誰かが持って来たアンチョビが添えられ豪華に変身していて、もうひとつの器にはペンネとビーンズとトマトのサラダで色鮮やかだった。

 “あれっ!?手が入れられているのは、私の食べる物ばかりじゃない??”

 ようやく気が付いたとでも言う様に、ソーセージを口に咥えたエマが横目で私を見てウィンクした。

 “えっ、ひょっとしてエマは私の為に張り切ってくれていたの!?”

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― 新着の感想 ―
[一言]  エロカール。笑  パーティー用のお料理やお酒にも詳しいんですね❗  やっぱり湖灯様はただ者ではないですね。
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