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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
262/301

【故郷に帰る仲間たち(Friends returning to their hometown)】

 健康診断の終わった隊員たちと、数台のバスに分かれて基地に戻る。

 モンタナたち隊員は、個別にどこで何があったのかの報告を、私は司令部で報告書を書いていた。

 ひとつひとつの事実を事細かに。

 駅での戦い、ホテル・クレオサン、シェルターへの移動、青いビルでの戦い、そしてシェルター内部でのコントロールルーム、タービン建屋……。

 ただし、原子炉建屋内での出来事だけは嘘を書くしかなかった。

 書けば、サラに迷惑が掛かる。

 私が黙っている限り、誰も知り得ない。

 ……いや、ひょっとしたら1人だけ知っている可能性はある。

 ユリアだ。

 サラが私の前に現れたのは、ユリアのドローンが被弾したあと。

 そのとき既に通信は途絶えていたが、主循環ポンプ室の隣にあった配管室でアクシデントがあり、2人ともライトを落としてしまったとき何故かユリアのドローンがLEDライトを光らせて助けてくれた。

 通信機能などは途絶えていたはずだが、あのタイミングが偶然だとはとても思えない。

 ひょっとするとユリアは何かを知っているのかも知れない。

 もしユリアの書いた報告書と私の報告書が違えば、間違いなく疑われるのは単独行動をしていた私。

 言い逃れは出来ないけれど、たとえ除隊処分になったとしても、サラの事は隠し通さなければならない。

 それは、家族を守るため。

 報告書を書き終えて、しばらく考え事をしている所に、そのユリアがやって来た。

「あら、ナトちゃんもう報告書終わったの?」

「うん」

「さすが、早いわね」

「あったことを書くだけだからな……ユリアは、もう、出したのか?」

 言いながら、喉がカサカサになるのが自分でも分った。

「もう出したわよ。だって原子力建屋でドローンが壊されてから後は、メリッサのサポートをしていただけだもの。それに健康診断も無かったから」

「LEDを光らせたのは?」

「LED?知らないよ。なに?」

「配管ルートでライトを落としたときに、ドローンのLEDライトが急に光ったおかげで助かったんだ」

「屹度それは機械からのメッセージだと思うわ」

「機械からのメッセージ?」

「そうよ。機械は生き物じゃないなんて私は思わない。特に最近の機械はAIを搭載して学習能力があるから、自分が誰にどの様に使われているのか分かるのではないかしら。きっと機械なのにまるで私の様に思ってくれていたから、ドローンはユリアとしてナトちゃんのために最後まで頑張ったんじゃないかな」

「うん!」

 ユリアの言葉が嬉しかった。

 それは、サラの事を知らなかった事ではなく、私が大切に思っていたドローンの事をユリアも大切に思ってくれていたこと。

 苦楽を共にする以上、人も物にも違いはないのだ。


 プリピャチでの戦い以降ウクライナは平和を取り戻し、各国の部隊も次々に規模を縮小したり帰国したりしていった。

 我々フランス外人部隊も被害の大きかった空挺部隊が帰り、その後LéMATもマーベリック中尉と共に帰国して、残ったのはG-LéMATとユリアやサオリ達などの応援部隊の面々だけ。

 そして今日は、夏休みの課外研修で来ていたメリッサたちが帰る。

「ユリアさん、いろいろお世話になりました」

「また遊びにおいで。今度はドローンではなく、本物のヘリコプターに乗せてあげるわ」

「ユリアさんもフランスに遊びに来て下さい」

「あー……お金たまったらね。なにせウクライナと違ってフランスは物価が高いから」

「パイロットなんだから、フランスに来れば良い給料もらえますよ」

 と、お坊ちゃん育ちのヴィクトルがユリアに失礼な事を言ってヒヤッとさせた。

「いいよ、ヨーロッパ最貧国と言われて貧乏なのは知っているけれど、国内に居る限り物価は安くて住みやすいから」

 ユリアの言う通りウクライナはヨーロッパ最貧国と言われるが、それは先進国に比べての事で国内の経済格差はアフリカ諸国の様に激しくはなく、むしろ先進国のどの国よりの格差は少なくて済みやすい。

 そしてやはりユリアは大人。

 ヴィクトルの子供様な発言にもチャンと優しく対応できる。

 これがトーニやフランソワ達だったら、たちまち喧嘩だ。

「じゃあ、ナトちゃん。またフランスで会いましょう」

「ああ」


 メリッサたちが帰った後は、ユリアに隊への復帰命令が来て基地を後にした。

 そしてその次はヤザ達も。

「いよいよ日本に帰るのか」

「ああ、まさか俺の一生で“日本に帰る”と言う日が来るとは思わなかったよ」

 帰る前日の夜、ヤザと2人で基地の周りを散歩した。

「日本はどう?上手くやっていけそうか?」

 頭も良く人付き合いも上手いレイラは上手くやっていけるだろうが、15年も戦争に明け暮れていたヤザが心配だった。

「大丈夫だ」

「もう故郷には戻れないぞ」

 テロ組織としてみなされていたザリバンで名を馳せてしまったヤザは、もう中東には戻らない事を条件に日本への入国を認められた。

 投獄はされてはいないが、その動向は今も監視されているに違いない。

「日本人の良いところは、何事も暴力で解決しようとは思わないことだ。だから治安が安定している。けれども、それが本当に良いことだとは思えない。俺は、日本人はもっと裕福だと思っていた。ところがどうだ、70を過ぎた老人がバスやタクシーやトラックを運転して、コンビニエンスストアでも働いている。福祉と言うものがまるで存在しないのかと思ってしまう。ヨーロッパや中東でこんな状況が日常化すれば必ず暴動が起こるはずだ」

「やめろよ」

「もちろん、やらない。だけど不安になる。平和はいいが、平和ボケし過ぎているんじゃないかとな」

「たしかに……」

「でもまあ、戦争で家族を失う事を思えば、充分幸せだ」

 ヤザはそう言って、私の肩をポンポンと叩いて笑った。

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