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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
256/301

【ポリーシャ・ホテル③(Polesia Hotel)】

 ロシアの将校にしては、かなり出来るし、部隊の統制も良く取れている。

 兵士にモニターを持って1人で確認に向かわせたのは、私の話しを信用しているからに違いない。

 屋上から見ればシェルター付近が完全にウクライナ政府筋の管理下に置かれていることが分かり、頼みの綱だったシェルター方面での反撃が潰えていることがハッキリと分かる。

 しかもモニターを持っている男が、セルゲイがそこで何をしようとしていたかや、1人で逃げてしまった事なども喋ってしまい抵抗する意思が挫けてしまう。

 こういう話しの伝達速度は思った以上に速いから、自身がホテル内に戻った頃には投降する話も切り出しやすくなっているはずだろう。

 ただ良いことばかりでもない。

 中には、仲間を殺されたまま引き下がる訳にはいかないと思う兵士も居るだろう。

 実は、この交渉は行きよりも帰りの方が度胸を試される。

 敵に後ろから撃たれるのを恐れて、あたふたと戻っては敵からも見方からも笑いものになってしまい、折角交渉で得られた信用も丸潰れになってしまう。

 かと言ってみすみす敵兵に撃たれでもすれば、味方も黙ってはいないだろうから、これでもまとまりかけていた交渉は潰れてしまう。

「私たちは、これ以上無益な争いはしたくありません。是非、最良のご決断をお考え下さい」

「条件は?」

「全員の武装解除と潜伏しているものが居れば、その者への投降の呼びかけ。こちらからは貴方方の名誉を守るため、氏名の非公開と戦闘中の犯罪行為がない限りは一定期間収容所での労働をしてもらった後、随時解放する条件でどうでしょう?」

「分かりました。部下と考えて決めさせていただきます。回答期限の猶予は?」

「ご納得が行くまで」

「有り難う」

 ザイツェフ大尉が握手をするために手を差し出したが、握手は万事終わったあとでこちらからさせていただきたいと断り、ついでに一言付け加えた。

「握手をした後の帰り道で、狙撃されれば交渉は御破算になり、私たちも只のピエロになってしまうでしょう」と。

 私たちはお互いに敬礼をかわして、来た道を引き返す。

「振り向かなくて良いのか?」

「ああ」

「でも、後ろには目は付いてねえんだぞ」

「大丈夫、前には付いているから」

「そりゃあ、前には付いているけど……ああ、そう言うことか」

「そう言うことだ」

 目の前に見えるエネルゲティック文化会館の至る所から銃が飛び出していて、ホテルの窓と言う窓を狙っている。

 もちろんその窓の奥には敵の狙撃兵たちが居る。

 ブラームやモンタナ、フランソワにジェイソン、ハバロフ、キース、イライシャに衛生兵のメントス。

 そしてマーベリックにハンスまでも。

 我々3人は、皆に守られて最後まで堂々とエネルゲティック文化会館の階段を登り建屋の中に入って行った。


「ふえ~っ、寿命が10年は縮んだぜぇ」

 建物の中に入った途端、トーニはダウン。

「よくやった」

 トーニとカールに礼を言おうと思ったが、何故かカールは居なかった。

「カール……」

 探そうと思って辺りを見渡していると、いま一番合いたくない人物が私目掛けて走って来るのが見えた。

「この馬鹿野郎‼なぜ白旗を持って行かなかった」

「すまない、外に出る前に靴ひもを直すとき壁に立てかけていたのをうっかり忘れて出てしまった。取りに戻ったほうが良かったか?」

 取りに戻ったら、完全に馬鹿だ。

 それに白旗を掲げていても、撃たれないと言う保証はない。

 戦闘中に白旗を上げる行為は、抵抗しない意図を表明するものであり、これを保護する義務はない。

 これがまかり通れば、相手を殺すだけ殺しておきながら、一旦不利となれば直ぐに白旗を上げる卑怯ともとられかねない行為が横行する事になってしまう。

 戦争における降伏とは敵味方双方の指揮官が相手の軍隊に対して軍使を送るなどして、降伏の条件などの交渉がまとまり、降伏による身柄の保護責任が発生する事になって初めて成立する。。

「なら、なぜ武器を帯同して交渉に向かった!?」

「戦闘中だから、当然だと思うが。それともハンス司令は未だ降伏の意思を示していない相手の陣地に丸腰で行けとでも?」

 ハンスは珍しくカンカンに怒りながらも交渉の結果を聞いて来たので、条件等を提示してきたことと交渉の回答期限を話した。

「無期限だと!?馬鹿な、応援の部隊が来るまで待たれでもしたら、今度は俺たちが不利になっちまうんだぞ‼」

「そうは、ならんだろう」

「何故言い切れる」

「無期限と言う太っ腹な条件は、余裕のあるあるもののみが出せる条件だからだ」

「俺たちには、もう余裕などない」

「だが、向こうは知らない。ホテルを囲まれ、シェルター付近にはウクライナ政府機関の車両が溢れ、総指揮官のセルゲイは部隊を見捨てて逃亡した。たとえセルゲイからこれから1万の兵を送るから現地に留まるように命令されたとしても、彼等にはその情報が信用できるとはもはや思えないだろう?だから期限を切って焦らせるより、無期限の方が効果はあると思った」

「好きにしろ!」

 ハンスは本当に怒って帰ってしまった。

「大丈夫なのか?隊長を怒らしちまって」

 傍で聞いていたトーニが心配してくれた。

「仕方ないさ。ハンスの言うことは全部正解で、模範解答。ただ私は私なりの信念を通した。怒りながらもそれを許してくれるハンスは、やはり隊長として偉大だよ」

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