【サプレッション・プールの戦い②(Battle in the suppression pool)】
2人倒したのはいいが、それからは激しい敵の攻撃に合い1人倒すのがやっと。
いくら配管を貫通してくる確率は低いと言っても、いざ貫通されれば当たってしまうし、配管の隙間を通って来る弾もある。
しかも私が相手にしている敵の射手は6人。
AS Valの発射速度は毎分800~900発だから仮に5人の射手に同時に撃たれると一瞬だが毎分4000~4500発レベルの銃弾を浴びることになる。
これは艦船に搭載される近接防御用のCIWSファランクスを相手に、十三年式村田銃で戦っている気分だ。
(※1874年にフランスで開発されたグラース M80 M1874小銃を元に、日本で改造生産された単発式の歩兵銃。おもに日清戦争まで活躍した)
戦いの中、私は徐々に後退して行った。
「トーニ君、ナトー隊長が後退している!」
「の、様だな」
「応援に出なければ!」
「駄目だ、今動けねえ」
「どうして!」
「ナトーからGoの合図が出てねえからだ」
「でも」
「まあ見てなって」
さすがに敵も原子炉の下に入るのは怖いらしく、私の左手から回り込もうとする奴はいなかった。
正面と右手に注意を払いながら、ゆっくりと後退する。
途中からメリッサが来てくれたので、私は右手側の警戒から解放され、守勢から攻勢に移る事にした。
実は後退していたのは敵に圧された訳ではなく、ある意図があっての事だった。
それは敵の素晴らしい破壊力を最大限、利用させてもらう事。
敵は私の周りにある配管類を軒並み破壊しつくしながら前進を続けてくれた。
おかげで私からの視界は随分と改善された。
奴等が今いる地点は、奴等が自ら破壊して隠れるスペースがホンの少しになってしまった場所。
獲物を追い詰めるハンターにでもなったつもりだろうが、草原のど真ん中に出てきてしまった人間ほど弱い生き物はない。
構造物によじ登り、梁の影から敵の接近を待つ私は、まるで獲物を狙う豹。
奴等の視線は自らの目線より下に集中している。
私が攻勢の機会を狙っているとは全く思っても居ない様子。
いよいよ梁の影からでも敵の姿が見えるようになり、私は狙いすまして拳銃を撃った。
パンパンパンパン。
サプレッサーの付かないスタームルガーLCRが久し振りに戦場らしい音を奏でる。
6人のうち一気に4人を失った敵2名が慌てて逃げた先には、予想通りトーニが待ち構えていて同じLCRの発射音が7発響いて残りの2人も倒れた。
「さあ、爆弾を処理するぞ!」
「あいよ」
丁度その頃応援部隊が到着したらしく、派手な撃ち合いが始まった。
何故、派手かと言うと、応援部隊はチアッパのサプレッサーを外して撃っているから分かりやすい。
ブラーム、ジェイソン、カール、キース、イライシャの5人。
直ぐにモンタナとフランソワも外して7つになった。
音の効果は大きい。
どんどん敵が後退しているのが分かる。
誰かが突入したらしく、次第に近接戦闘でのLCRの音が響き渡り、敵のAS Valによる破壊音が少なくなって行く。
こうなればもう大勢は決まったようなもの。
あとはこっちに逃げて来る敵に注意を払うだけ。
爆発物の解除はトーニに任せて、私はブレジネフを隣に置いて周囲の警戒に当たる。
ブレジネフが放射線測定器を取り出して見る。
測定値は80ミリシーベルト。
派手に壊した割に、放射能濃度は左程上がっていないのは、サプレッション・プールだからなのだろう。
ここは主には加圧された配管内の水蒸気を冷却するためや、炉内の水が緊急的に不足した時に水を供給するための施設。
「おい、まだなのか?」
「早くしねえと、爆発しちまうんじゃねえか」
「うっせえな、黙っていろ!」
敵を掃討し終わったモンタナたちがトーニの傍に集まって来て弄っている。
まだ爆発物の解除が終わっていないと言うのに、もう任務が終わったような安堵感が漂う。
パーン。
その雰囲気を切り裂くように、突然響く銃声。
皆が周囲を警戒し、慌てて散会する中、トーニが1人だけ爆発物にもたれ掛かるように俯せになって動かない。
「トーニ‼」




