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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
243/301

【原子炉建屋へ②(To the reactor building)】

 我々は一旦原子炉建屋を出て、タービン建屋に戻った。

「私はこれからこの屋上に上がる。ブラームとイライシャはここに待機しろ」

「上がるって言っても、屋上に続く階段は見あたりませんが」

「この上にある天井クレーンまでは上がれるから、そこから後は構造物を使って登るしかないだろう」

「でも……」

 構造物を使って登ると言ってもパイプとかは無く、あるのは頑丈な鉄骨や鉄筋だけで、簡単に屋根の上に登れる構造ではない。

 いくら将校で、上官にあたると言っても、年齢的に私の方が3つも下になるからイライシャが心配してくれる。

「大丈夫だ。私は体重が軽い」

「でも、その手袋じゃあ……」

 たしかに放射線防護用の手袋では無理だから、登るまで外しておくと言って放射線測定器を見せた。

「600マイクロシーベルト。パリ~ニューヨーク間を3往復した程度だ」

 私が登ってから連絡するまでは、いま原子炉で撃ち合いをしている敵が戻って来るかも知れないので、ここに待機しておくように言い残して天井クレーンに向かった。

 視界の邪魔になる頭巾と手袋はリュックに仕舞い、天井クレーンから鉄骨伝いに天井を支える構造物にぶら下がる。

 下を見ると、下から見上げたときよりも高く見えるのは毎度のこと。

 横にしてみれば、たかが12mの距離。

 オリンピックの短距離ランナーなら僅か1秒で通り過ぎる距離だし、走り幅跳びの世界記録は8m95なのでホンの少し高低差があれば飛び越えられるのかもしてない。

 だけど、それを縦にしてしまう話は別。

 走り高跳びの世界記録は2m45で、器具を使った棒高跳びでも6m14。

 所詮人は重力に逆らえないから、高いところから下を見るとより高く感じてしまう。

 これは脳が正常に機能している証拠で、逆に燃え盛る高層ビルから飛び降りる人たちは、炎や煙への恐怖心が勝ってしまい高さへの恐怖心が無くなってしまうから飛び降りることが出来る。

 強度を保つために斜めに張られた“張り”は細くて持ちやすいが、もう40年近くメンテナンスされていないので溶接やボルトが緩んでいる場合も考えられるので触らない。

 一旦外れてしまえば、床に叩きつけられる。

 高さ12mから0mまでに要する時間は1.56秒、平均落下速度は時速55,23km、この時に私が受ける衝撃は140トンにものぼる。

 などと、退屈しのぎに計算して遊んでいる間に、屋根の穴が見えて来た。


「隊長大丈夫でしょうか?」

「ああ、隊長なら、なんとかやるだろう。あの人は若いのに何でも出来る」

「怖いでしょうね」

「そりゃあ怖いに決まっているだろう。どんなスーパースターでも、この高さから落ちてコンクリートの床に叩きつけられれば死は逃れられない」

「でも、なんとなくですが、まるで子供が“うんてい”で遊んでいる様にも見えてしまうのですが錯覚でしょうか?」

「まさか……」

 ブラームが見上げていた目を擦った。

 たしかに、そう言われてみればイライシャの言う通り遊んでいる様にも見えるが、そんなはずはない。

 そのように見えてしまうのは、きっとナトーが飛び切りの美人で、嫌な表情は絶対に見せないからに違いない。

 2人の心配を他所に、ナトーはスイスイと天井を移動して、あれよあれよと言う間に屋根の穴に登ってしまった。

 穴の上から顔を覗かせて、涼しい顔で敬礼して行くナトーを見ながらブラームは思った。

 ひょっとしたらイライシャの言う通りかも知れないと。


 屋根の上に登ったのに、更に天井が見える光景は不思議な物を感じる。

 図面にある通りタービン建屋と原子炉建屋の屋根は繋がっていない。

 2つの屋根の高さは同じで、なんとか飛び越えられそうな距離にも見えるが、現実的にはタービン建屋の屋根の傾斜が約35度の急こう配になっているので降りるのが精一杯で走る事などできはしない。

 もし走れたとしても頂点で4mを軽く超えるほど高く飛び上がらなければ、原子炉建屋の屋根には届かないし、着地地点は20度の勾配だから走り幅跳びの様に滑る事で衝撃を逃がすこともままならない。

 後ろに尻もちをついた時点で、下まで転がり落ちる事になるだろう。

 滑らないように慎重に屋根の傾斜を降り、ロープを掛けれそうな場を探し懸垂下降用のロープにバックアップラインを作り屋根の下に降りる。

 バックアップラインを作ってあるので、あとで必要になればロープを回収することも出来るが、今回は帰りの事も考えて回収せずに残して置いた。

 屋根は事故の後で作られた物らしく、5mも降りると瓦礫の山に足がつく。

 ここから2m先に原子炉建屋があり、その間は5m程の深い谷が出来ていた。

 ジャンプして原子炉建屋を覆っているガレ場に飛びつき、放射能防御頭巾と手袋を装着して屋根の側壁に出来ていた穴を見つけて中に入った。

 中の放射線量は10ミリシーベルトと非常に低い。

「ユリア、いま原子炉建屋内に入った」

<OK、ガレ場を登って最初に見える壁に梯子はしごが掛かっている所があるから、そこから天井から吊ってあるパイプライン沿いにクレーンに辿り着くことが出来るわ。その部分の放射線量は100~500ミリシーベルトよ>

「敵の状況は?」

<まだ戦っていて、膠着状態よ。人数が合わなかったのは、1人原子炉内に落ちているから。どうやらこれが仲間割れの原因のようね>

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