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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
241/301

【サプレッション・プールへ②(To the suppression pool)】

<通路の先に敵がいます!>

 1本の長い通路。

 敵は自動小銃、こっちは22口径のライフル。

 見つかって撃ち合いになれば、もうこの先へは進めない。

「ブレジネフ、迂回路はねえのか」

「ありません」

 ブレジネフは地図を取り出さずに答えると、シモーネが携帯の画面を見せて言った。

「この機械室に入れば、先に進めそうですが駄目ですか?」

 シモーネが見せたのは建屋内の地図。

 前に地図で説明されたときに、撮影していたのだ。

「これなら敵の見張りが居ても、機械に隠れながら充分前に進めそうだな」

「何故、ここを隠そうとした?」

「隠そうとは、していない」

 フランソワに指摘されたブレジネフが反論する。

「ここはこちら側の空調と予備電源装置があるから、戦闘をされては困るんだ。だから迂回路の選択肢には入れなかっただけだ」

「空調は建屋に入る時、デカいパイプが外から中に通じていたし、電源だって外から取っている。だから、このオンボロ建屋の古い装置を今更動かす必要はねえんじゃねえか?」

「もう止さねえかフランソワ。装備の件はもうナトーが言った通りで、仲間割れは止めろ」

 トーニがフランソワを止めようとしたが、もうそれどころではなかった。

 ナトーが居ない今、皆の冷たい疑いの目がブレジネフに容赦なく注がれる。

 フランソワがモンタナに決断を求めるが、どうやらモンタナはまだ迷っている様子。それはナトーが一番嫌がる、仲間割れを引き起こす事だから。

「フランソワ、お止しなさい」

 背後から掛けられたのは、ナトーよりもはっきりと分かる女性の声。

「サオリさん、なんでここに⁉」

 振り向いた皆が声を揃えて、その名前を呼んだ。

「ボッシュから聞いて、心配になって来てみたら案の定だったわね」

「案の定とは?」

「結局アンタたちがGの称号を貰えたのは、ナトーが分隊長としていたからよ。ナトーが居なければ腕に自身のある我儘わがまま軍団は、直ぐに目的を見失い普通科以下と言う事よ。違う?」

「でも、コイツが」

 フランソワがブレジネフを指さす。

「その問題はコントロール・センターで解決したでしょう。また蒸し返すつもり?」

「でも、コイツは俺たちに隠した」

「そうです。この人は、知っていながら迂回路を我々に教えなかったんですよ。今は使われていない施設なのに」

 フランソワを擁護するように、シモーネが言った。

「技術屋!どうやらアンタが詳しく伝えないのが最大の障害のようね。話しなさい」

 サオリに言われてボソボソと話し出すブレジネフ。

「迂回路に使えそうな物は有る。例えばこのダクトもそうだし、天井裏もそう。もちろんシモーネに指摘された機械室もそうだ。だが、どれも事故後一切手を付けられていない。当然どこもかしこも、放射能塵が溜まったままになっている。特に機械室にある空調装置の配管は燃料プールにまで繋がっているし、ダクトだって何カ所かベントが設けてあるとは言え結局は同じこと。唯一放射能塵が取り除かれているこの通路だけが、安全に通れる道なのだ」

 ブレジネフの話を聞いても、いまいちピンとこない隊員たちに代わってサオリが解説した。

「いい?ブレジネフは一般人としての立場で言わなかった。いえ、言えなかったの。計測もされていない放射能塵がある場所をアンタたちに教える。つまり行かせる訳に行かなかったの。分かる?」

「……」

「そうよね。一般人の命に対する常識は、軍人であるアナタたちには分からないわよね。目の前にある機関銃陣地にだって、命令されれば突撃することが当たり前なんですもの」

 サオリは次にブレジネフに向かって言う。

「アナタの目の前に居る人たちは兵士、それも特殊部隊の中でも更にエリートな。任務を成功させるためなら、死を恐れることもない。だから、ここに派遣された。一般人としての危険レベルなんて、とうに凌駕しているの。アナタを同行させたのは放射能による危険度を避けさせるためでは無く、作戦を成功に導くためなの。だから正確な情報を提供するのがアナタの使命よ」

「しかし……」

 ブレジネフが皆を見渡す。

「しかしじゃねえ。俺たちは任務のために、いつでも死ぬ覚悟は出来ていまさあ」

 モンタナが優しくブレジネフの肩を叩いて笑う。

「分かりました。では」

 ブレジネフが地図を広げてルートを示す。

 隊員たちが周りを取り囲み、食い入るように地図を見る。

 “これで一件落着かな”

 戻りかけたサオリだったが、やっぱり止めた。

 最大の問題があったのを忘れていた。

 それは、ナトーが本当に命を惜しむことなく1人で無茶をしてしまう事。

 そうならない事を祈っている訳にはいかない。

 私は、それを止めなければならないのだ。

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