【タービン建屋での戦い①(Battle in the turbine building)】
「突入する!」
<えっ⁉>
「でも、携帯が使えるようになったら、俺たちの侵入が直ぐに敵に知れるのでは……」
「行くぞ」
私の“突入する”と言う言葉に、ユリアとイライシャが驚き、ブラームは素直に聞いてくれた。
この辺りに付き合いの長さが現われる。
ブラームは理屈抜きに、私を信頼してくれているのだ。
ドアを開け、1人ずつではなく、3人一斉に中に入り込む。
まるで室内でサッカーでも出来そうなくらい広い建屋。
中央には外板に囲まれた巨大なタービンが半分顔を覗かせていて、その周辺にも建物の様な大きな装置が並んでいる。
瓦礫は取り除かれて綺麗になっているが、建屋の天井は所々穴が開いていて、覆ってあるシェルターの内側が見える。
入り口から15m程は何もなく、その先に2階建てのくらいの高さの機器の上に見張りが1人ドアの方を向いて立っていて、その奥のタービンに続く装置の通路にも1人、更にその横の四角い箱状の機械の横にも。
既にユリアから敵の配置情報は教えて貰っていたので、建屋に入って直ぐに目に付いた。
だが、侵入者を阻止するために配置されているはずの敵は、誰一人として進入する私たちに気付かない。
一番近い2階建てくらいの機器の壁まで無事辿り着くことができ、一旦壁に張り付いたあと直ぐに弓を構えて上に居る見張りの顎から喉の間に向けて軽く矢を放つと、声も出さずに倒れた。
「どうして弓を?」
イライシャがチアッパを使わなかったことを不思議がって聞いて来たので、あの場合距離が近すぎて弾が貫通してしまい、屋根の構造物に当たって音を立ててしまうと答えた。
「ユリア、敵の状況をよく見ていてくれ」
<了解よ!>
敵の配置がタービンを挟んで同じなのは分かっていたから、隊を分けずに3人で進むことにした。
問題はタービンの向こう側の敵に気付かれたらお終いになると言う事。
ユリアは天井に張り付くように上昇したまま応えた。
「先ず私が進む、2人は合図するまでここに留まり、援護してくれ」
「もし敵に気付かれたら?」
「私は私で何とかするから、ここに留まって戦え」
「えっ、でもそれじゃあ」
「ここに居れば挟み撃ちには合わない」
携帯が通じたばかりの今を置いてチャンスはない。
左右の敵のうち左側の敵は今携帯を見ているので左から行くことにした。
携帯を見ていなければ、私の姿は丸見え。
タービン装置の通路の下を通って近付いて行く。
下の通路は1.5m低いので、タービンの横に居る敵にだけは私の姿は見えない。
<ナトちゃん、あと5m。通路の敵は体育座りをしたまま携帯を見ているわ>
イヤフォンから聞こえるユリアの声に先導されて敵の真正面まで進む間、私はその先に見える高い機械のカバーの上に立っている敵にだけ神経を集中していれば良かった。
<OK、今丁度正面よ>
スッと立ち上がり矢を射る。
男は携帯から目を離さず、何も気付かぬままこの世を去っていった。
「隊長一人で大丈夫なんですか?」
「馬鹿、隊長の心配をする前に、自分と俺の心配をしろ」
「えっ、俺ですか?」
「当たり前だ。もし撃ち漏らせば俺たちは終わりだ」
いま倒した敵の座っている通路に登りチアッパで飛び出したBOXの上に立っている見張りに照準を合わせて止めた。
下から見ると分からなかったが、ここに立つと手前のBOXと向こうのBOXに立つ見張りが両方見える。
要するに片方だけ倒すと、もう片方に気付かれると言う事。
丁度携帯の通信が回復しなければ、この布陣を破る事は今の我々の装備では不可能だった。
「ユリア、一瞬で構わないから奥の奴の気を引いてくれないか」
<OK、やってみる>
天井に張り付いていたユリアのドローンが、左奥に落ちるように降下すると直ぐに奥の見張りが気付き背中を向けた。
弓を引く手にチアッパの銃身を一緒に握り、奥の見張りに狙いを定め、矢を放つ。
同時にチアッパ構えて、手前の敵に向け引き金を引く。
少し放物線を描きながら飛ぶ矢が、奥の見張りの後頭部に突き刺さると同時に、チアッパから放たれた22LR弾が手前の見張りの側頭部に当たり2人同時に倒す事が出来た。
「ユリア、右側の敵の状況は?」
<片方が全滅した事には気付いていない様よ。それより何か連絡を受けたのか3人とも携帯を仕舞って入って来た通路の方を向いたわ>
「ありがとう」
ブラームとイライシャを呼び配置を決める。
「ブラームとイライシャは敵の後ろに回って、2人同時に見張りを仕留めろ。私はタービンを越えてこの向こうに居る見張りをやる。ブラームとイライシャは準備が出来次第、ユリアにOKのサインを送れ。受け取ったユリアは機体を左右に振って私に知らせろ。そして攻撃の合図は私がOKのサインを出し、ユリアドローンがフラッシュを光らせる。いいな!」
<「「了解」」>




