【青いビルの戦い②(Battle of blue buildings)】
パシュッ!
微かな風切り音を引きながら放たれた矢が、目標に吸い込まれれる様に飛び、胸に突き刺さる。
布を刺す音だけが微かに聞こえた以外、何も聞こえない。
お辞儀をするように項垂れた男の所作を合図に、私たちは一斉に建物へと走る。
班は2手に分けた。
1階のドアからフランソワ、ジェイソン、ボッシュ、カールの4人が次々に飛び込む。
ドアの手前に立ち止まっているモンタナをよじ登って私を先頭にブラーム、イライシャ、シモーネの4人が2階の窓から侵入する。
私たちを上げたモンタナは、直ぐにフランソワ達の後を追う。
2階の窓に飛び込むと、直ぐに敵に出くわした。
敵との距離は5m。
急に窓から飛び込んで来た敵が、肩に掛けていた銃を構えようとする。
私は、口に咥えていたナイフをその胸に目掛けて投げると、構え終わる直前で男の動きが止まる。
倒れる男を支えて、ゆっくり床に降ろす私の横をブラームたちが通り過ぎて行く。
通路の突き当りの手間で振り向いたブラームに、小指を1本立ててから人差し指で右を指さすし、次に指でCの文字を作ったあと開いた手の平を見せた。
ブラームは通路の確認をした後直ぐにイライシャを連れて通路の右に向かい、シモーネは私を待った。
直ぐにシモーネに駆け寄り、肩を引くように叩いて左を指さし通路に飛び出し、すぐ左にあったドアを開ける。
中は会議室で誰も居ない。
「こちらナトー、2階は制圧した。1階の状況を送れ」
「……」
「モンタナ、フランソワ、応答しろ」
「……」
どうやらこの建屋は放射線や電波を通しにくい構造になっている様で、ハバロフの無線機を中継する連絡システムでは通信が難しいようだ。
誰も居ない机と椅子だけの部屋には用がないので、直ぐにまたドアを開けて外に出ると、同じく用のない厨房部屋に入ったブラームとイライシャが目の前を通り過ぎていき、私たちも後に着いた。
階段で一旦止まり様子を伺う。
1階からサプレッサーを付けたP-320の発射音が数発聞こえた。
ゆっくりと慎重に階段のステップに足を掛ける。
他の者には手で待てと指示を入れて、一歩一歩踏みしめるように登り、途中の踊り場で小指を立てて手でCame(来い)の合図を送り人差し指で地面を指てからまた登り始めた。
3階の通路には敵が2人窓の外の景色を眺めるように立っていて、何か楽しそうに話をしている様子だった。
2人の後ろには扉が有る。
おそらくここに司令部か捕えた人質の、どちらかが居るに違いないだろう。
ブラームとシモーネを踊り場迄上げ、イライシャと突入する旨を伝えた。
それにしてもモンタナたちが遅い。
“行くぞ!”
“ハイッ”
イライシャが走り出そうとしたので、止めて自分の横尻を叩く。
着けと言う合図。
そのままユックリと身を隠していた体を持ち上げて、敵2名に声を掛ける。
「руки вверх!(手を上げろ)」
既に我々は狙いを付けて銃を構えているので、2人とも不用意な動きはせずに両手を上げた。
丁度その時、階段の方から足音が聞こえた。
足音は1人。
下の階から。
屹度、フランソワだろう。
少しイライシャを試すため、手を上げている2人を壁に壁に張り付かせてから、その後ろを通り抜けてポジションを替えた。
上手くいった。
さすがにハンスがG-LéMATに連れて来ただけのことはある。
隙が無い。
階段の方から音が聞こえたとき、そしてポジションを入れ替えるとき、少しでも捕虜から目を離せば奴等は襲ってきたことだろう。
もちろんこれは可能性の問題で襲って来ない場合もあるが、眼を少しでも離せば必ず躊躇いの行動は反射的に表れる。
階段の音は下から駆け上がって来る音。
階段に居るブラームとシモーネの2人も、それに気付いている。
現在最悪の事態に備えて、体制を変えている。
・状況判断。
・仲間への信頼。
・状況対処。
この3つの事がキチンと理解できていなければ、幾ら隣に上官の私が居ても、後ろが気になって相手から目を逸らしてしまう。
目を離すことは、相手に隙を見せることになる。
ここで相手に動かれると、不測の事態が起きてしまうが、彼は正しい行動を取る事が出来た。
捕虜になった敵は、ある意味“写し鏡”だ。
だからイライシャを見ていなくても、捕虜を見ていれば彼の状態はほぼ把握できる。




