【石棺シェルターへ②(Go to the shelter)】
ブラームを先頭にして、L96A1を持つ私が続き、後方のサオリ達をガードするため最後尾にとSAKO TRG-42を持つカールが続き来た道を引き返す。
来たとき同様に、道路沿いを通ると発見されやすいので、道に並行する森の中を進む。
消防署が過ぎ、駅が過ぎ、ここから先は初めて進む道。
しばらく進むと、先行していたブラームから停止の合図が出た。
部隊の移動を止め、ブラームのところに駆け寄る。
「どうした」
私の問いに、ブラームが敵の狙撃兵が2箇所に居ることを知らせる。
1箇所はシェルターのダクトに沿って屋根の上まで伸びている外階段の頂上。
もう1箇所は、その向こうにある解体用のクレーンの中。
その場に地図を広げて周囲を確認し、フランソワとジェイソンを呼ぶ。
「ブラームが敵の狙撃兵2名を確認した。1人は石棺の頂上、もう1人は解体用のクレーンの中」
地図と実際に見える方角を指さしながら教える。
「2手に分かれて偵察に出てもらう。フランソワはシモーネを連れて廃炉中の原子炉周辺を、ジェイソンはボッシュとシェルターの周囲を探ってくれ。偵察の主要目的は、それぞれに居る敵の狙撃手を射殺した場合に敵に気付かれる可能性についてだ。そのほかに道中に居る敵兵の状況も出来る範囲で調べろ。分かっていると思うが、狙撃手に発見される恐れが高いから道は渡らずに見える範囲で構わない。くれぐれも無理はせず戦闘は避けて行動しろ。いいな」
「了解!」
偵察部隊を送り出したあと、最後尾のカールを呼んだ。
「狙撃兵ですか」
「そうだ」
「やりますか」
「いまフランソワとジェイソンを偵察に出した。遣るか遣らないかは、その状況次第だが、やれるか?ただしシェルターの方はやった後に死体から落下物が出るのは困る」
「血も?」
「当然」
「1000m以内なら」
「よし、では偵察の結果次第で、どちらがダクトの頂上に居る奴を担当するか決めよう。ここからダクト迄の距離は約960。クレーンまでは1592だ」
「クレーンの方は、血は大丈夫ですか?」
カールが首を伸ばして言った。
「正面以外の窓はガラスではなく透明アクリル板だから、破片も飛ばないし今は開けられている。BOXは雨や冬場の作業に耐えられるように密閉されているから、大量に血しぶきを飛ばさなければ大丈夫だろう」
「イライシャを観測員に付けてやるから、いつでも撃てるように準備をしておけ」
「了解」
フランソワ達を偵察に出し、カールに指示を与えた後、ブラームを待機させて私は他の者達に状況を説明するために後ろに下がった。
下がる私と交差するように、カールが測定器を持ったイライシャを連れて前に進む。
「どうだ?」
レーザー距離測定器を覗くイライシャに、カールが聞く。
「957.7」
「誤差2.3mか……まあ“約”を付けたにしても凄い制度だな」
「なんのことです?」
不思議そうに聞くイライシャに、さっきナトーが言った距離を教えた。
「でも何で片方には“約”を付けて、もう片方には付けなかったんでしょうね」
「ちょっといいか、じゃあお前この位置からあのクレーンの操縦席迄の位置を計れ。くれぐれも敵にみつかるなよ」
「了解」
ところが、測定を始めたはずのイライシャがナカナカ距離を報告してこない。
まさか敵にやられたのかと思って声を掛けると、ビクッと動いた。
「いったい、どうした」
「ナトー中尉は測定器を持っていたのですか?それとも地図上で距離の計算を?」
「いや普通の双眼鏡しか持っていなかったし、地図は広げてあっただけだが、なにかあったのか?」
イライシャがデジタル表記された測定データーを見せた。
並んだ数字は“1592.2”
約を付けずに言ったナトーの数字は1592。
その差は、たった20cm。
「こりゃあ、“約”を付ける必要がねえ!」
あまりの正確さに驚いているイライシャをよそに、カールはもう笑うしかなかった。
しばらくして偵察に出ていたフランソワとジェイソンたちが戻って来た。
「どうだ」
「クレーンの方は、下にあるプレハブの事務所に4人。特に有線電話が敷かれている様子は有りませんから、射撃音を敵発見の合図にしているのだと思います」
「シェルターのほうは?」
「上に登る階段の中段に1人、そして登り口に2人居ますが、こっちもクレーンと似たような状況かと。あとシェルターの入り口近くにプレハブの建物があり、そこに5人。プレハブからシェルターにコードが伸びているのを確認しましたから、これでシェルターの中に居る仲間と連絡を取っているものと思われます」
「ご苦労。持ち場に戻れ」




