【それぞれの思い②(Each thought)】
倉庫の中。
雑魚寝している隊員たち。
「なあシモーネ、お前どうして志願した?G-LéMATにも志願を断る権利はあったんだぞ」
「そいうイライシャこそ、何故拒否しなかったんだ?特に俺たちは新入りだから、たいして役には立たないかも知れないのに」
「そうだな、確かに、役には立たないかもしれない。でも数は数だ」
「数?」
「そう。ナトー中尉の気質や他の先輩たちの技量を考えても、おそらく俺たちは後方待機になるかも知れない」
「だろうな……」
「だから余計断る事は出来ない」
「どういう意味?」
「もし……もし万が一、最前線に立つナトー中尉や先輩たちに動けない状況が起こった時、どうなる?その時、動くことが出来れば窮地を救える」
「つまりヒーローになれるかも。ってこと?」
「まさか。死んだ後で、どんなに褒められても嬉しくも何ともない。肝心なのは、その事で多くの人達が救えるってこと。違うか?」
「ああ、その通りだね」
「シモーネは何故志願届をだした?」
「俺はG-LéMATに憧れていた。なぜなら普通科に居たんじゃ、こういう任務は与えられないだろう?」
「そうだな」
「イライシャの言う通り、おそらく俺達に出来ることは少ないかも知れない。だけどG-LéMATを目指してきて選ばれた以上、最高の仕事がしてみたい」
「死ぬかもしれないんだぞ」
「やらないで後悔するよりも、いや出来ない立場に居て後でグダグダ言うよりも、出来る立場に辿り着いた以上、それをやり遂げるのが俺の使命だ」
「かっこいいな」
「お前こそ」
「アニキ……まだ起きているか?」
「ああ、なんだジェイソン」
「俺が除隊して実家の農園を継いだら、一粒一粒厳選した葡萄を使って誰にも負けねえ極上のワインを作るから絶対に飲みに来てくれ」
「除隊するのか?」
「いや、まだまだ先の話だけど」
「いいぜ。で、そのワインの名前は、なんにするか決めてあるのか?」
「ああVino de Pago especial Natow blanco (ヴィノ・デ・パゴ・エスペシアル・ナトー・ホワイト)」
「おいVP(単一ぶどう畑限定高級ワイン)の称号を獲得するつもりか!そりゃあハードル高けえな。でもなんで白ワインなんだ?」
「ワインになったナトーにまで、血を連想させたくはねえ」
「さすがだぜ、そりゃあ飲むのが楽しみだ」
「俺も飲みに行っていいか?」
いつの間にか起きていたボッシュがジェイソンに聞く。
「いいに決まってるだろうが、LéMATゆかりの者なら飲み放題だ。だからオメーも死ぬんじゃねえぞ」
「ああ」
ジェイソンとボッシュが目を合わせて、同時にフランソワを見て言った。
「アニキも死なねえでくれ……そして」
「みな迄言うな、ナトーは絶対俺が守ってみせる。じゃねえとジェイソンの涙で酸っぱいワインが出来ちまう」
「ちげえねえ」
「キース、起きている」
声を掛けたのはハバロフとメントスの2人。
「ああ」
「残念だったな」
「これが俺の役割だ、ハバロフが無線でメントスが衛生としての役割に徹するのと同じように」
「安心した」
「何故?」
「だってキースは普通科に居たときから、LéMATに憧れていただろう?」
「僕たちの様に、いつの間にかLéMATに組み込まれた創立組とは違い、やりたい事が沢山あったはずだから」
「嫌なの?」
「嫌じゃないよ。誇りに思う。僕には無線しかないし」
「同じく僕は、軍医を目指しているから」
「じゃあ俺も同じだ、俺にはバイクしかないから。そのために半年研修に行かせてもらった」
「そうだね」
「ブラーム、明日は俺の代わりにナトーを頼む」
「言われなくたって、そのつもりだ。でもモンタナ、自分で守れば良いじゃないのか?」
「俺はおそらく駄目だ。狭い通路の多い建屋の中で前に立てば、後ろの者の視界を塞いでしまう。だから後ろに回されるだろうぜ。ナトーは必ず先頭に立つ。その後ろに付くのはブラーム、お前しかいない。だからどんなにナトーが急に走っても、食いついて付いて行って欲しい。なーに後ろは気にするこたあねえ、フランソワと俺たちで守ってみれらあ。だからナトーを頼む」
「好きなのか?」
「なに言ってんだ、好きに決まっているだろ。このG-LéMATでナトーを好きじゃない奴が居たらお目に掛かりてえぜ。なあブラーム」
「ああ、俺も。だから言われなくたって、どこまでも食いついて言ってみせる。心配するな。長距離でナトーに食いついていけるのはLéMAT……いや外人部隊内でも俺だけだ」
「今度こそ負けるなよ」
「ああ、最後は勝たせてもらう」
「馬鹿、オメーも死んじゃいけねえ」
「お互いな」
「トーニ」
「なんだカール」
「ナトーを襲わなくていいのか?」
「襲う??」
「いや、間違い。告白しなくていいのか?」
「俺は、どさくさに紛れてナトーを惑わせるような真似はしねえ。それにナトーにはハンス少佐という立派なボーイフレンドが居る」
「でも、好きなんだろう?」
「ああ、誰よりもな……ところで、ずっと気になっていたんだが、その右手はどうした?」
トーニはカールが右手にしている手袋を見て言った。
「これか?」
「ああ、ナトーを船で送り返した後からずっと着けているじゃねえか、この大事な時を前に怪我でもしたのか?」
「火傷だ」
「火傷?直ぐメントスに」
「いや、その火傷じゃなくて……実は、ナトーを向こう岸に送り届けるとき、ワザと高い桟橋に横付けして」
「なるほど、それで桟橋に登るナトーのお尻を触ったのか」
「ご名答」
「冥途の土産、って訳か」
「ああ、ナトーは俺がこの命にかけてでも守り抜く。それがアサシンとして幾つもの命を奪ってきた俺の最後の仕事」
「罪滅ぼしのつもりか?」
「そうなるかな……」
カールの返事を聞いたトーニが、いきなりカールの腕を掴み、手袋を奪い取る。
「トーニ、コラ!何をする‼」
「だからオメーはマダマダ新入りなんだよ。歳を食っていても、何も分っちゃいねえ」
「なにが!?」
「ナトーに何かあったとき、身代わりになろうって魂胆なら止めときな。ナトーはそんなこたあこれっぽちも望んじゃいねえし、むしろその逆だ」
「逆?」
「ナトーは仲間の死を許さねえ。死ぬ覚悟が出来ているのは上等だが、その覚悟があるなら死ぬ気で戦い絶対に生きろ!ナトーは自分の命よりも仲間の命を優先して守ろうとする。こんな布っ切れで出来た手袋をしてミスでもしてナトーが死ぬような事が有れば、味方と言えど、俺はお前を殺す」
「俺を殺す!?」
「ああ、もし俺が倒れてそれを実行できなかったとしても、モンタナやブラームを始め部隊の皆が許さねえだろう。だからナトーの事を思うのなら、オメーは常にベストを尽くさねーとならねえ。悪いがこの手袋は俺が預かって置くぜ」
「すまねえ」
“ヤッホー!お宝ゲットだぜ‼”




