【ウクライナ軍Mi-24 202号機の墜落!②(Ukrainian Army Mi-24 Unit 202 Down!)】
『202応答せよ!』
『202応答しろ!』
『マリーチカ中尉!』
『ユリア返事をしてくれ!』
『ユリア!!』
『誰でもいいから返事を返してくれ!』
『……』
AM0614現地時間では午前7時14分、北緯51°33'38東経29°09'38付近にて不穏な武装勢力の情報収集にあたっていたウクライナ軍第14独立ヘリコプター部隊Mi-24 202号機は武装集団がベラルーシ領内から放ったと思われる地対空ミサイル4発の発射を確認。
うち3発の回避には成功したものの、最後にウクライナ国内から発射されたミサイルの爆発の影響を受け、同座標より東南東約4km付近にて無線通信途絶える。
重要事項の欄にそう記すとハンスが座っている私の肩越しから身を乗り出してきて、その横に“墜落した可能性あり”と書き足したので、顔を上にあげて睨みつけた。
「確かにお前の書いたことは全て事実で、通信も途絶えた。ただ事実を正確に伝えようとしていない」
「墜落した可能性こそ事実を伝えていない。私たちが知っているのは何か爆発音らしきものが聞こえたと言う事と通信が途絶えた所までで、墜落を傍受したとなれば緊急事態だ!私は墜落を認めない!」
「士官である以上、誰にでも分かる的確な状況判断をしろ。これは明らかに墜落だ!報告書に私情は入れるな!」
ハンスは、そう言うとドアの向こうに出て行ってしまった。
開かれたドアが、やがてゆっくりと閉まり、カチャリとロックのかかる音が響く。
その音はまるでトリガーを引いて、撃鉄が落ちる音の様に冷たく何の感情も入る余地を許さない音だった。
“私情”
無線室のスピーカーからはもうユリアたちの声も、それを呼び続けるセンターの声も聞くことは出来ない。
聞こえるのは、ただ砂嵐の様なザーと言うノイズだけ。
確かに私情だが、受け入れたくはない。
だけど今の私には、事実を受け入れる心の準備もできていない。
“事実……”
いや、待てよ。
ハンスの言う的確な状況判断を考慮した上の事実と言うのは、本当に事実なのだろうか?
地対空ミサイルを振り切れなかった航空機が、そのミサイルに迎撃されて墜落することは確かだが、これは常識的な知識であって事実ではない。
無線のやり取りを思い出して、状況を判断しても事実として現れるのはユリアがミサイルを振り切るために最大限の努力をしている所までだ。
無線を何度も聞き返していて、ひとつ大きな見落としをしていることに気付いた。
音源を管理用データーベースに入れ、そのフォルダーに『音源の解析必要』と記して送った。
おそらく間違いない。
間違いなくユリアは最後まで最善を尽くした。
「おはよう、トーニ」
「おはよう、当直お疲れ様。なんかわかったか?」
「ああ」
「なに?」
「秘密だ」
トレーを置くときに、トーニのトレーを見るとあまり食べ物が減っていないことに気付く。
当直を終えて、そのまま当直室でシャワーを済ませて来たので、大分遅くなったはずなのに屹度待っていてくれたのだ。
相変わらず優しい奴。
トーニと一緒に、のんびり朝食を摂っているところに、汗だくで血相を変えた人物が私の名を呼びながら勢いよく飛び込んで来た。
ハンスだ。
ハンスは食堂を見渡し、“なんだろう”と思って立ち上がった私が居ることを確認すると、まるで何事もなかったかのように士官食堂に向かって階段を登って行った。
「隊長、一体どうしたんだ?」
トーニに聞かれて「さあ」とだけ答えたが、おそらく私が基地から抜け出すのではないかと見張っていたのだろう。
ところがいつまで経っても私が来ないので他のルートで逃げ出したのではないかと確認をしにやって来た。
そして居るのが分かったので、ついでにまだ食べていなかった朝食を食べに上がった。
私が脱出を企てたと思い、待ち伏せていたハンスの気持ちもよく分かる。
何故なら、軍曹だった頃の私なら、確実に抜け出していただろう。
だけど今は違う。
士官になったからという訳ではない。
学校に通い多くの人と出会う事と、多くの事を学ぶことにより、より多くの選択肢の中から自らの行動を選ぶ能力が備わったからだ。
午前中の訓練は模擬市街地で警戒行動訓練を行った。
モンタナが班長となり、ブラーム、フランソワ、トーニの4人で、それぞれ援護し合いながら適の潜んでいる可能性の高い市街地を進んで行く訓練。
訓練のポイントは無駄のないチームプレー。
「駄目、やり直し!誰も右のアパートの上階を確認していない!窓の傍に居るのが敵の兵士なら2人は確実にやられているぞ」
丁度この模擬市街戦場には様々な仕掛けがあるので、手に持ったリモコンで仕掛けを動かせることにより、どこに忍んでいるか分からない敵に見立てている。
動くものを見落とすと、この様に指摘される。
それで彼等は動くモノに注意が敏感になってしまう。
「駄目、駄目。何をしているんだ!先頭のモンタナが横の建物の上階を気にしていたんじゃ、正面からやられてしまうぞ。それにトーニ、モンタナが右に顔を上げた時に、つられて見ない!四方八方を4人の8個の目でカバーし合いながら進め!」
この訓練は非常に難しい。
予め“誰がどの方角を監視する”と言う決め事を作っておくのは当然なのだが、何もない状態の訓練場ではサマになっても、実際の戦場では思わぬ方角から敵が撃ってくるため決め事を作っただけでは上手くいかない。
大切なのは100%仲間を信頼し、メンバー各自が仲間から100%信頼される戦闘員でなければならない。
 




