【志願者テスト③(Applicant test)】
結局試合、いや試験の結果、空挺から4人引き抜くことになった。
合格した4人は特に強かったから採用されたのではない。
彼等4人に共通して言えるのは、常に平常心を保っていた事。
攻めるときも攻められるときも、常に冷静な判断が出来、試合が終わっても何もなかったように振る舞う事が出来ていた。
各々の技量を短時間で見分けることはできないが、性格は見分ける事が出来る。
特に体を痛めつけられる格闘技では顕著だ。
いつでも、どんな時にでも冷静で居られることが、軍人にとっては一番大切な事。
残念ながらヤザは落選したが、評価はいたって優秀。
それに軍人としてのキャリアや実績も充分だし、狙撃や状況判断も対戦したデーターから立証済み。
落選した理由は、ひとつ。
もう直ぐパパになるからだ。
いくら優秀な者であっても、奥さんが妊娠している状況で、死ぬ可能性のある任務に就かせることはできない。
それは父親になる隊員の為だけではなく、奥さんの為でもあり生まれて来る赤ちゃんの為でもあるばかりか、国の将来の為でもある。
「残念だったな」
「ああ」
ヤザの事だから、さぞ悔しがっているだろうと思い宥めに行くと意外に元気そうだった。
「どうして応募した。レイラが妊娠しているのに」
「まあな。赤ちゃんも気になるが、娘の事も気になる」
「女の子なのか!?」
「馬鹿、お前の事だ。今まで隠していたが、ハイファから“お互いのどちらかが死んだとしても、片方が生きている限り、この子を守ろうね”と約束していたから。でも良かった」
「良かった?なにが??」
「実はな、娘の彼氏と一度対決して見たかったんだ」
「か、彼氏!?」
急に顔が火照るくらい血が上って来てしまった。
「ち、違うって、なっ何言ってるの。ハンスは、そんなんじゃなくて」
慌てて説明しようとするが、ヤザは一向に聞いてくれないばかりか、逆に言い返す。
「レイラもエマさんやサオリさんだって知っているぞ。お前とハンス少佐の事、おそらく他の皆だって」
「違う、違う勘違いよ!」
「ひとつ言っておくが、俺もレイラもイスラム教徒だから、絶対に“出来ちゃった結婚”は認められない。本当なら婚前交渉もイスラム教では認められてはいないが、それは昨今の事、証拠がない限り深く追及はしない。どうだ優しいだろ」
うわぁ~バレている。
おそらくエマから聞いたとかではなく、義理とは言え親だから分かる事なのだろう。
しかしパリで暮らし、周囲の人たちに(特にエマ)感化されて、ハンスとSEXをしてしまったけれど、イスラム教で婚前交渉は厳しく禁止されている行為で、もし破れば最悪“名誉殺人”と言って誰かに殺されても文句も言えないのだ。
我々対応部隊の装備が整うまでには時間が掛かる。
部隊には放射能防護服なんて置いていないし、強力ではなく隠密性を重視した装備も必要になるだろう。
それが届くのを待っている間、渡されたプリピャチ市街図とチェルノブイリ原発の建屋図面を頭に叩き込むために会議室に残りメモを取っていた。
一段落ついた時、ふと珈琲の香りに気が付いた。
しかも私の直ぐ傍で。
ハンスが来ているのか。
そう思って地図から目を離すと、珈琲は私の直ぐ横に置いてあった。
もう、少し冷めている。
集中し過ぎていて気が付かなかったが、屹度ハンスが置いて行ってくれたに違いない。
他の者なら気が付いたはず。
心を許したハンスだから気付かずにいられたし、ハンスもそれを承知で私に気付かれずに置いて行った。
遠ざけようとしても、やはり私はハンスが好き。
カップに手を添えると、まだ少し暖かい。
猫舌の私には丁度いい。
これはハンスの温もり。
カップに口を付けると、何故かキッスをしているみたいでキュンとして、とろけそうになる。
いけない、いけない。
こんな事では折角のハンスの行為が無駄になってしまう。
頑張らなくては。
16時前に、地図を全て頭の中に入れ終わり、ようやく幾つかの考えが纏まった。
あとは、出発の準備が整うのを待つだけ。
机に噛り付きっぱなしで、筋肉が強張っていたから座ったまま胸を逸らせ両腕両脚を思いっきり伸ばしていると、ドアがノックされハンスが入って来た。
「終わったのか?」
「ああ」
体を伸ばした姿勢のまま見上げると、ハンスは珍しく少しだけ目を泳がせた。
一瞬“なにを焦っているのだろう?”と思ったが、直ぐに自分の体勢を見て分かった。
体を仰向けに逸らせていることで胸の膨らみが強調され、私の目は2つのお山の向こうに見える会議室のブラインドカーテンが閉じられていることを確認した。
伸ばしたままの両腕でハンスの腰を掴む。
「勝手な事をして、すまなかった」
勝手な事とは、単身でユーリ達との交渉に赴いたこと。
「ああ、もう2度とするな」
「怒らないのか?」
「無事に戻って来たからな……怒って欲しかったのか」
「いや、でも、……少しだけ」
「馬鹿」
「心配した?」
「部下を信頼しているから、心配はしないし、いちいち心配していたら司令官として身が持たない」
「本当?」
ハンスの目を覗き込むように見つめる。
おそらく今の私の目は、真夜中の猫の様に真ん丸目。
ハンスが咳払いをする。
焦っているときの癖。
「嘘だ……心配させやがってコイツ」
ハンスの体が覆いかぶさるように前に曲げられ、その顔が近付いて来て唇を塞ぐ。
目の前に見えるのは男らしい喉の突起と、私の頭に当たる鍛えあげられた硬い胸の筋肉。
いつもと180度違う景色が私の胸を高鳴らせる。
いつの間にか、ハンスの大きな手がその胸を鷲掴みして乱暴に揉み上げる。
制服のボタンが外され、ブラから零れた胸を顎まで手繰り寄せられて、私の唇から離れた唇がその先端をまるでお腹が空いた赤ちゃんの様に一所懸命に舐める。
“可愛い”
だけどハンスの手がズボンのホックに伸びたところで止めにした。
正直私も半紙を欲しいけれど、今はまだ女になるわけにはいかない。
ヤザにも釘を射されたばかり。
私は、ハンスの愛情表現だけで充分満足した。
でもハンスは男だからそういう訳にはいかないと思い、椅子から離れ膝を着いてズボンのチャックを降ろす。
目の前に飛び出す男の子の大切なもの。
こんな私の為にダランとしないで、キチンと前へ習えをしてくれている。
愛しいハンスの為に、それを優しく口に含んであげた。




