【ウクライナ軍Mi-24 202号機の墜落!①(Ukrainian Army Mi-24 Unit 202 Down!)】
次の日は当直だったので、思う存分に調べた。
勿論、仕事もキチンとこなす。
一睡もせずに無線機にかじりついている私に、ペアの士官は引き気味。
当直がもう直ぐ終わる頃、気になったのかハンスが顔を覗かせた。
「相変わらず、集中力が凄いな」
「仕事ですから」
「興味と違うのか?」
「興味が仕事と結びつくのなら、尚更いいでしょう?」
「まあな……」
他愛もない雑談をしているときに、その無線を傍受した。
『こちら202、国境付近に集まっている武装した集団を確認。AK-47あるいはAKMらしき自動小銃を装備しています。数は、およそ50……いや70……もっといます!』
無線の声は、ウクライナ軍第14独立ヘリコプター部隊のユリア・マリーチカ中尉。
コンゴではフランス政府の要請に応えて、負傷した隊員の搬送や偵察などの協力を積極的にしてくれ、アフガニスタンでは約束通り窮地に陥った私たちを助けに来てくれた。
年齢は私より4つ年上の25歳。
「スピーカーに変えて録音!」
「既に録音中です。出力をスピーカーに変えます」
ハンスに言われて、出力をスピーカーに変えた。
『202、正確な数を報告しろ』
『すみません。森に隠れていますが1個中隊ほどは居るようです』
『国境線は越えているか?』
『いえ、今のところは。しかしこちらを挑発するように分隊レベルで拡散中です』
『挑発に乗らずに正確な数と装備、その他を調べろ』
『武装集団の何人かが発砲しています』
ユリアとは違う声、おそらくガナー(射撃手)
『反撃、もしくは威嚇射撃の許可を願います!』
『奴等は国境を越えたか?』
『国境線上ですが、何名かは数メートル単位で越えているはずです』
『まだ許可できない。とにかく高度を上げても構わないから、映像を撮って詳しく調べろ』
『了解!高度150に上げて映像を撮ります』
戦闘中に冷静なユリアの声が、いつもより高ぶっているのが不吉に感じた。
しかし高度150ならRPGは避ける事が出来る。
ただし奴等の武器がRPGなら……。
『RPG!!いやミサイルです!』
『方位と数は!?』
『7時30!3発来ます!』
『低空飛行で振り切る!後部見張り員は撮影を中止して着座、シートベルトをしろ!』
『中尉、チャフ撒きますか!?』
(※チャフ=電波を反射する物体を空中に撒布することでレーダーによる探知を妨害するデコイ)
『未だだ!一旦高度を下げてからチャフとフレアを同時に撒く』
(※フレア=赤外線ホーミング誘導ミサイルから航空機を防護する熱源体デコイ)
スピーカーからはユリアたちの声の他にロックオンされたことを知らせるものと、急激な降下による地上への衝突を知らせる2つの異なる警報音が鳴り響いている。
『チャフ&フレア発射!』
直後に爆発音が聞こえたが、これは発射されたデコイにより“かく乱”したミサイルが低空のために木か何かにぶつかって爆発した音だった。
『中尉!前方に森!!ぶつかります!』
『ミサイル全弾発射、目標前方の森!』
シュッと言う発射音が幾つも響き、直後に大きな爆発音と、かなり大きな雑音が聞こえた。
おそらく吹き飛ばされた木々が機体にあたった音だろうが、それでも無事墜落させずに飛行を続けているのはさすが。
直後にまた大きな爆発音が2つ聞こえた。
“やったのか!?”
赤外線を感知して追尾してくるタイプなら、大きな赤外線にかく乱される。
この場合、ミサイルの爆発による赤外線。
そしてガナーが“ぶつかる”とユリアに言ったことから分かるように、前方にあった森は少し小高い場所だったのだろう。
小高い丘がミサイルで燃え、木々の破片が吹き飛ばされれば、ミサイルは燃える丘に吸い込まれるように爆発したか、木々の破片が信管に接触して爆発したかだろう。
これで3発のミサイル全てが無効になった……しかし、スピーカーからは依然警報音が鳴りっぱなし。
“何故だ!?”
『ミサイルもう1発!4時の方向です!』
『4時!?』
ユリアが驚くのも無理はない。
おそらく撮影するために国境線に沿って飛行していたユリアたちのMi-24はベラルーシ側の背後から地対空ミサイルを放たれて回避行動に移った。
回避行動をとる場合に国境を越える方向には移動できないのと、様々な回避手段を取るためにミサイルに背を向けて、時間を稼ぐ必要がある。
つまり国境付近の7時半の方角から放たれた3発のミサイルから逃げるために、ユリアの機体もそこから一番遠い1時半の方角に向いて逃げる事になる。
ところが今、ガナーの伝えた方角は国境ではなく明らかに自国内から放たれた物となる。
『燃料投棄!ガナー、機関砲射撃開始!各員頭を低く構えろ!』
30㎜機関砲の発射音と、バリバリと言う何かを叩きつけるような音と、物凄い爆発音を最後に無線は途絶えた。