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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****サン・シール陸軍士官学校(Saint-Cyr Military Academy)*****
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【人事異動①(Personnel change)】

 コロンビアでの作戦を終えた後、俺達フランス外人部隊特殊部隊LéMAT(リマット※架空の組織)に大きな人事が下された。

 大尉に昇進してまだ1年も経たない隊長のハンスはそのままの階級だが、その下の少尉だったマーベリックとニルスが中尉に昇進して、新たに将校がもう1人加わる事になった。

 そして分隊長の俺を補佐してくれていたモンタナが伍長から軍曹に昇格し、そのモンタナの補佐をしていたブラーム兵長が伍長に、そしてフランソワ上等兵とトーニ上等兵が兵長に昇進し、1等兵のジェイソンとボッシュが上等兵になった。

 伍長から軍曹に昇進したモンタナは半年の分隊長としての基礎教育と訓練のためコルシカに出発し、皆を悲しませた。

 なぜなら俺の所属する第4分隊には、俺と言う分隊長が既にいるのでモンタナが戻って来る場所がないから。

「新しい将校はいつ来る?」

 出発するモンタナを見送った後、トーニに聞かれたが“さあ?”としか答えるしかなかった。

 特殊部隊の隊員とは言え、下士官である軍曹が知り得る情報ではない。

 モンタナが出発した次の日、俺はニルス中尉に呼ばれた。

「やあ、ナトちゃん相変わらず元気そうだね」

 PCのハードやソフトを含めたハイテク関連の技術将校ニルス中尉は、フランス外人部隊で唯一の女性隊員である俺のことを気さくに“ナトちゃん”と呼ぶ。

 別にボーイフレンドと言うわけではないが、嫌ではない。

でも、少しは時と場所を選んでほしい。

「何の用でしょう?」

「実は第4班の配属を、しばらくの間LéMATから教育部隊に変える事になってね」

「どうしてですか?モンタナは居なくなりましたが、分隊長として私が残っていますが」

「実はナトちゃんにも、しばらく隊を離れてもらうことになる」

「俺が女性だからですか?」

「いや、そうじゃない。だいいち部隊では全ての面で女性として扱っていない。それはここに来てもう2年にもなるナトちゃん自身が良く分かっているはずでしょ」

「だったらなぜ?」

「実は士官教育を受けてもらう」

「嫌だ!」

 一般兵から下士官に上がるためには通常半年間の教育期間が設けられるが、下士官から将校となると試験に受かっても見習士官教育を受けた後に本隊(フランス陸軍)教育を受けなくてはならなくて半年や1年では部隊に戻って来ることはできない。

 俺は理由を聞いてニルスに食って掛ったが受け入れられず、結局騒ぎを聞きつけたハンスがやって来て中に割って入った。

「ハンス。ほら、やっぱり僕じゃ無理だっただろう」

「自慢するな!」

「どういう事だ!俺は昇進など望んでいない。このまま分隊に残る」

「望むと望まざるに拘わらず、昇進は上が決める事だ!」

「何で俺が士官候補生として教育を受けなきゃならないのだ。まだ入隊して2年チョイで、まだ20歳でLéMATの中では最年少なんだぞ!」

「ああ知っている。確かにお前は20歳の最年少隊員だが、このたった2年で1等軍曹にまでなり、輝かしい実績を持ち、胸につける勲章は大尉の俺を越えて5段だ!」

「それと、これとは関係ないだろ!」

「ああ、間接的にはなっ。だが直接的には大いに関係がある」

「どうして!」

「コンゴへの派兵の際に小隊長のニール中尉が戦死した後、お前はどうした!?チャンと補佐役のソト少尉の言うことに従ったか?!違うだろう。お前は勝手に敵を捕虜にして情報収集をして作戦を立て、待てと言うソト少尉に食い下がった!」

「あ、あの作戦は成功したし、ソト少尉の承認だって結果的には取り付けたつもりだ!」

「ああ“勝手にしろ”と言う承認を、なっ!じゃあペイランド少佐はどうだ?」

「ペイランド少佐とは、何もトラブルは無い!」

「そうだろう。お前は政治家に振り回されっぱなしのペイランド少佐を、最初から見限っていて誰にも相談しないでDGSE(フランス対外治安総局)のエマ少佐を送り込んで対応に当たらせた」

「最良の人事じゃないか!」

「最良!?ふざけんな!いくらエマ少佐が友達だと言っても階級の上下を重んじる軍隊で、軍曹のお前が組織の違う左官級将校を電話一本で動かしたんだぞ。顎で使ったのと同じだろうが!」

「顎でなんか……」

「話は前後するが、パリでのテロ阻止の時だってそうだ」

「あれは何もないだろう。たんなるDGSI(フランス国内治安総局)の担当課長の嫌がらせだ!」

「その更迭された前の担当課長をないがしろにしたのは誰だ!?」

「ないがしろには、していない!」

「国内のテロ対策はDGSIの仕事だ。それをたかが外人部隊の一介の軍曹が作戦を考えるなど、ないがしろにしたのも同然だろう!」

「うっ……」

「フランス大統領からの勲章だけじゃなく、ウクライナでは旅行中にテロを阻止して同国のチェルノワ大統領から勲章をもらい、米軍との共同作戦を取ったアフガニスタンでのザリバン掃討作戦ではアメリカのポーカー大統領からも勲章をもらった。休暇中だったが、そのザリバンとアメリカの和平調停の邪魔をしようとしたグループを排除して和平を実現させた行為を公に出せば、国連からも勲章をもらえたはずだ!」

「それが、なぜいけない!優秀な部下を持ってハンスも鼻が高いだろう!」

「……俺は、なっ」

 席を立って、お互いに鼻先が当たるほど顔を突き合わせて大声で叫びあっていたハンスが、急に気が抜けたように椅子に腰かけて穏やかな口調で言った。

「俺は確かに、お前の言う通り、そのたびに鼻が高かったし嬉しかったよ。そして同じLéMATの将校であるニルスもマーベリックもお前の実力を認めている」

「なら、このままでいいじゃないか」

「いや、駄目だ」

「何故?」

「もし……もし、戦場で俺たちが死んだあと他の隊の指揮下に入ったらどうなる?」

「どうもならん。今まで通り上手くやっていける」

「本当にそう思うか?もしも相手の将校がDGSIの更迭された担当課長の様にお前に嫌がらせを仕掛けてきたらどうなる?最悪部隊が取り残される可能性だってあるんだぞ。そうなれば部隊は全滅だ」

「そのときは、そうならないように上手くやる……」

「自惚れるな!」

 そう言うとハンスは部屋を出て行った。

 自分で言っておきながら、無理だと分かっていた。

 たとえハンスの言う通り、味方から見捨てられれば敵に囲まれてしまう。

 補給を優先的に受けられなければ、最悪銃を撃つことだってままならなくなる。

 そうならなくても戦地で味方の協力を得られない状況では、俺達だけが孤立してしまう。

 孤立した部隊が死に物狂いで戦えば、戦場で“うるさいはえ”として目立ってしまう。

 目立つ部隊は、敵の砲兵隊の的になるだけ。

 空から落ちて来る爆弾や砲弾は、防ぎようがない。

 そう。

 俺がまだザリバンの少年兵で、GrimReaperと言うコードネームで呼ばれた狙撃手として多国籍軍から恐れられていた頃、何人もの敵の狙撃手が俺を狙っていたが、俺はそのすべての敵をなぎ倒してきた。

 そして最後には、たった1発の砲弾によって戦地から消える事になった。

 砲弾の前では、どれほど優秀な狙撃手でも、知略に長けた参謀や将軍であろうとも無力だ。

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