表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
198/301

【ニケ⑨(Winged Victory)】

「近付くんじゃねえ!」

 威嚇されて2歩進んでから足を止めた。

「好い女だったから、最後の言葉だけ聞いてやる。命乞いでも何でもしろ」

「命乞いをすれば、助けるとでも?」

「さあな……だが、俺も人間だ。気が変わる事があるかも知れねえ」

 話をしている間も、火はドンドン大きくなって行く。

「では言おう。お前は心を改めなければならない」

「……?」

「根っからの悪党で更に卑怯者だが、悪党としての素質は皆無。なぜなら、ことごとく詰めが甘い。何故絞め技を外された後、私から離れた?サンボマスターなら絞め技を食らった後、相手の体力の消耗がどれくらいかは分かっていたはずだ」

「詰めが甘い?馬鹿か?それはお前と関わっている時間が勿体ないからに決まっているだろうが。小屋の奥には大切な人質が居るんだぞ」

「悪党にしては律儀だな、約束通り人質は返さないといけないからな」

「帰す?お前も運送屋の奴等同様に、どこまでお人好しなんだ。一旦人質を取った以上、死ぬまで従わせるに決まっているだろうが」

「そうか……では、最後に教えてやる。お前の詰めの甘さは、あの時俺への攻撃を続けずに、俺が細工して置いた拳銃に飛びついたことだ!」

「細工!?」

 ツポレフの目が一瞬私から離れ、拳銃にいった。

 それを見て私はダッシュして火を飛び超える。

「畜生、またフェイクか!でも、これでオサラバだ‼」

 奴が俺の胸に照準を合わせ、片腕を伸ばしてトリガーを引く。

 カチャッ。

 カチャッ、カチャッ。

「片腕を伸ばした状態で、再びスライドする事は無理!」

 伸ばされた奴の腕を搔い潜り、その顎を目掛けて強烈な肘打ちをお見舞いすると、奴はまるでラリアットを食らったレスラーの様に床に仰向けに倒れる。

 顎を打たれた事で奴は既に激しい脳震盪のうしんとうを起こして意識がないから受け身を取る事も出来ない。

 だから、その後頭部が床に打ち付けられる前に、そっと手を添えてゆっくり寝かせてやった。

「ヤザ、手伝え!」

 外に居るヤザに声を掛け、寝ているツポレフの手からマカロフ PMを奪い、スライドを引いて弾を装填する。

 入って来たヤザに倒れているツポレフを運び出す様に言うと、嫌な顔をされたが、私が睨むと渋々承知した。

 奥に進み、奥さんと子供が捕えられている部屋の鍵を銃で壊す。

「さあ早く!」

 中でツポレフと私の会話を聞いていた奥さんは、子供を抱き上げて直ぐに従ってくれたが火の手が大きくて、そこを飛び越えることが出来ずに立ち止まってしまう。

「子供は私が預かるから、貴女は早く火を飛び越えて下さい」

「嫌です!」

「!?」

 チューホフの奥さんは、そう言うと子供を抱いたまま火の中に飛び込んで行き、私も直ぐに後を追った。

 外に出ると、急に涼しい風が頬を撫でてくれ、外の倉庫から消火器を見つけて来たヤザが入れ替わりに小屋に入り火を消した。

 遥か30km向こうに見える炎の灯りを見て、奥さんが泣き出してしまう。

「すみません。私たちのせいで貴女の大切なお友達や部隊を、こんなことにしてしまって」

「大丈夫です。あの灯りは勝利のウィングビクトリーです」

「Winged Victory?」

「まあ、しばらく見ていれば分かります」

 拘束した4人と、私たちは遠くの火をしばらく眺めていた。

 すると、次第に灯りは弱くなり、そのうちに消えてしまった。

 消える火と入れ替わりに、寝ていた子供が起きる。

「ママ、お外に出られたの?」

「そうよ、このお姉さんたちが助けに来てくれたの」

 お母さんを見ていた子供の目が私に向けられる。

 まるで宇宙図鑑に載っている、綺麗な天体のような真ん丸な目。

「お兄さん、ありがとう」

「!?」

「お姉さんよ。すみません」

「お姉さんじゃなくて、お兄さんだよ。だってカッコイイもん」

「チャンと、おっぱいがあるでしょ。すみません」

 男の子が私の胸に手を伸ばしたので、私も触りやすいように胸を突き出してあげる。

「ほんとだ、チョッとお母さんより硬いけれど、大きくて柔らかい」

 暗くなった空が一瞬明るくなった。

「ほら、始まるよ」

 私は南の地平線を指さした。

「あっ、赤く光った。また光った。今度は赤じゃなく緑、今度はオレンジ。ヒマワリの花だ」

「あれは花火よ」

 いくつか光った後に、ようやくドーン、ドーンと音が聞こえてきた。

「でも、どうして花火なんです?沢山の人が怪我をなさったのに」

「おそらく誰も死んでないし、誰も怪我などしていないと思います。それは全て貴女の旦那さんたちのおかげです」

「そ、そうなんですか?」

「勇気ある行動です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ