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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
197/301

【ニケ⑧(Winged Victory)】

 一旦離れた後、奴は柔道の組み手争いの様に小刻みに私の手や腕を掴もうとして来るので、私は掴まれない様に同じように手を動かしながら、隙を見ては時々奴にパンチをお見舞いする。

 何度かそうしているうちに、カウンターが入り奴は腰が砕けその場に倒れた。

 チャンスではあるが、飛び込まない。

 たしかに今のカウンターで膝には来るだろうが、持ちこたられない程では無かったはず。

 最悪持ちこたえられなくても、尻もちをついてしまう程度で倒れる程ではない。

 ではなぜ倒れたのか?

 それは誘っているから。

 私がチャンスと見て覆い被さろうものなら、腕や足を絡めて、徐々に体力を奪いながら関節や絞め技を狙うつもり。

 不利な体勢から相手を誘い込み、徐々に蟻地獄へと持って行くのは、コマンドサンボ関節マスター独特のスタイル。

 寝技は体重の軽い私には不利。

 わざわざ飛びこんで行く必要はない。

「どうした、来ないのか臆病者め」

 奴が誘いを掛ける。

「お前の様なクズ野郎と寝る趣味は持ち合わせてはいない」

「じゃあこうしてダメージを回復させてもらうとするか」

「好きなだけ回復させるがいい。だがそれも生きているうちだけだ」

「ほう……」

 私がドアの方に下がっていくのを見たツポレフは、慌てて飛び起きて掛かってきた。

 何故か?

 それはドアの傍には、私に弾き落とされた奴の銃があるから。

 馬鹿め。

 私はお前と格闘技の勝負に来たわけではない。

 ようやく気が付いてももう遅い。

 落ちていたマカロフ PMを拾い、スライダーを引くと、装填されていた銃弾が飛び出した。

「馬鹿め、既にコッキング済みだ!」

 奴の蹴りが私の手を弾き、持っていた銃が手から離れる。

 蹴り際に腰を落として爪先を上手に返したから銃は引き戻されるように飛んだが、蹴られるときに私の握りが浅かったため、その軌道は奴の伸ばした手の上を超えて天井のランプの支柱に当たり部屋の奥に落ちた。

 拳銃の衝撃を食らった支柱が傾いて、掛けられていたランプが激しく揺れる。

「貴様、ワザと手を離したな!」

 拳銃を取るために屈んだ姿勢になっていた私目掛けて、奴は勢いよく飛び込んできたので巴投げで返す。

 奴の体がドアの柱に当たり老朽化している納屋全体が激しく揺れ、その拍子に傾いていたランプの支柱が天井から外れて床に落ちたランプが割れた。

 油が零れ、それにランプの灯が付く。

 “マズい!火が大きくなってしまうと、部屋の奥に進めなくなってしまう”

 部屋の奥には、チューホフの奥さんと子供が居る。

 慌てて火を消しに行こうとする私の襟に奴の手が伸びて掴まれる。

 そのまま体を起こされたかと思うと、裸絞め(スリーパーホールド)の体勢に持ち込まれた。

 “ヤバイ!落とされる”

 直ぐに手を引っ掛けて決まらない様にするが、時間の問題。

 映画やドラマの様に決められてからでは外すことは出来ない。

 決まれば一瞬の間に落とされてしまう。

 ジタバタさせた足で狭い通路に置いてある机を駆け上り、そこから勢いよく蹴り上げて奴の頭を越えて後ろに回り込むことで裸絞めの体勢から逃れることは出来たが、決められる寸前だったために直ぐ次の行動に移れないでいた私は奴の後ろ蹴りを食らいドアの前まで飛ばされてしまった。

 “奴の次の手は!?”

 圧倒的に不利な体勢。

 絞め技を食らった事で息が上がっているから、しばらくは防御に徹して体力の回復を待つしかないが、そうなれば火の手は大きくなってしまう。

 だが、今は仕方がない。

 しかし奴は攻めてこずに、足音は遠のいていった。

 起き上がると、奴は火を飛び越えて、その向こうに落ちた拳銃を拾い上げようとしていた。

「俺の勝ちだな」

「……どうだか」

 拳銃に警戒しながら、ゆっくりと近づく。

「負け惜しみを言うな」

「私を殺す気か」

「そうだな、ニケを捕獲すれば賞金は10000万ルーブル。死体でも500万ルーブル。どっちがいい?」

「安く見られたものだな」

「安い?捕獲すれば10年は遊んで暮らせる金だぞ。だが、捕獲はしないでおこう。後で一杯食わされるかも知れないからな」

「それはセルゲイが信用ならないってことか?」

「いや、お前が油断ならないからだ」

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