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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****将校としての最初の仕事(First job as an officer )*****
19/301

【当直③(On duty)】

 結局この日、子を見つけることは出来なかった。

 次の日、事務長のテシューブに無線室の10日間の使用許可を願い出ると、意外にアッサリと許可された。

 ただし、絶対に発信しないことと、当直の邪魔をしないこと、それに時間は0時迄だが当直士官に退出を言い渡された時は速やかに指示に従うことの3点を注意事項として言い渡された。

 軍曹だった頃は、実績を積んでも厄介者扱いされていたのに、士官になってからは意外に普通に接してくれている。

 だがこれは下士官や士官と言う階級の違いと言うより、私自身が人に対して謙虚な姿勢を身に着けたことが大きな原因なのだと思う。

 たった6ヶ月だったけれど、大勢の生徒や先生に囲まれて過ごしたサン・シールでの出合いの一つ一つが社会性という形になり、私の大切な財産になっているのだ。

 地道な作業が続く。

 ラジオ放送の様に四六時中電波を出し続けていてくれれば簡単なのだが、今回の場合は、そうではない。

 放送用の電波から飛行機の無線にウクライナやベラルーシ軍の無線に、地域のコミュニティー放送やアマチュア無線まで、沢山の電波が行きかう中にあって“子”の無線はたった数秒程度しか使われない。

 しかも場所をある程度絞り込んでおかないと、偶然見つけることも叶わない。

 根気とタイミングと、相手の場所を推理する能力が鍵となる。

 既に9日が経過したが、見つからない。

 10日目は、当直にハンスが居た。

「まだやっているのか。何か見つけたか?」

「いいえ、何も、です」

「まあ素人のくせに発信場所を特定しただけでも、たいしたものだ。ところでDGSEも苦労している暗号の方はどうなんだ?」

「あの暗号は解けない」

「解けない?」

 ハンスが仕事の手を止めた。

「どういう事だ?」

「つまりあれは暗号じゃないと言う事。乱数表や数式を当てはめようとしても、そもそも出鱈目だから当てはまらない」

「じゃあ、何のために発信している?」

「仲間に情報を伝えるため」

「意味が分からん。それじゃあ、やはり暗号じゃないか」

「そう。予め何パターンもの合わせ表と照らし合わせると言う古典的な、ね」

「何故そう思う?」

「通信の傍受を記録に取っていたところ、発信時刻が全く同じものが2回だったが、通信時間が同じものは7回もあった」

「時刻は決められた時刻と言うものがあるかも知れんし、通信内容が同じであれば通信時間も同じ時間になると言う考えは当てはまらないのか?」

「ない」

「どうして?」

「通信時刻は今のところ数パターン確認しているが、出鱈目な暗号の中に数カ所だけ“ある法則”に紐づけられた箇所があった。それは通信時間の“修正”」

「どういう事だ?」

「通信時間に当てはめられた命令文を修正するためと考えられないか?」

「仮に毎時50分に当てはめられている命令が“突撃せよ!”だった場合、現在時刻が20分であれば30分も待たなければならない。そこで電文の中に必要な場合は30分時計を進める暗号を入れておくと言う訳か」

「ああ。この場合例えばそれぞれ違う日の同時刻に送った電文の中に10分進めるものと、そのままのものとがあった場合の規則なんて、命令の内容も分からない傍受者にとっては何も判断が付かない数字と言うことになってしまう」

「その後半の内容も、おそらく文字数か時間の長さなどで予め決まっていれば、その作戦表を持っていない者にとっては何も分からない」

「つまり、第2次世界大戦の太平洋戦争において最大の山場となったミッドウェイ海戦で日本軍が使用した地理上の暗号と同じ」

「あの時は、たしか“AF”と言う地点がどこを指すのか分からなかったため、C・ニミッツがミッドウェイ島に偽の平文“水道が故障して水不足”を発進させた」

「そしてウェーク島に居た日本の通信部隊が、敵の送った平文に対して暗号を使って本国に送信した“AFが真水不足”。これによりほぼ日本の勝ちは無くなったと言える(※下記)」

「平文を受けて、暗号文を送るなど、敵に答えを教えているようなもので、尋常じゃない」

「敵に試してみたのか?」

「まさか、発信の許可は出ていない」

 ハンスが急に腕組みをして机に腰かけて言った「へぇ~大人しくなったものだな」と。

「当たり前の事だろう」と答えると「サン・シールに行く前は、そのあたりまえの事を飛び越えていたのに」と笑われた。

 やはりハンスと居るのは楽しい。

 トーニと居るときも楽しいが、惹かれ方が少し違う。

「で、今抱えている問題はなんだ?」

「敵の発信源である親機の情報は取れたが、それを受ける子機の居場所がつかめない」

「じゃあ航空無線を傍受してみてはどうだ?」

「航空無線!」

 ……そうか、不穏な無線はここ(フランス)に居るよりもウクライナの方がはるかに傍受しやすいから、絶えず航空機などで警戒に当たっているはず。

 さすがハンス。

 元通信兵だったハンスならではの視点!

 航空無線なら周波数帯は限られるし、個々の航空機の周波数が分からなくても、基地の周波数は直ぐに分かる。

 基地の周波数が分かると、自ずとその基地と交信する航空機の無線も傍受できるので、その航空機が今どこを捜索しているのかも直ぐに分かる。

「有り難うハンス!」

 私は直ぐに無線機に取りついた。


(※日本軍の攻撃目標がミッドウェイ島と、空母艦隊の撃滅であることが分かったアメリカ軍は、日本軍の航空母艦6隻からなる航空戦力を320機と想定し(実際は翔鶴と瑞鶴は参加せず、日本側の航空戦力は248機)それに対抗するためにミッドウェイ島の航空戦力を大幅に増やし3空母による232機+ミッドウェイ島航空隊101機の333機の航空戦力を整え、更に基地偵察機も32機+潜水艦20隻に増やし索敵にあたらせている。ちなみに敵地に入り込む日本軍は偵察にあたる水上機16機、潜水艦は数こそアメリカ軍より若干多い23隻が動員されたが作戦計画が早急すぎて足の遅い潜水艦がハワイ島周辺に展開し終えた頃にはアメリカ艦隊は既にハワイ島を出発した後であった)

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