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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****将校としての最初の仕事(First job as an officer )*****
18/301

【当直②(On duty)】

 次の休日、DGSE(対外治安総局)のエマとベルサイユに来ていた。

 コロンビアでの任務が終わって帰国してから、直ぐにサン・シール行きになったので、電話でのやり取り以外で、こうして会うのは半年振り。

 一緒に入ったベルサイユ宮殿は、正に豪華絢爛ごうかけんらん

 建物の装飾は勿論、床や壁のさんに至るまで何一つとして無造作に作られた物はなく、華やかで、煌びやかで、崇高で、目をどこに向けても正に溜息しか出ない。

 宮殿を見上げるように立つラトナの噴水と、奥に広がるフランス式庭園、アポロンの泉水。

 十字架の大運河の周囲に広がる整備の行き届いた森を2人で歩いた。

 私はエマに聞かれるまま、サン・シールで過ごした日々の事を話していた。

「ふぅ~ん、そのメリッサって子はDGSEを目指しているんだ。素質有りそう!」

「エマも素質あったんだろ?」

「ううん。前にも言ったけど、あの頃の私はSEX依存症だったから遊んでばかりよ。とても今の自分なんて想像もできなかった」

「でも、それは人間関係に積極的に取り組んでいるってことでしょう?私なんて足元にも及ばないし、偉いと思うぞ」

「あら、有り難う。それにしても、たった半年サン・シールに通っただけでナトちゃん変わったね」

「一人称だけな」

「そうかなぁ、なんかもっと変わった気がするけれど。ところで何で一人称を変えたの?」

「差別をなくすためだ」

「差別!?」

「だって、士官の前では“私”、兵卒の前では“俺”だと、相手によって態度を変えている嫌な奴みたいだろ」

「だったら前は誰の前でも“俺”だったの?」

「う~ん……正直、一匹オオカミで良いと思っていたから」

「今は?」

「今は違う。エマに対してもだけど、ルームメイトだったメリッサたちと、たとえ部隊は違っても何かあった時には助け合おうって約束したから。そのためには1匹オオカミのままじゃ何もできない」

「大人になったねぇ~」

 エマが私の髪をクシャクシャに撫でた。

「もうっ!直ぐ、そうやって子ども扱いするっ!」

「ところで彼氏とは仲良くやっているの?」

「彼氏??」

「あっ、大きい方の」

 みるみるうちに顔が赤くなって行くのが自分でも分かる。

「ハンス大尉は彼氏でも何でもない。彼は私の上官だ!それに大きい方って一体なんだ!?まるで小さい方も居るように聞こえるじゃないか!」

「まあまあ、そう怒らないで。その小さい方とは滝の傍にある麻畑の中、2人きりで一夜明かしたって聞いたわよ」

「エマが喜びそうなことは、何もない」

「ノーブラで、着衣の乱れがあったと聞いたけど?」

 サオリに聞いたな……どうも、サオリとエマは俺を揶揄からかいたがるのが悪い癖だ。

「チャンと知っているんだろう。その前に俺たちがワニの群れと闘い、ピラニアの居る川を泳いだって言うことを」

「勿論知っているわよ。だから着衣の乱れは仕方ないけれど、戦闘中にブラが取れたって話は聞いたことがないわ」

「だって、相手は人間じゃなくてワニとピラニアだぞ」

「ハンス大尉もそう思ってくれるといいけれどね!」

「ふ、ふつう思うだろう!?」

「いいえ、ふつう思わないわ。だって誰もワニやピラニアと戦ったことはないんだもの」

「……」

 広い公園の中に左程ベンチは多くないが、それでも空いているベンチがあったので腰掛けた。

 青い空に、木々と整備された芝生の緑が奇麗。

 1直線に植えられた木々の間を、悠々と風が抜けて行く。

「当直は、どう?」

「退屈」

「そうでしょうね。ところで少し頼みたいことがあるんだけれど」

「なに」

「この周波数の無線に注意してもらえる?」

 エマが俺に無線の周波数を書いたメモ用紙を渡した。

「これは?」

「これは、ある地域で最近頻繁に使われている周波数なの。暗号電文なので未だ内容は解明できていないけれど、不穏な事は確かよ」

「なぜ不穏だと?それになぜ私に?」

「先ず後の質問の回答は、私の担当管轄外だから介入できないし、この手のスペシャリストだったレイラは離職してもういない。前者の回答は、私の勘」

「勘と言うことはDGSE(対外治安総局)内部では、そう問題とされていないと言う事か?」

「そうよ」

「だが、職務上知り得た情報を外部に漏らすのは、良くないことではないのか?」

「あら、さすが中尉になっただけの事はあるわね。でも大丈夫よ。昨日ゴシップ記事の大好きなテレビ局が取材に来て全部バレちゃっているから、今夜のニュースには取り上げられるでしょ」

「わかった。では調べよう」

「あら、意外に簡単に承知してくれるのね」

「エマの頼みだからな」

「ありがとう」


 次の当直の時、エマに渡された周波数にチャンネルを合わせて監視した。

 フランス軍の持つそれぞれの衛星を使って受信レベルを測定して計算で発信場所を調べると、発信場所はベラルーシとロシア、ウクライナの国境線があるベラルーシの村。

 こんな場所で暗号電文を使うのは確かに怪しいし、しかもこんな真夜中まで。

 現在時刻は午前0時。

 ウクライナでは午前1時。

「やあ、ナトちゃん交代だよ」

 丁度時計を見上げた時、ニルス中尉が交代をするために入って来た。

「少しこの無線を使わせてもらっていいだろうか?」

「いいけど、寝ないの?当直と言っても次の日は通常勤務だよ」

「わかっています」

 ニルスはそのまま当直の仕事に入り、私はそのまま考えていた。

 エマの話しぶりだと、DGSEは未だ暗号を解いていない。

 それだけ複雑な暗号なのだろうから、自分で解こうとは思わなかった。

 俺が注目したのは暗号を出しているほうではなく、受け取っている側。

 暗号を受け取っている側も、無線封鎖をしていない限り、通信機を使っているはず。

 どこで、どの周波数を使っているのか分からないことが厄介だが、根気よく周囲の無線状況を調べてみる事にした。

 鍵は子の無線。

 親からの連絡に反応して発信されるものが結びつくはずだ。

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