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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
179/301

【運送屋①(Express company)】

 エマが注文したのは鶏肉とコーンのバーベキューの様に焼いたものと、茹でたロブスターに似たエビ、それとサラダに白ワイン。

 どれも大皿に4人分以上はある。

「ヒャー!こりゃあ豪勢だな。少し小さいが、ロブスターをこんなに食えるなんて最高だぜ!」

「これはロブスターではなく、ヨーロッパザリガニよ」

「「ザリガニ!?」」

「そんなの食えるのか!?」

「ヨーロッパザリガニは、フランス料理ではエクルヴィスと呼ばれて、高級食材のひとつよ。食べたことないの?」

「「ない」」

「だいたいオメーの国は、ザリガニを食ったりナメクジを食ったり、イカレテいるぜ!」

「ナメクジは食べない!食べるのはカタツムリよ‼」

 これは後で調べて分かった事なのだが、ザリガニを食べるのは北欧を始めとしてヨーロッパ全土に広がり特にニルス中尉の故郷スウェーデンでは人気の料理だが、トーニの故郷であるイタリアでは左程食べられていない。

「でもよう。こう大皿料理が並ぶと、まるでパーティーみたいだな。食いきれるのか?」

 トーニが心配する通り、少々量が多い気がする。

 特に肉料理が苦手な私は、鶏肉を一塊食べた後はコーンとサラダを中心にザリガニを数匹摘まんでみたが甘くて思った以上に美味しい。

 しかし食べ物を片付ける戦力には寄与していない。

「ほら、もっと食べないと残ってしまうわよ」

 そう言いながらエマは更にピザとパスタを追加注文する。

 トーニは好物のピザとパスタがきたものだから、そっちの方に手を出し、一向にザリガニと鶏肉が減らない。

「ちょっと注文し過ぎたかな」

 さすがにエマもマズいと思ったのか、応援してくれる人を捜し求めるように辺りをキョロキョロと見まわしていると、あの補給用のボートに乗っていた一番年上の男がやってきて話し掛けてきた。

 40代前半のガッチリした体格の男。

「どちらから?」

「私はフランスからで、こっちはドイツ、そしてこっちはイタリア」

「まるで多国籍軍ですね。3人は、どういう関係?」

「いとこです」

「なるほど、サマーブレイクで観光?」

「そうです」

「なぜウクライナに?」

「一番年下の、この子の友達が事故で入院したので、お見舞いを兼ねて来ましたのよ。なにせ今ウクライナはチョットした戦争状態だって言うでしょう。だから私達2人が護衛というわけ」

「事故は、交通事故?」

「いいえ、それがヘリの墜落事故らしいの」

「ヘリの墜落事故!?」

「そう。友達って軍関係の人だったらしいの。結局LINEでは話は出来たんですが、いざ来てみると面会は叶わず、折角来たんだからってこうしてあちこち回っているの」

 それまで柔和な顔で話していた男の顔に影が差すのが見て取れた。

「ちょっと待って」

 男は一旦席に戻ると、30代半ばの肩幅の広い隊長らしい男と話をした後に、3人連れて私たちを取り囲む。

 トーニが焦って私の顔を見るので、私も合わせて不安な表情を見せて返す。

「よかったら、一緒に食事しませんか?お金は払えませんが、余った食事も片付けますよ」

「助かります。あんまり安いので、沢山注文し過ぎて困っていたところなんです」

「ああ、G7の国から来たら、ウクライナの物価は半端なく安いですからね」

「すみません!私ったら……」

「構いません。それで人が来てくれるのですから」

 エマが皿を持とうとすると、男は手で制してパチンと指を鳴らすと他の3人と共にテーブルに手を掛けた。

「皆さんは、椅子だけ持って来て下さい」

 テーブルが運ばれて、いつの間にか開けられていた彼等のテーブルの真ん中に入れられた。

 当然、椅子を持った私たちも彼らに取り囲まれる形で座る。

 エマの隣には声を掛けてきた男が座り、私の向かいでトーニの隣には隊長らしい男が座った。

「ようこそウクライナへ、私は倉庫番のユーリン・ヴォルコフです。ユーリと呼んで下さい」

「私は配送責任者のイヴァン・クラーキンです」

 補給隊の隊長らしいユーリにしても副官らしいイヴァンや部下たちの雰囲気的には、先に対戦したセルゲイの右腕と言われたグラコフ少佐よりも個人の能力は計り知れないが、組織的にはかなり手強そうだ。

 しかし、何故か何かが違う気がする。

「エマ・ブラッドショウです」

 私が相手の観察をしているうちにエマが名乗った。

 エマはDGSEのエージェントだから、名前が漏れている可能性があるので偽名を使のは分るが、よりによって私のラストネームを名乗るなんて。

 トーニがへまをすると大変だから、慌てて私がトーニの前に名乗る。

「ナトー・ブラッドショウです」

 名乗り終わって机の下から足でトーニを突くと、おそらく偽名を考えていただろうトーニが慌てて「トーニ・ブラッドショウです」と名乗り、これで私たちは同じ3人兄弟の父親を持つ従兄妹と言う誰が聞いても分りやすい結果になった。

 ここで誰かが違うラストネームを言うと、家族構成が分り辛くなり、そこを色々聞かれてしまうとボロが出てしまい怪しまれる可能性が高い。

 同じブラッドショウ一家の出身と言うことで、誰もその事について興味を持たなかったようで、何も聞かれずに済み和気あいあいの食事会となった。

 さすがエマ。

 こうして人と友達になるのが上手いうえに、人の呼び寄せ方も知っている。

 私ではナカナカこう上手くはいかない。

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