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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
178/301

【偶然に出会う確率③(Probability of meeting by chance)】

「これからどうする?」

「リビアの時の様に即応部隊が居る訳ではないから、なるべくお互いに離れない方が良いだろう」

「じゃあ釣りね」

「男釣りか?」

「アンタねぇ!」

 揶揄ったトーニに、珍しくエマが噛みついたので慌てて仲裁に入る。

 とりあえず近くのフィッシングショップで3人分のロッド(釣り竿)とリールを揃え、ルアーは幾つもの種類がケースに入ったセットものにした。

 釣り道具を揃え、早速川に行く。

「ところで、コレ沢山あるけれど、どれがいいんだ?」

「えっ!?まさかアンタ、ルアーフィッシング初めてじゃないでしょうね」

「初めてだけど、なんで?」

 トーニの実家はローマの北西にある地中海沿いの町サンタ・マリネッラ。

 しかも家の直ぐ目の前には、地中海の絶景が広がると何度か聞いたことがある。

「でも釣りは、子供の頃からしていただろう?」

「うんにゃ、していない」

「どうして?普通男の子なら釣りぐらいするでしょう!?」

 エマが呆れて聞くと「特に自分で釣らなくても、近所の人が釣った魚を沢山持って来てくれるから」と言った。

「それは食料の為でしょう!遊びの釣りはしないの?」

「遊びの釣り?魚の命を奪ってしまうのに?」

「リリースすればいいのよ!」

「つまり傷つけるだけで命は奪わないって言う、偽善行為か?」

 “傷つけるだけで命は奪わない……偽善行為……”

 トーニの言葉が心臓をエグル。

 ザリバンでの戦い以降、私は敵を殺さない方法を出来るだけとってきた。

 しかし怪我をする以上、日常的な生活に支障は出るはず。

 中には以前の様に体の自由が利かず、気が滅入ってしまい自殺した人も出て居るかも知れない。

 トーニが言う通り、私が行ってきたことは、単なる偽善行為なのかも知れない。

「なっ、なに言っているのよ!チャンとした技術があればリリースされた魚が死んだり傷ついたりすることなんて殆どないわよ!そりゃあボーっとしてルアーを飲み込ませてしまっては、魚も傷つくでしょうけれど、それをさせないようにするのがレジャーやスポーツとしてのフィッシングよ!」

「そ、そりゃあそうだ。きゅ、急所を外しさえすれば傷だって直ぐに癒える。要は、相手を傷付けないように意識する事が肝心だ。お、俺としたことが迂闊だった。すまねえ」

 私の考えていることに気付いたエマがトーニに言うと、トーニも直ぐに気付いて気を使ってくれた。

「すまない私の為に」

「ナトーのため?なに言ってんだ?魚の為だろう。なあ、エマ」

「そうそう。魚のため。さあ、とりあえず川で魚を釣りましょう」

 いつもながら優しい友を持って、私は幸せだ。


 結局、3人とも魚を釣る事は出来なかった。

 やはり、それなりのテクニックと経験が無ければ、出会う確率は低いと言うことなのだろう。

 道具を洗って部屋に戻り、もう一度軽くシャワーを浴びてから食堂に向かう。

「いい、私たちはパリから来た従兄同士と言う設定よ」

 ブリュネット(栗毛)のエマに、黒髪のトーニ、そしてアッシュブロンドとトーニは呼んでくれるけれどアルビノの私では、どう見ても従兄は似合わない。

「親戚よりも職場の仲間の方が良いんじゃねえか?」

 トーニの言う通りだと私も思ったが、エマに強く否定された。

「駄目よ。職場の仲間だと必ず上下関係や恋愛関係があるはずで、初対面の相手は先ずその関係を確かめる必要があるわ。でも従兄同士なら、そう言った事は何も気にすることは無い。それぞれ結婚した親の関係で済むはずよ」

「じゃあ俺の父ちゃんはイタリアの黒髪の母ちゃんと結婚した」

「私のパパは、3人兄弟の長男で地元のママと結婚して、3番目の弟はイラク人女性と結婚してナトちゃんが生まれた。いいわね」

 こうして即席の従兄が完成して、私たちは食堂に向かった。


 食堂に入ると宿泊客の他に、あの3人の姿も食堂の端に見えたが他に4人居て、彼らは4人掛けのテーブルを2つ繋いで食事をしていた。

 直ぐにあの3人が私たちに気付き、仲間たちも振り向いた。

 エマの作戦通り、彼らに強烈なインパクトを与えたようだ。

 エマが見ている彼等に手を振ると、向こうもニコニコしながら手を振り、エマが私の耳元で小さな声で「成功ね」と呟く。

「腹減ったぁ、何を食べようか?」

 楽しそうに料理を選んでいるトーニのメニューを取り上げて、エマがボーイに注文を始めた。

「おい、俺にも選ばせろ!」

「駄目よ、今日は私の活躍が一番大きいんだから、私が選ぶのよ!」

「えっ!?エマの活躍って、いったい何したんだ?」

「ナトちゃんのセクシーショットを、あいつらに見せつけたのよ」

「なっ、ナトーのセクシーショット‼?」

 驚いて声を上げたトーニの口を押え、“嘘だ!”と嘘をついてしまった。

 純真なトーニの前では、いつまでもトーニの思う様な私でいたいから、あのような破廉恥な格好を彼らに見られたなんて思われたくない。

 それに、そんな事を知れば、トーニは彼らを敵視してしまうだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  人称を変えていますが、全く違和感が湧かないのはさすがです。 [一言]  優しい仕事仲間では無く、友達と呼んでいるのが凄くいいなあって思いました。  ナトーちゃんを見付けて安堵しているトー…
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