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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
176/301

【偶然に出会う確率①(Probability of meeting by chance)】

 船は真直ぐ向かい側の岸には向かわず、一旦湾になっている場所を出て広いドニエプル川に出てから、川幅50mにも満たない狭い水路に入って暫く進むと港が見えて来た。

 港の少し手前の倉庫には、さっきの3人組の乗っていたボートが止まっている。

「すげー!ドンピシャ‼」

「馬鹿!」

 声を上げたトーニを嗜めたが、それも無理はない。

 私自身、停泊するためにスピード落とし、ゆっくりと流れて行くその光景を見ながら胸が高鳴っていた。

「長い間、こういう仕事をしてきたけれど、こういった偶然に出くわすことも有るんだね」

 しみじみとエマが言う。

 モンタナからのSNSで敵の船がストラホリッサ方面に進んだことは分かったが、モンタナは船を追いかけたわけではないから、あくまでもその方向に船が消えたと言う事であって正確な場所を示したわけではない。

 しかもこの付近の湿地帯は迷路のように水路が入り組んでいるので、どの水路に入ったのかが分かっても、どこに向かったのかは全く分からない。

 水路を辿って行けばここから4km離れたメドビン、そこから西に6km離れたホルノスタイビリやラプチキに留まらず、更に西に6km離れたゾリン南のボㇹダメなど捜索範囲は広がる。

 最悪主流であるテテリヴ河沿いにさかのぼれば、ここから直線で150km、キエフの西120kmにある大都市ジトミールまで行ける。

 それが私たちの泊まるホテルから歩いて直ぐの所に在るとは、偶然にしても出来過ぎている。


 先ずはホテルに入りシャワーを浴びる。

 エマと私は相部屋、もちろんトーニは別の部屋だから、ホテルの中庭で待ち合わすことにした。

 トーニには悪いが、シャワーを浴びる時間は当然2人対1人なので、待ってもらう事になる。

「悪いがエマ、先に浴びさせてもらう」

「一緒じゃダメ?」

「駄目だ、私が入っている間、エマは見張っていてくれ」

「つまんないな。相変わらず、用心深いのね」

 急いでシャワー浴びて外に出ると、あんまり早いのでエマが呆れた顔をして言った。

「そんなに慌てなくても、トーニちゃんはマダマダ出てこないわよ」

「そうか?」

 髪をタオルドライしながら窓際に行くと、丁度そのトーニが中庭に出てきて私の方を見上げて手を振ったので、軽く手を振り返す。

「あら、仲いいのね。まるで恋人同士みたい」

「芝居だ」

「あらそう?でもトーニちゃんのシャワーが早いこと、何故分かったの?……ひょっとして寝た?」

「まさか、同じ部隊だからわかる」

「でも、シャワーの時間は違うでしょ?」

 私が会議などの用事で時間外に入った時に、何度かトーニと鉢合わせしたことがある。なんて詳しく話すこともあるまい。

「とにかくエマも急いでくれ」

「えーーーーっ!?」

「夜にもう一度入れば良いだろう?」

「一緒に入ってくれる?」

「ああ」

「じゃあ、急ぐね」

 11も年上なのに、いつもエマは可愛い。

 男が放っておかないのもよく分かる。

 約束通りエマにしては割と早くバスルームから出てきた。

「よし髪が乾いたら行くぞ!」

「ちょっと待ってね、お化粧もしなくっちゃ」

「そんなのしなくても、充分美人じゃないか」

「あら、有り難う。でもナトちゃんみたいに、人前ですっぴん晒せるほど美人ではないから」

 そう言うと、先ず乳液を塗って顔のマッサージから始めだした。

 “しまった!エマを先に入れておくべきだったんだ……”


「おまたせ♬」

「おう……」

「どう?ドキッとするでしょっ」

「ナトーは?」

 ショートパンツにブラウスの裾を縛り、露出度の高い“へそ出しルック”のエマをチラッと見ただけで、トーニはナトーが居ない事のほうが気になった様子。

「……ナトちゃんは、フロントで聞き込み調査中よ」

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