【敵補給部隊発見!④(Enemy supply unit found!)】
着替え終わって車に乗り、地図を見る。
「とりあえずスコルカ公園に行ってみよう」
「OK!」
「俺は?」
「トーニは、ここでバイクを置いて車に乗れ」
「バイクを置いて行ったら、盗まれるぞ」
「大丈夫、屹度ハバロフが回収してくれる」
「了解!」
ここからスコルカ公園までは3㎞あまり。
公園の北端にある港に車を停めると、さっきのボートが北上していくのが見えた。
「あの向こうには何がるのかしら?」
「ストラホリッサ」
「そこには何が有るの?」
「釣りの名所。河が入り組んでいる」
「なるほど、もし狙われたとしても追手を攪乱して逃げられるって訳ね」
「おそらく」
ただ倉庫があるだけではなく、敵ながらよく考えられている。
「これから、そこに乗り込むのか!?」
「そうだが、それは今直ぐではない」
「どこかに寄るの?」
「ああ、この先の町にある大天使ミカエル教会と戦争博物館を観に行く」
「観光じゃねえか」
「そう、私たちは外国人だ。観光もしないでウクライナに滞在しているのは不自然だろう?」
「そりゃそうだな」
大天使ミカエル教会は、小さいながらもチャンと鐘楼もあり趣があった。
戦争博物館は直ぐその隣にあり第2次世界大戦で使用されたT-34やT-72戦車、ZSU-23-4シルカ対空自走砲や2S3アカーツィヤ 152mm自走榴弾砲、そのほかBMP-1歩兵戦闘車や各種対戦車砲から野砲まで、使用されなくなった軍の廃棄品がズラリと並んでいた。
「なーんだ、只の廃棄物を外に並べただけじゃねえか」
トーニの言う通り我々にとっては只の廃棄物。
こんな物に大きな費用を掛け、こんな物の為に多くの人が犠牲になった。
もちろんこんな物によって救われた命もあるだろうが、救われた命に相反して奪われた命がある。
戦争の勝敗は、常に生死のバランスによって成り立っていて、そのことは我々人類にとって“戦争”と言う歴史が始まった時から変わっていない。
喧嘩ならお互いが傷つくだけで済むし、誰かが仲裁に入る事で直ぐに収めることも出来る。
しかし戦争は違う。
喧嘩で殴られた痛みは、直ぐに癒える。
たとえそれが大きな喧嘩であっても、武器を持たずお互いに殺意が無ければ仲違いしていた心も分かり合える時は来るだろし、喧嘩をすることによってお互いに分かり合える場合もある。
だが、戦争は違う。
戦争は凶悪な犯罪と同じで、必ず人の死に結びついてしまう。
人が死ぬと言う事は、それ相応の代償を伴う。
「しかし凄いわねー!マニアが喜びそう」
「マニア?」
私の思いを知ってか知らずか、エマは並んでいる戦車や装甲車に喜んでいる。
それにしてもマニアとは何なんだ?
いくらなんでも少し不謹慎では無いのか?
「モデラーよ」
「モデラー?」
「そう、プラモデルマニア。男の子って、結構こういうの好きでしょう?」
「ああ、俺もそうだけどプラモデルやモデルガンから兵器に興味を持って、軍隊に入る奴は多いよな」
「何故!?危険だとは思わないのか?」
トーニの言葉に呆れて聞き返した。
「まあ、一種のヒーロー症候群ってヤツだな。“死ぬかもしれない”ってことと“ヒーローになれる”ってことを天秤にかけた場合、ヒーローになる方を選ぶ男は多いんじゃねえのか?」
「……トーニも、そうなのか?」
思いがけないトーニの言葉に驚いて聞き返す。
「少しはその傾向があるかも知れねえが、俺は違う」
「傾向があるのに違う、とは?」
「俺はお茶の間で数週間か数年間話題になるだけのヒーローなんかには、なるつもりはねえ」
「どんなヒーローだったら命を懸けるの?」
今まで私たちの話を聞いていたエマが、トーニのヒーロー像について聞くと「カエサル(シーザー)や、カルタゴのハンニバル」だと答えてホッとした。
今の世の中で、そのような歴史に残る軍人は現れないし、そのような軍人が現われる場面もない。
もし現れたとするならば、その背景にある戦争は人類史上最も恥ずべき壊滅的な戦争だと言う事は間違いなく、その事はトーニ自身も分っているはず。
つまり、トーニは“男のロマン”を語ったに過ぎなかったのだ。
見学をしているうちにモンタナからSNSが届く、“I want to have a fishing camp”と。
あの船の行った方角にあるフィッシングの名所と言えばストラホリッサ。
私の勘は当たっていた。
対岸までの距離は約7kmと意外に近いが、ウクライナ北部は湿地帯が多く橋が架けられないため、ここからは大きく西に一旦迂回しなければならないため陸路ではかなり遠くなる。
私たちは車を置いて、船でストラホリッサを目指すことにした。




