【スイカ割り②(Watermelon split)】
「夏のキャンプと言えばコレだろう!」
カールが、得意そうに大型のクーラーボックスからスイカを取り出した。
「いつ買った?」
「なーに、ウクライナ人はスイカが大好きですから、7月はスーパーまで行かなくても路上でも売っていますので現場の帰りに買いました」
「おっと、これを忘れてもらっちゃあ困るぜ」
スイカの後にトーニが取り出したのは花火。
「お前、まさか迷っていた帰り道に?」
「まさか、このキャンプ場をベースにすると分かった時、既に購入済み」
「遊び気分か!?」
「いっ、いや……こう時も、あるかもって思って……」
私は、つい呆れた顔をしてしまい、トーニを困らせてしまった。
“マズい”
折角の雰囲気がブチ壊し。
「偽装でさあ」
「真面目に働いていたんじゃ、怪しまれるでしょう?」
モンタナとメントスがそう言うと、皆も自前の花火を私に見せる。
「夏のキャンプと言えば、やっぱり花火よね!」
エマも花火を取り出して見せてくれ、結局今夜はPause(小休止)と言うことになった。
「先ずはスイカ割りからだな」
「スイカ割り?」
「そう、目隠しして置かれたスイカを棒で叩いて割るのですよ」
説明してくれながら、カールが私の目に黒い布を被せて結ぶ。
「私が割るのか?」
「そうですよ隊長。スイカを割るのは一番の美女の務めですから」
ハバロフの言葉にエマが咳払いをして窘めた。
「いいですか?思いっきり叩くのが普通なんですが、隊長がこの棒で思いっきり叩いてしまうと、スイカが木っ端微塵になってしまって食べる所が無くなってしまいますから適当に手を抜いて叩いて下さい」
ブラームが私の手に棒を持たせて、叩き方の注意点を伝える。
「いいですか?スイカはここに置きましたよ!」
「おいメントス、隊長は既に目隠しをしているんだから、そう伝えてももう分からねえだろうが」
「そうですか?」
「どうなんです?隊長」
「10時30分、距離17.3mと言う所か?」
「ちょ、チョッと待って下さい……」
何故か私に聞いて来たフランソワが慌てて、シモーネにメジャーを取に行かせた。
「10時30分、距離17.3m。間違いありません」
「ヒュー♬」
何人かの口笛が聞こえた。
「ジェイソン、ボッシュ回せ回せ!」
「えっ、いいんですか?」
「バカヤロー!三半規管がイカレルくらい回さねえと、隊長はスタスタとスイカの所まで歩いて、その棒切れを振り下ろしてサッサとスイカを真っ二つに割ってしまうだろうぜ」
「でも兄貴、スイカ割りなんでしょう?」
「馬鹿か!?スイカ割りっつうもんは、ナカナカ目的のスイカに辿り着けなくて、俺達が右や左に誘導して割らせるのが面白いんだろうが!」
“なるほど、そう言うことか!”
棒を持っている私をジェイソンとボッシュがグルグルと回す。
“2周と1/3……3周と1/2”
2人が手を止める度に何周と何度回ったか確かめてしまう。
“いや、これでは駄目だ。忘れなくては”
「おいおい、隊長だからって遠慮するな!」
「もっとグルグル回さねえと、隊長は屹度何周と何度回ったかお見通しだぜ!」
「先輩方、こう回すんですよ!」
紳士的に交互に私の肩を持って回していたジェイソンとボッシュに、カールが加わる。
当然エッチなオジサンであるカールは、肩などと言う生易しい所は持たなくて、私の腰を持って回す。
時々、その手がお尻に触れたり、距離が近いせいか胸もどこかに当たったりする。
ジェイソンとボッシュも今まで通り肩を持って回そうとするがリズムが狂ってしまい空振りになり、その手が私の顔を傷つけてはいけないと言う意識から下げられ、何度も胸を掴んでしまう。
「すっ、すみません隊長!」
「気にするな……」
「まだ余裕があるみたいですね。2人とも腰を中心にもっと速く回しましょう。この隊長に遠慮は禁物です」
さすがに3人がかりで腰を回されると回転も速くなり、その手はお尻だけじゃなく、際どい所にも届きそうになり焦る。
ギャラリーも大喜び。
「痛って!」
はしゃぎ過ぎたのか、トーニが転んで声を上げた。
「ふわーっ!どうですか?隊長!?」
結局34周と1/2の位置で、カール達3人がへばってしまい、回転は終わった。
「さあ、ナトちゃんスイカ割りをはじめて頂戴」
角度を惑わせるためだろうスイカとは逆の方向、すなわち私の正面に立ったエマが試合開始のゴングを鳴らす。
いや、これは試合ではない。
“遊びだ”
このまま180度ターンすれば、スイカの方を向くはずだが、そうすればカール達3人の努力は無駄になる。
“さて、どうする?”
 




