【当直①(On duty)】
あれから1ヶ月、正式な編成が決まった。
結局LéMAT第4班は、G-LéMAT(Gはフランス語のGénial 、英語ではGreat)としてメンバーそのままで、特殊部隊として更なる高みを目指すこととなった。
そして私が、その初代隊長として任命された。
これに伴い、衛生兵のメントスが軍の医療機関にインターンとして半年の研修に行くことと、元プロのモトクロスライダーだったキースがハバロフと新たに配属される予定の2名と共にCOMLOG(兵站コマンド※後方支援を受け持つ部隊)に半年間の研修に行くこと、ジェイソンとボッシュの2人がフランス陸軍第1工兵連帯に半年の研修に行くことになった。
残ったメンバーはモンタナ軍曹、ブラーム伍長とフランソワ、トーニの兵長の4人と私だけ。
「たった5人でG-LéMATと言っても、少し白けるねえ」
射撃訓練中にトーニが無駄口を吐いた。
「馬鹿、気を緩めるな!出て行ったメンバーは専門性を身に着けるために行ったんだぞ。ボヤボヤしていたら帰って来た時に立場が逆転しているってこともある」
「俺がキースに、こき使われるこたあねえ」
「何を言っているんだトーニ、キースはバイクの世界でプロに上り詰めた人間だぞ。しかも雑誌の表紙に載ったこともある。ブラームやモンタナも将来を嘱望されたプロだったし、フランソワはその世界じゃ名の知れたストリートファイターだったんだぞ」
「でも、俺には爆弾処理って言う」
「爆弾処理の必要が無い時はどうする?それとも、LéMATを離れて陸軍の本物の爆弾処理班に転属するか?それなら私は何も文句は言わない」
「わかったよぉ~……」
「でも中尉、トーニの言うことも分らんでもありませんぜ、実際このメンバーで何かあった時は、その全てに対応できるかって言うと疑問符がついてしまいます」
「確かにモンタナの言う通りかもしれんが、それをキチンと乗り切るのがGの称号が付いた私たちの仕事じゃないのか?」
「さすが中尉。こりゃあ私が甘かったです」
中尉になって何か変わったかと言うと、何も変わりは無い。
確かに書類や会議への出席、当直と言う仕事は増えたけれど、それは私にとって暇な時間が減っただけの事。
サン・シールの友達から沢山の手紙をもらった。
みんな中尉への昇進を祝ってくれる気持ちを届けてくれた。
もちろんルームメイトのメリッサ、ステラ、カーラの3人やヴィクトルからも。
士官になって初めての当直は、初めてここに来た日と同じハンスとニルスが付いてくれた。
あの時は外人部隊入隊希望者として、特別な実技テストをクリアして次の日から行われる特別な学科テストを受けるためにここを宿舎代わりにして泊まったが、2年半経った今日は士官として各部隊からの無線連絡などを担当する。
無線室は空調が効いているが、結構暑い。
内勤用の薄い作業服を着たハンスの首筋に汗が流れるのをドキドキしながら見ていた。
「――と、言うことだ。分かったな」
「あっ、ハイ」
「本当に分かっているのか?じゃあ第3外人歩兵連隊の18時報告時間は?」
「21時です」
「じゃあマヨット外人部隊分遣隊の8時報告時間は?」
「5時です」
「よし」
正解しているのに、ハンスは何故かニルスに向かって呆れた顔をして溜息をついた。
「定時報告以外にも突発的な連絡は入って来るから、適切な対応をしろよ。ことわっておくが必ずしも無線の相手が適切ではない報告をしてくるかも分からんが、それは俺達が判断する事ではないから、くれぐれも余計な事は言わないようにして上の指示を仰げ」
「Mon Général!」
「重要拠点の情報収集も怠るな。あと、色々な国や航空機の無線を傍受するのは勝手だが、傍受した内容は分る範囲で記録しておくこと。そして重要と思われるものは直ぐに報告しろ」
「Mon Général!」
「通信衛星網で世界各地の無線を傍受できるからと言って、夢中になるなよ」
「Mon Général!」
「もういい。好きなようにしろ!」
「Mon Général!」
ハンスは呆れ返って、ニルス中尉を残して部屋を出て行った。
※Mon Général!は、直訳すると“私の将軍”となるが、アメリカ軍の“yes, sir!”と同様の意味を持つ。
「どうしたんだ、ナトちゃん」
「いや、別に……」
そう言って仕事に取り掛かったが、直ぐに理由をニルスに話した。
「みえみえですから、ニルス中尉には話します」
「うん」
「最近のハンス大尉は、私を避けているように思えたので、さっきは私の方からハンス大尉を追い返しました」
「なるほどね」
「ニルス中尉は、ハンス大尉と親友ですから、何かご存じではありませんか?」
「いや、彼は色恋事を僕には話さない」
「いっ、色恋だなんて……」
「違うの?」
「違います」
「じゃあ、何故ハンスを追っ払ったの?」
「だから、私を避けているから」
「何故、そう感じるの?」
「何故って、コロンビアでの作戦の時も、命令書の伝達だけだったし、私がサン・シールに行っているときも、少しでも顔を出しておけば、この様な事態にはならなかったはずだし……」
ニルスが顔を見てニヤッと笑う。
「ナトちゃんって、恋バナ弱点だよね」
「だっ、誰も恋バナなんてしていない!」
「あっ、そう」




