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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
168/301

【AFは水不足③(AF is short of water)】

 “地下水ろ過機の故障により至急真水の補給を頼む”

 第2次世界大戦の太平洋上の小さな島で打たれた電文は、ハワイ島から2000kmも離れたアメリカ軍の飛行場しかない孤島から発せられた。

 航空機が何機足りないとか、日本軍の艦艇を発見したとか、特別戦局にかかわるような情報ではない。

 一般的には、日本軍の攻撃目標が分からないアメリカがワザとミッドウェイ島から電文を撃たせ、その電文を傍受した日本軍のウェーク島守備隊が暗号電文でミッドウェイ島を表す“AF”を使ってしまったがために、日本軍空母艦隊の攻撃目標が判明した事になっている。

 この話は半分事実で半分は嘘。

 事実の方は、ミッドウェイ島がハワイにある太平洋艦隊司令部の指示に従い、平文で送信したと言うこと。

 嘘の部分は、日本軍ウェーク島守備隊が打電した暗号で、敵の攻撃目標がミッドウェイ島であることが分かったと言う点。

 実際のところアメリカ軍情報部は、既に日本軍の攻撃目標がミッドウェイ島である事は暗号電文を解析して既に知っていた。

 知っていながら、何故“水不足”の電文を打たせたのか?

 それは、日本軍の暗号を解析できていると言う事実を隠すため。

 

 時計を見る。

 エマと約束した20分がもう直ぐ来ようとしている。

 一体トーニは何をしているんだ。

 敵に掴まったのか……?

「さあ、そろそろ準備に取り掛かるわよ」

 エマが催促しに来た。

「まだ30秒ある」

「30秒なんて誤差のうちよ」

 座っている私にエマが手を差し出す。

 残り20秒。

「さあ」

 エマがさらに手を突き出す。

 仕方なしに、差し出された手を掴むと、見守っていた皆も腰を上げる。

 私はそこで意を決して命令を伝える。

「やはり今回は中止にする」

 敵の補給路を断つ最高のシチュエーションになると期待していた皆の顔が少し曇る。

「なんで中止にするの!?絶好のチャンスなのよ!何か不安な点でもあるの!?」

 私の決定に、珍しくエマが噛みついて来る。

「たしかに絶好のチャンスだし、不安な点もない」

「だったら……」

「だからこそ今回は中止にする」

「なんで?やはり罠なの?」

「罠かどうかは分からないが、迂闊すぎる。ドアが見つかったかも知れない日に偶然ろ過装置が壊れたとしても、様子を見るのが緊張感のある仕事をしている者の考え方だ。もしこれが罠で無かったとしたら、敵はこの様なチャンスを頻繁に我々に提供してくれるのではないか?それに全員が揃わない状況で動くのはマズい」

「そ、それもそうね。でも」

 まだ未練のあるエマが何か続きを言おうとしたとき、微かにバイクの音が聞こえた気がして言葉を止める。

「バイクの音が聞こえます!」

「こっちに向かっていまさあ」

「あれはトーニの乗るスーパーカブの音です!」

 ブラームに続いて、モンタナとキースが私に伝えてくれた。

 結局のところ、皆もトーニの事を心配する気持ちは私と同じなのだ。

 ほどなくしてトーニのバイクが到着した。

「何やってんだ!集合時間はとっくに過ぎているぞ!!」

 遅れて戻って来たトーニに向かって、フランソワが怒りの声を上げた。

「すまねえ」

「何か見つけたな」

「ああ、とびっきりの奴を見つけたぜ」

「なんだ!?」

「実はな……」

 トーニが話してくれた内容は、私にとって最も興味深い内容だった。

 森の中でキノコを探していたトーニは道に迷ってしまい、バイクを止めていたところに戻れなくなっていた。

 万一敵に拉致された場合、口を割らなくとも携帯の情報はとても貴重な情報となってしまうから、殆どのメンバーは携帯を置いて出動していてトーニも携帯は持って出ていない。

 とりあえず基地に居るニルス中尉にでも連絡を取ればなんとかなるだろうと思い、森の向こうに寂れた別荘を見つけたので電話を借りようと思い近付いた。

 玄関をノックしても返事がない。

 車も無かったので留守だと思ったが、とりあえず人目に付かない家の裏口に回り、鍵を開け中に入って固定電話でも有れば借りようと思った。

「犯罪行為だぞ!」

「すまねえ!」

 しかし落ちていた針金を鍵穴に挿したが、ドラマや映画の様に鍵はナカナカ開いてはくれなくて、そうしているうちに別荘の持ち主らしい車が近付いて来る音が聞こえて慌てて隠れた。

「電話を借りるのが目的だったのに、何故かくれたりしたの?」

やましい気持ちがあるからだ」

「面目ねえ。だが隠れて正解だった」

「それは?」

「やってきた車と言うのは、前にナトーが話してくれた謎の女が乗っているのと同じマイバッハだった」

「マイバッハ……」

「そう。マイバッハ自体、そう見かけるものでもねえし、ペンキも所々剥げ掛けている寂れた別荘にマイバッハは似合わねえ。しかもガラス越しに確認したところ、車から降りて来たのは女の2人連れ」

「女の2人連れ……」

「凄い金髪美人と、レスラーのような女か?」

「その通りだぜ。やっぱり、ショッピングモールの事件の時にあった女なのか?」

「そうだ」

「やりぃっ!やっぱり俺様は天才かも‼」

 トーニの話では、女は部屋に入ると誰かに電話で話をしていた。

 普通の会話ではなく、状況報告を聞いているような会話。

 そのうち女が、セルゲイに宛てて何か電話するように伝えて一旦電話を切り、今度はセルゲイに宛てて補給ルートを探られている可能性がある事と、探られているとすれば今夜動きがあるだろうことを伝えた。

「それを聞いた時刻は!?」

「16時15分」

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― 新着の感想 ―
[一言]  色んな歴史や世界情勢に詳しい湖灯様。  知識でストーリーの信憑性高めるのが本当に上手くて、とても勉強になりますし、感心してしまいます。  
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