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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
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【秘密の索敵任務②(Secret search mission)】

 補給ルートを探すのは敵の戦闘部隊を探すより難しい。

 何故なら補給部隊は市民に紛れている場合が多く、一見するとただ何かを輸送しているだけにしか見えないから。

 輸送を妨害するだけの目的であれば、しらみ潰しに輸送している品物を検閲すれば分かるが、その場合そこで必ず戦闘が発生してしまい我々が敵の輸送を阻害する行動を取っていることは敵に筒抜けになってしまう。

 もしそうなれば、敵は必ず輸送手段や輸送ルート、そして大元おおもととなる倉庫を替えてしまうだろう。

 だから敵の輸送ルートを調べるためには、絶対に気付かれてはならないのだ。


 1日目と2日目は何も収穫がなく終わったが、3日目にはモンタナが大物を釣り上げて来た。

 もっとも、釣り上げて来たのは敵の補給部隊の情報ではなく、15㎏のヨーロッパ大鯰なまず

 大きいものでは体長3m体重200㎏以上となるヨーロッパ大鯰としては左程大きい部類には入らないが、大物になると肉が脂肪だらけになるので食用にするには15㎏くらいが丁度いいと言われている。

 自慢するモンタナに対して、奇しくも同じ日に7㎏の巨大トラウトを釣り上げたフランソワは大いに悔しがっていた。

 早速モンタナとフランソワが調理してくれて、鯰はフライになり、トラウトはムニエルになり夕食のプレートに仲良く並べられた。

「大きさでは負けたが、味では勝ったな!」

「味は好みの問題だぜ。俺は鯰の方が好きだ!だいいちトラウトなんて大量に獲れるからワザワザ釣る事もねえだろう」

「なんだと!?鯰だって美味いのはもう少し小ぶりの奴だぜ、てめーみてーにデカいだけじゃ味も詰らねえ!」

「なんだと~!」

 珍しくモンタナが声を荒げて席を立つと、フランソワも席を立ち、皆が“ヤレ!ヤレ!”とはやし立てる。

「もーっ、あの子たち完璧に任務を忘れているわよ」

 エマが困った顔をして私を振り返ったので、私も席を立った。

「バカヤロー‼なにが大鯰だ!なにがトラウトだ!」

 私が大声を上げると、喧嘩をしていたモンタナとフランソワだけでなく、その喧嘩を囃し立てていたG-LeMATの皆が一瞬にして静まり返った。

「お前らが釣って来たのは、たかが1匹。どうせ暇つぶしに釣り針を沈めているうちに、偶然針に掛かっただけだ。どっちが美味いか聞かれたって、たったひと切れじゃあないか。船を借りてまで漁に出るくらいなら、偶然の1匹を自慢するのではなく、他の人たちにも食材を提供する気持ちがないと駄目だ!」

 皆が私の発言に驚いていたが、更に話を続けた。

「ハバロフとメントスも同じ。いくら波止場をうろついていても、何も取れはしない。お前たちはパスタに入れるムール貝をどっさり取って来い。トーニとキースも配達が終わって御終いじゃない。トリフを取って来いとは言わないが、トーニはキノコ、キースは山菜を探せ!猶予は3日やる。それまでに収穫のない奴は後日行うサバイバルゲームのメンバーから外す!もちろん私も森に入ってデザートになる食材を探す」

 エマが美人は目立ち過ぎると言ったが、ウクライナは美人が多い国として有名だから問題はない。

 それよりも目立つのはブラームの存在。

 フランスでは肌の色に関しての統計を取る事が禁止されているので正確な割合は分からないものの、国民全体の19%はアフリカ系移民が居るので黒人であるブラームも左程目立たないが、ウクライナの民族的統計ではアフリカ系と言う言葉すら入っていないし、隣国ロシアの統計でも民族ランク20位で0.03%以下のベトナム人までの中に入っていないのから余程少ないのだろう事は分る。

 たしかに街を歩いていても、観光客以外でアフリカ系の人を見かけることはない。

 だからブラームには有線ケーブルでの通信傍受をしているジェイソン、ボッシュ、カールのペアに入ってもらうことにした。


 次の日から皆の装備が変わった。

 モンタナ&イライシャ、フランソワ&シモーネのペアは、本格的なクーラーBOXや釣り道具にウェアーを買い揃え、いかにも釣り人らしくなって出向して行った。

 ハバロフとメントス、トーニとキースも今日からはクーラーBOX装備だ。

「いいの?」

 自転車で森に入り野生の果物を探しているときに、エマが不安そうに言った。

「いや、これでいいんだ」

 見張り捜査は難しい。

 本職の刑事だって、犯人に気付かれるくらいだから、素人の彼らなら誰がどう見ても不審者として映っていたに違いない。

 だから目的を与えた。

「でも、これじゃあカールのグループ以外、目的を忘れて機能しなくなっちゃうわよ」

「彼等はプロだ。決して本当の目的が何であるかは見失わない」

「だったら最初から、そうすれば良かったんじゃないの?」

「最初から手馴れていると、警戒されるばかりか直ぐにボロが出るだろう?」

「なるほどね。はじめは、おっかなびっくりで釣りをしていたので周囲が気になっていたけれど、まぐれで大きな魚を釣り当てて調子に乗って本格的に釣りに没頭するようになった。男の子には良くあるパターンね……」

 エマが他にも何か言いたそうな顔を見せ、私を見つめる。

「なに?」

「さすがに男を知ると、男性の心理も手玉にとるようになるのね」

 思いもかけない言葉に、カアーッと顔が赤くなる。

「バカバカバカ!」

 それしか言葉に出ず、正面からエマの肩を叩く。

「あら、こんな一言でこんなに焦るなんて、まだウブなのね。余程ハンスはナトちゃんの事を可愛がっていると見える」

 まるで男性のような低音を使って、いかにも評論家の様に話すエマ。

「もう!バカバカバカ!」

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