【集まった仲間たち⑤(Gathered friends)】
1週間後には待ちに待った隊員たちが戻って来た。
工兵部隊に研修に行っていたジェイソンとボッシュ。
COMLOG(兵站コマンド※後方支援を受け持つ部隊)に研修に行っていたキースとハバロフ、それに新しくメンバーに加わったイライシャとカルマン。
医療機関にインターンとして研修に行っていたメントスも。
「よう、久し振りじゃねえか。立派な大工になったか!?」
「兄貴ぃ~!」
ジェイソンとボッシュは直ぐにフランソワと抱き合い再会を喜び合った。
「イライシャ1等兵、シモーネ1等兵、着任します!」
新入りの2人は、真っ先にモンタナ軍曹の所に着任の挨拶に行った。
「おいおい、順番を間違えてもらっちゃ困るぜ。G-LeMATの隊長は、こちらのナトー中尉だ」
「えっ!?」
慌てて2人が私の所にやって来て、着任の挨拶をする。
その慌てぶりを見て、ジェイソンとボッシュが大笑いする。
どうやら移動中に私が女であることを、ワザと隠していたようだ。
「キース、バイクの腕は落ちていないだろうな」
「勿論です!第516輜重連隊では新しい相棒ヘイズM1030-M1の教官にならないかと、誘われたくらいですよ」
「さすがだな」
ヘイズM1030-M1とはカワサキKLR650をベースにエンジンをディーゼルに変換された重量177㎏のモンスターバイク。
馬力は約30馬力と控えめながらディーゼルエンジン特有の強力なトルクを持ち、砂漠や泥濘・急な坂道でもエンストすることなく抜群の走破性を誇る。
「じゃあ、ここにも、それで?」
「いえ、ここは砂漠はないですが泥濘地よりも更に厄介な湿地帯があります。底のない湿地帯では重いのは不利になりますから、いつものYZ450fを依頼しました」
「隊長お久しぶりです」
「メントス。頑張ったそうだな、イザック准将から話は聞いているぞ。ついに主任看護師の国家資格を取ったそうじゃないか」
「有り難うございます」
「次は軍医だな」
「ハイ。頑張ります!」
「隊長!」
「ハバロフ!大丈夫なのか?」
冷静な通信員であるハバロフが来てくれたのは有り難いが、彼はロシア人だから気がかりだった。
勿論ハバロフが裏切る事など有り得ないが、敵になるのが同じ国民である以上、精神的にキツイのではないかと思っていた。
「大丈夫です。外人部隊に入隊した時から、いつかはこういう任務もあると覚悟はしていましたし、別にロシアに攻め込む訳でもないでしょう?」
「それはそうだが……」
「なぁ~にハバロフなら心配は要りませんぜ。それに俺たちも」
「そうそう。モンタナの言う通り」
「俺たちは国を出て、平和のために過酷な最前線を選んだ男たちでさあ。もちろん国を愛する心は捨てちゃあいねえが、それよりも強い仲間の絆を持っていまさあ。違いますか隊長」
「ああ、その通りだ」
「さあG-LeMAT整列するぞ!」
丁度ハンスが来るのが見えたので、隊を整列させる。
「気をつけ!」
モンタナの大声が響く。
「ハンス司令官に、敬礼!」
ザッと言う音と共に、一糸乱れぬ敬礼。
「研修修了者6名新たにG-LeMATに着任します!」
「ご苦労!!」
ハンスの挨拶は極端的なものだったが、その一言と隊員を見る鷹のように鋭い目が、これから先に訪れる苦難の戦いを雄弁に物語っていた。
新たな隊員と、戻って来た隊員の報告を終えた後、司令部のテントに呼ばれた。
「また新たな動きでも?」
「いや、ない」
「あのミサイル攻撃以来、おとなしくなったものです」
「あ~大きな失敗だったですからね」
いつも出ずっぱりだった副司令官で空挺のルーカス大尉とスウェン少尉が言った。
たしかに今日は珍しく暇と言うか、出動の要請がない。
「折角、新兵器の準備をしているのに、これじゃあ出番がないかもね」
皆が集まっているので様子を見に来たニルス中尉が、楽しそうに言いう。
「敵がおとなしいのは、大きな反撃の準備をしているからとも考えられる」
ニルスの楽観論に対して、真面目なマーベリック中尉が警鐘を鳴らす。
「ならば、ここは攻めの一手に限る!と言うところですか?」
ルーカス大尉の意見に対して、ハンスが1人ずつ意見を聞いた。
「マーベリック、どう思う?」
「反撃の準備をさせないためにも、先手を打ってこちらから攻撃を仕掛ける事が肝心かと思います」
「どこに?どうやって?」
「おそらくは、この基地より北から西の範囲かと思われますので、先ずは大々的な偵察活動を行い、敵の本体発見後に全部隊を上げて総攻撃を仕掛けます」
「ニルス中尉」
「技術士官の立場から言うと、マーベリック中尉の意見は面白味に掛けますが、まあ妥当な線かと思います」
「スウェン少尉」
「じ、自分もマーベリック中尉の意見に賛成です」
階級的には、意見を求められる順番はもう一つ後だと思っていたスウェン少尉が、少し慌てて言った。
「ZSU23-4シルカ自走対空機関砲でも、借りておきますか?」
ルーカス大尉が半分本気で、半分冗談めいて言う。
「エマ少佐は?」
「そうね、ミサイルは使い切ったかも知れないけれど、敵にはまだ人工知能型自爆ドローンkub-blaを温存しているでしょうからシルカは大袈裟かもしてないけれど対空兵器はいるでしょうね。だけど敵を叩き潰すには、今が最も好機だと思います」
ハンスは顔の前で手を組んで、なにやら悩んでいる様子。
「ナトー、お前はどう思う?」
不意にハンスが私に意見を求めてきた。




