【誕生!ナトー中尉(Birth!! Natow Lieutenant)】
月曜日の朝、辞令を受理するために事務所に出向くと、まだ用意できていないと事務長のテシューブに睨まれた。
“やれやれ、いつまで経っても俺は厄介者だ……”
辞令も出なければ新しい軍服も支給されない。
“本当に受かったのか?”
仕方ないので、軍曹の制服を着て食堂に向かうと、いつも通りトーニが俺の席を取って居てくれていた。
「よう、ナトー士官食堂で食うんじゃなかったのか?」
「ここに場所がある限り、私はここで食べる」
「わっ私!?俺じゃないのか??」
「“俺”はもう卒業だ、だいいち士官である以上、俺と言う言葉は不適切になる」
「だからって、そんなこと気にするお前じゃないだろう?」
「いや、軍曹であれば上から睨まれるようなことがあったとしても個人として睨まれるだけで済むが、士官になればそれは部隊として睨まれる事になる。だからこれからは俺を止めて自分の呼称を私に変える」
「呼称を変えても、性格はナカナカ変わらねえぞ」
「わかっている」
「そっか、まあ頑張れ!」
言葉は素っ気なかったが、トーニが喜んでくれているのが分かり、嬉しかった。
「ナトー!」
食事が終ろうとしていた時、上の士官食堂からハンスの声が響いた。
いつもクールなハンスの大声に、食事をしていた他の者にも緊張が走る。
「なにか仕出かしたな」
トーニが私の気持ちを和らげるように笑うが、私は何もしていないと答えてトレーを片付けるために手に取ると「俺が片付けておいてやるから、お前は厄介ごとを片付けろ」と言ってくれた。
「どうしました、ハンス大尉」
「オーッ!受け応えが士官らしくなったね」
ハンスの後ろに居たニルス中尉が、返事を聞いて喜んでいた。
「お前、サン・シールで何をした!?」
「なにも……」
「じゃあ、この結果は、どういう訳だ!?」
ハンスが1枚の紙きれを私の前に突き出した。
それは私の名前が記されたCEMAT(フランス陸軍参謀総長)のサイン入りの書類。
「スゲーなナトー、参謀総長直筆のサイン入りじゃねえか!」
いつの間にか、トレーを片付けたトーニをはじめLéMATの仲間たちが私の後ろを並ぶように囲んでいた。
「一番上に任命書って書いてあるって言うことは、辞令だな。軍曹、いや少尉、おめでとうございます」
私が現隊に復帰する数日前にコルシカから帰って来たばかりのモンタナが敬意をこめて言ってくれた。
「モンタナの事例は外人部隊事務局からだったから、エレー違いだな」
「お前らの目は、どいつもこいつも“節穴”か!!」
またハンスが怒鳴る。
「ここをよく見ろ!」
指さしたのは文章の最後。
「なになに“――優秀な成績を収められました。よってナトーEブラッドショーを中尉に任命する”……ナトー!オメー中尉になっている!」
「えっ!?」
トーニに言われ、改めて書類を読んでみた。
「少尉の試験を受けに行って、なんで中尉になって帰って来るんだ?」
モンタナが不思議そうに言うと、トーニが噛みついて言った。
「ナトーは3等軍曹になる訓練を受けに行って、2等軍曹で帰って来ただろう。つまりオメーと比べてベストのつくし方が違うってことだ」
「で、隊長。何が問題なんです?」
皆が興奮する中、ブラームが冷静にハンスに肝心な部分を聞いてくれた。
「問題は山積みだ。一番の問題は、そのまま分隊長として置いておくはずだった所属を変えなきゃならん」
「所属を変える!?」
「少尉なら、まだ見習いとして分隊長として置いておけるが、中尉となると立派な小隊長だ!それよりも何でこんなことになった!?テストは月に1回だったんだろうな?簡単だからってリクエストはしていないだろうな!?」
「リクエストはしていないし、簡単でもありませんでした」
「じゃあ、どうして?」
「2ヶ月目からテストが急に月2回に増えました」
「どうしてだ?」
「私は……また私を落とそうと思っている勢力が動いているのだと思っていましたが……」
「いましたが?」
「EMAT(陸軍参謀本部)から准将が来ました」
「イザック准将か?」
「はい」
「何をしに?」
「それは……」
皆の前では言いたくなかった。
ハンスは直ぐに理解して「断ったんだな」と言ってくれた。
「はい」
ハンスはまた頭を抱え「モンタナの1班への移動は無しだ」と言った。
「じゃあこのまま4班に留まれるのですか?」
「ああ」
モンタナが喜んでガッツポーズを見せた。
「軍曹、いやナトー中尉は、どうなるんですか?」
いつも無口なハバロフが興奮気味にハンスに聞く。
「それを今から考える。つまり編成のやり直しだ!」
「部隊は!?」
今度は、あまり部隊について口を出すことのない衛生兵のメントスが聞いた。
「編成が終わるまで、そのままだ」
「そのままって事は?」
「分隊長も、そのままってことだ!」
「やったー!!」
皆が歓声を上げてくれた。