【集まった仲間たち②(Gathered friends)】
思わず手を口に当てた。
同時に涙が溢れて来る。
走り寄りたいと思いながらも、体が動かない。
「た、隊長!?一体どうしたの??」
もう、カールの声なんて聞こえない。
「ナトー!!」
久し振りに呼ばれる自分の名前にも感動してしまう。
動けないでいる私に代わって、向こうから走り寄ってきてくれた。
「ナトー!」
その声に勇気を貰い、ようやく私も動くことができ、その人の胸に飛び込んだ。
更に泣きじゃくるわたしを、あとの3人が優しく囲んでくれる。
「ナトー元気だったか」
「ナトちゃん久し振り」
「ナトちゃん大活躍ね」
「ナトーはん、なんで泣いてんねん」
感動のあまり答える事が出来ない。
ゲートから出て来たのは義父のヤザ、そして元ザリバンの幹部からエマと同じDGSEの職員になり今はヤザの妻となったレイラ、それにサオリとガモーの4人。
私は真っ先にヤザの懐に
戦争という嫌な思い出も沢山あったけれど、実の親ではないにしろ、こうして今の私があるのはヤザのおかげ。
0歳の時に大規模な爆破テロに巻き込まれた私は、両親を亡くし自らも瓦礫に埋もれていた。
その私を救い出して育ててくれたのが、ヤザとハイファの夫婦。
貧しかったけれど、とても明るく暖かな家庭だった。
ハイファは寝つきの悪い私に毎夜物語を聞かせてくれた。
屹度今の私が語学に堪能なのは、ハイファのおかげだと思う。
記憶には無いけれど聡明なハイファはいつの日か私が血縁者と会う日の為に、アラビア語の他の言葉でもお話を聞かせてくれていたに違いない。
よく5歳までに脳は出来上がるから、それまでの教育が大切と言われるけれど、いま私に授かっている能力はハイファが授けてくれたもの。
しかしそのハイファも多国籍軍の空爆によって私が5歳の時に亡くなり、残された私たちは多国籍軍への復讐のため国際テロ組織ザリバンに入り、今度はヤザによって戦場での戦い方や生き残るための知恵、狙撃術や格闘術を教わり、子供ながら次第に銃の腕を上げて行った私は多国籍軍から“グリムリーパー(死神)”と恐れられる狙撃兵となっていた。
グリムリーパーとしての私はハンスのお兄さんを殺したところで、一瞬にして終わる。
ニレイの家族の住むアパートから狙撃したところ、その頃はまだ通信士だったハンスの送った砲撃座標がズバリ当たり、私は瓦礫と共に呑み込まれてしまった。
そして、そこに駆けつけて瀕死の私を助け出してくれたのが、このサオリ。
サオリは国際赤十字の医師として難民キャンプで働く傍ら、私は久し振りに戦争のない普通の生活を送る事が出来た。
この3年間で私は多くの事をサオリと、サオリのボーイフレンドだったミランに教わったが、私の17歳の誕生日を前にしたある日サオリが爆弾テロのターゲットになってしまった。
丁度その日は街に出て美容室に行った帰り、3年振りにヤザと出合っていたから私はてっきりヤザの仕業だと思い込み復讐するために今いる外人部隊に入ったのだが、サオリがこうして生きているように事情は少し違っていた。
つまり事実はこう。
ライフル射撃が趣味だったサオリの恋人であるミランは、その能力と射撃の腕を見込まれてPOCの勧誘にあっていた。
いつまで経っても紛争が終わらない上に、住処を無くした人たちの為に働いている難民キャンプの治安も悪く滅入っていたところへ、POCの真しやかな勧誘の言葉に騙された。
ミランは恋人であるサオリも誘うが、サオリは大反対して引き留めようとする。
強硬に反対をするサオリに不信感を抱いたPOCが調査を始めると、意外な事実が浮き彫りになる。
サオリはPOCと敵対する組織SISCON(シスコン:Secret Intelligence Service Control:秘密情報制御部)の人間である可能性が出て来たのだ(※POCもSISCONも架空の組織です)
共に民間の組織。
POCが戦争は好戦的な居る限り無くならないとして、大戦争にならない様に計画的に好戦的な者同士を戦わせて数の削減を掲げるのに対して、SISCONは戦争状態に近づく前に情報を発信させることで、当事国当事者同士が緊張状態に入るのを回避しようと言うのが目論見。
そのSISCONで通信網の開発からハードウェアの構築を担当するのが、謎の日本語を操るガモーと言う訳。
「やっぱ東欧やね。7月半ばやのに涼しいなぁ」
「キエフの夏は最高でも30度をほんの少し超える程度で、最も暑い7月下旬の平均最高気温でも26度よ」
「さよか、ええ所やな」
ガモーが日本語で話してきたので日本語で返したが、少し日本語が出来るエマにはちんぷんかんぷんで「あの人、いま何言ったの?」と聞かれた。




