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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
154/301

【謎の女⑦(who is she?)】

 病院に戻ると、案の定手術中のランプは消えていた。

 私の質問に答えた看護師も居ない。

 緊急処置室は救急搬送の受け入れが決まってからスタッフがスタンバイする。

 病院のスタッフは、どこの国も余裕がない。

 搬送が終わったにも拘らず、通路に残って居たあの看護師は偽物だろう。

 女の事を知っていたから正確な年齢に近い表現をし、同じ女だから美人とは言えなくて“タイプ”を付けてしまった。

 裏の裏のまた裏をかく相当用心深い奴だからまだ、そう遠くには行ってはいまい。

 おそらくどこかに隠れて、私が戻って来るか来ないかを見張っているに違いない。

 “どこだ……”

 この入り口から見渡すと、正面向こうに見えるのはガラス張りのリハビリ室、反対側は駐車場。

 駐車場の車に居れば、見つかったとしても直ぐに逃げることは出来るし、その気になれば銃で狙撃して私を殺すことも出来る。

 だが、殺す事が目的ならあの教会で作業している私を撃てばとっくに殺せたはずだし、敵の攻撃のヒントを教える意味もない。

 逃げるつもりなら、ビジネスセンタービルから外を眺めなければ良かったし、私が気付いた時にオフィスに逃げ込めば良かったはず。

 つまり殺す気も、逃げ回る気も無いと言う事か……。

 駐車所に向いていた顔を再びリハビリ室に戻したとき、カルテを持った看護師が丁度出て行くところだった。

 後ろ姿しか見えなかったが、あの女だと感じてついて行く。

 女は私がつけているのを知っているのか、それとも知らないのか後ろ姿だけを見せたままカードキーを挿してスタッフオンリーの扉の向こうに消えてしまう。

 “しまった!”

 慌てて駆け寄ると、意外な事にロックが掛かる手前で扉は止まっていた。

 “誘っているのか……?それならそれで受けて立とうじゃないか”

 扉を開けて中に入ると、そこにはスタッフ用のエレベーターと階段が上と下に分かれていた。

 エレベーターは4階で止まったまま。

 この短時間に4階まで移動できるようなエレベーターではないはずだから、階段を使ったに違いない。

 どっちだ?

 上なら、天国での対決。

 下なら、地獄での対決。

 どちらにしても、勝った者にしか来た道を引き返す権利はない。

 私は迷わず下を選び、階段を降りた。

 地下室の廊下は薄暗くて、空気が冷たいが、ホンの一瞬だけ生暖かい空気と鉄が擦れるような嫌な臭いを感じた。

 階段を降りると、廊下の片側には倉庫と死体安置室が並び、もう片側には資材室と機械室がある。

 倉庫のドアにはセキュリティーロックが掛かっていて、入れない。

 資材室と機械室のドアにはセキュリティーロックはなく、誰でも入れる。

 ここまで誘っておいて、今更面会を断るはずは無いだろうから倉庫は違う。

 問題は資材室と機械室の、どちらかと言うこと。

 間違えば、罰が待っているだろう。

 だが私は間違えない。

 迷わず機械室の重い鉄の扉を開けて中に入り、直ぐに照明のスイッチを落とす。

 ヴーンと言う騒々しい音と共に、熱気を帯びていた空気が周囲の暗さに冷やされて行く。

 誰かに見られている。

 いや、誰かではなく、あの女だ。

 微かに隣の資材室のドアが開く音が聞こえた。

 私が機械室に入ったので隣の資材室に隠れていた奴は、とりあえず入るべき部屋を間違えた罰を与える必要性が無くなったのだろう。

 急に暗くなった部屋で、あの女も直ぐに動くことは出来まい。

 目が慣れるまでには少し時間が掛かる。

 私はその間に、間合いを詰めるために走った。

 暗闇でも、明かりが消える前の記憶を鮮明に覚えていて、三半規管と勇気に自信があれば見えなくとも走る事は出来る。

 走り出すと、大きな空調装置の向こう側を私とは逆方向に走る音が聞こえて立ち止まる。

 音の最後に、さっき入って来たドアが開き、そして閉じられた。

「ナカナカ面白い趣向だな。一体何を考えている?」

 女の居場所はさっきの足音で分かった。

 奴は、まだその場所に留まっているはず。

 問題は、どの様な攻撃を仕掛けて来るのかだ。

 女はいままでに一切、攻撃の手口を見せていない。

 敵なのか味方なのかさえ分からない。

 それに対して私の方は1発の蹴りを見舞っている。

 もし女が叶わないと思えば、武器を使って来ることだろう。

 急に部屋に灯りが灯る。

 女の味方が現われたのかと振り向くと、最初に話しかけた看護師がドアから出て行くのが見えた。

 どうやらスイッチを入れに来ただけらしい。

 “やばい!”

 振り返った一瞬のうちに、背後に人の気配を感じて慌てて後ろ回し蹴りを繰り出すと、やはりそこにはあの女が居た。

 今度はビジネスセンターの時の様に、防御は取らずスウェイして交わした。

 連続攻撃はしないで、今度は相手の攻撃を待つ。

 だが女は、攻撃してこないで、突っ立ったまま。

「どうした、何故向かって来ない?」

 女は冷たく口角を上げたかと思うと、そのまま背を向けて歩き出した。

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