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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
151/301

【謎の女④(who is she?)】

【謎の女④(who is she?)】2

 エマによると、急に休日を取るように言われて外に追い出されたのは謎の女を誘い出すための罠で、エマの仮病もハンスは知っていて許可した。

「なんでハンスは、その事を直接私に伝えなかった?」

「最初から伝えると、戦闘モードになっちゃうでしょ。相手がもし何所かで監視していたとして、それが利口な奴だったとしたなら、戦闘モードのナトちゃんと関わり合いになるのは御免被りたいから近付きもしないわ」

「じゃあエマは私の護衛?」

「そう言うこと」

「ちょっと待って、エマはリズ(※最下段に記載)に勝った事はあるの?」

「ないよ。だって彼女はカンフーマスターよ。リズには勝てなくても、私だって弱くはないのよ」

「それは知っているけれど」

「なら、問題ないでしょ。相手は私より身長で10センチ以上も低い華奢な女でしょ」

「それはそうだけど」

「それにね。ほら!」

 開いて見せたのはイブサンローランのバッグ。

 中にはリビアの時に使ったスパイセットの他に、スミス&ウェッソンモデル340PDが入っていた。

 このS&W340PDは本体にスカジウム強化アルミニウム合金を使用し、シリンダーにはチタン合金を使用することで徹底的に軽量化が図られ本体重量は僅か323.2gながら、強力な357マグナム弾を撃てる銃。

 価格は本体のみで$1,020前後と小型リボルバーとしては、かなり高い。

 なるほど、装備は万全という訳だな。

「じゃあどこへ行く?」

「あら、敵に付けられているかも知れないのに、呑気ね」

「だって、殺気立ったら敵が近付かないんだろう?」

「あ~さすがナトちゃん。またリビアの時みたいに2人で組みたいわ」

「楽しかったね」

「ジャグジー付きのバスを知らなかったナトちゃんは、スイッチを入れると轟音と共に噴き出してきた泡に驚いてバスタブの上に逃げちゃいましたぁ~」

「もーっ、だってあの時は留守中に、敵が何かしけたかも知れないってエマが言っていたから」

「いい、思い出でしょ?」

「そう。楽しかったね」

 ショッピングモールに入って服やシューズを見て回った。

 ここならキョロキョロと周囲を見渡しても、特別違和感なんてない。

 さすがエマ。

 だけど、特にあの女は居ない様子。

 まあ、そんなに簡単にエサに食いついて来る程、敵も飢えてはいまい。

 いや、1人居た。

 新聞で顔は隠しているが、その新聞には穴が開いている。

 まるで子供の様な発想だけど、なんだかホッとしてしまう。

 もし誰かに気付かれたとしても、変なオジサンでとおってしまい、追跡者だとは気づかない。

「久し振りにKFC行こうか?」

 エマが振り返ったので小声で伝えると、ヴォイヤー(盗撮)じゃないのと呆れた顔で見ていた。

「珍しいね」

「なにが?」

「エマがファーストフード店を誘って来るのって」

「だって、もうウクライナ料理食べ飽きたんだもの。毎日ボルシチやヴァレニキ、それにピロシキじゃあね」

 部隊での朝昼夕3回の食事で、味付けは変わるけれど必ず1回は出されるのが、この3品。

 私は戦闘糧食レーションに慣れているから何ともないが、少佐に昇進してパリ勤務が長かったエマには部隊食は、きつかったのだろう。

 エマはチキンとサンドのセットとクワスを注文し、私はチキンとコールスローに飲み物はモルスを注文した。

 先ずは飲み物で乾杯。

 クワスはライ麦と麦芽を発酵させて作る微炭酸微アルコール飲料で、泡が出て見た目は黒ビールに似ていて、味はほんのり甘いビールと言う感じの。

 モルスはコケモモやクランベリーから作る、非炭酸フルーツ飲料で、どちらも東欧の伝統的なドリンクだ。

「ゴメン、チョッとお手洗い行くからコレ見ていてね」

 乾杯が済んだ途端、エマが席を離れる。

 食事中にお手洗いに立つエマは珍しい。

 直ぐ傍にあるお手洗いが混んでいたのか、エマは中央にある吹き抜けの向こうにあるトイレを指さして手を振って行った。

 屹度これも、作戦のうちなのだろう。

 私を1人にして、敵の動きを探る。

 ついでにお手洗いに立った友人を待つ間、私も自然に周囲を見渡す事が出来る……居た!

 KFCの通路を挟んだ斜め向こうの日本ラーメンの店に、あの穴あき新聞を持った男が同じように新聞紙を広げてこちらの様子を伺っていた。

 何故、日本ラーメン店に?

 ひょっとしてスープパスタのお店と勘違いしたのか?

「どうだった?」

 エマが戻って来たので聞いてみると、特に似たような女性や私を見張っている者は居なかったと答えたあと「そっちは、どう?」と聞かれたので新聞の男を指さした。

 2人で振り向くと、喧騒の中なのにカサッと音がするくらい新聞が揺れたのがハッキリ分かった。

 特にあの穴あき新聞のオジサン以外に不審な人物も居そうにないので、ショッピングモール内にある映画館で最新のアクション映画を観た。

「ふう~アクション映画にして良かった」

「どうして?」

「面白かったでしょう?」

「そりゃあ面白かったけれど、なんか日常と変わりなくて休んだ気がしない」

「そりゃそうか、じゃあ次はラブストーリーね」

「それはそれで恥ずかしいかも」

「あっ、チョッとお手洗いに行って来る」

「じゃあ私は窓の傍に居るから」

「OK!」


(※リズ=リゼッタ・チュンユン。元DGSI(フランス国内治安総局)のエージェントで小柄ながらカンフーの達人で『グリムリーパー』本編【パリは燃えているか】で謎の女として登場し、ナトーを付け狙う敵と思わせて地下駐車場で戦った。序盤は善戦したが、学習能力の高いナトーにカンフーのリズムを乱されて敗北した。後の『太陽の国から来た使者』では、ナトーたちと袂を違え敵(POC)の一員として戦った)

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