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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
146/301

【キャンプ ファイヤー②(campfire)】

 マーベリックが火の調整をしたから、完璧に火力はコントロールされ、もう消えそうなくらい小さい。

 ニルスがバケツに入った砂を持ってきて、今度は私一人が日を消す係。

 小さな火に砂を少しずつ掛けていくと、火はより小さくなり、なんだか泣きそうになる。

「もともと我々の祖先である原始人にとって、火は雷や乾燥による自然発火でしか手に入れることは出来なかった。それをどうにか好きな時に使えないかと考えた我々の先祖は、様々な方法で火を起こすことに成功した。火のおかげで私達の暮らしは支えられている。寒い冬を凌ぐ暖炉に、温かい料理。鉄や電気も火無しでは成り立たない。しかし火が普及するにつれ、事故や誤った使い方をする者も出てきた。事故による火事や、悪質な放火、そして戦争……。人々の暮らしを守るための武器が、時に人々の暮らしを傷つけてしまう。強力な武器は簡単に人の命を奪う。では武器を捨てるのか?答えはNoだ。武器を誤った使用目的のために使う奴らが居る限り、我々は戦わなくてはならない。そしてその任務を全うしてウクライナにまた平和な生活が訪れた時、またここでこの火をつけよう。今夜は皆、有難う」

 いつになく真面目なトーニの言葉に後押しされながら、なんとか泣かずに火を消すことが出来た。

 そしてトーニは再び思いも寄らないサプライズを仕掛ける。

〽The second star to the right♬(右から二番目に輝く星)

 歌だ!

 トーニに続いて、皆も歌い出す。

 エマが、まだ消えた火のそばにいる私を見つめて

〽Twinkle, twinkle little starと、大勢の中でもハッキリ分かる大きな高い声で、その行を歌い上げた。

 私も小さく口ずさみながら、空に飾られた幾つもの小さくて偉大な火を見つめる。

 昨夜のように激しく動く火はあってはならない。

 私達を守ってくれるのは、太陽や月、そしてこの星星のように私達を見守るように堂々として動かない光なのだ。

 私はいつまでも空に散りばめられた幾つもの小さな火を見上げていた。


「ブラーム、どうだった?」

 片付けが大方終わりかけた頃、ブラームに声をかけた。

「ああ隊長、楽しかったですよ凄く。隊長は?」

「驚いている」

「驚く?」

「そう。皆の能力の高さに」

「能力の高さって?」

「私はキャンプ ファイヤーと言う知識しか知らなかったが、皆はこの短時間の間に様々なパフォーマンスを見せてくれた。そこには目立つためじゃなく、自分の役割や場の雰囲気を盛り上げるために何をすれば良いのか、また何が出来るのか。メンバーの選択、曲の選択、衣装の選択などを人々の表情や声を観察して、瞬く間に考えてしまう。とても高度な集団行動が形成されていた」

「隊長だって、いつも凄いじゃないですか」

「いや。私が凄いのは人を殺したり、傷つけたりすることことだけ。知っているか?他の動物になくて人間だけが持つ能力って何か」

「笑うことですか?」

「違う、人を笑わせることだ」

「知能と情緒能力の高い、イルカや犬などは仲間のために癒やす行動までは出来るが、場を盛り上げて人を喜ばせることまでは出来ない。イルカのショーにしたって飼育員の指示に従っているだけだからな。今夜改めて皆の素晴らしさがわかったし、こんな素晴らしい仲間とチームを組んでいることを誇りに思った」

「隊長、皆だって同じですよ。隊長のあの判断力があったからこそ、皆ミサイル攻撃の前に防空壕に移動できたし、的確な対空目標への指示があったからこそ少ない発射機で有効な戦果を上げることが出来た。死人が出て当たり前のこの惨状で、1人の死者も出さずに住んだのは隊長のおかげです。だから……」

「だから?」

「エマ少佐から、隊長は殆ど学校に行った経験がないから、今夜みんなでキャンプ ファイヤーをやるって言われたときから、みなの思いは一つだったんです」

「思いは一つって?」

「隊長を喜ばせたかったんですよ。楽しめましたか?」

「あ、ああ。有難う」

 ブラームの言葉に再び胸が熱く込み上げてきた。

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