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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****サン・シール陸軍士官学校(Saint-Cyr Military Academy)*****
14/301

【新たな出発①(New departure)】

 夜中。

 シャワーを浴びベッドに入って暫くしたときに、カーラが話し掛けて来た。

「ねえ、ナトー、起きている?」

「ああ」

「トーチカ話なんだけど、いい?」

「いいよ」

「実はあれからずっと考えていたのだけれど、違うと思うの」

「違う?」

「そう。誰かが一人残って犠牲になる事」

「良い手を思いついたんだね」

「うん」

「戦闘に直接使わない武器がある事に気が付いたの」

「直接使わない武器?」

「そう。私たちの武器はドイツ軍。ドイツ軍の手りゅう弾の投擲範囲内に敵が入ったと言う事は、私たちはその前に米軍の手りゅう弾の投擲範囲内に入っていると言う事でしょ」

 確かにカーラの言う通り、ドイツ軍が使用したM24型柄付き手りゅう弾の重量は595gで米軍の使用するマークⅡ手りゅう弾459gに比べて136gも重い。

 ボールを早く投げたり、遠くに投げたり打ったりする代表的な競技と言えば野球。

 その野球に使われるボールの重さは141.7g〜148.8g。

 当然、この重さは人間が最も投げやすい重量に近いはずだから、これより重くなればなるほど遠くに投げる事は難しくなる。

「だから、手りゅう弾は敵に投げるのではなく、逃げるときにトラップとして使うの。そうすれば誰も残ることなく米軍の足止めができるでしょ」

「そうか、さすが、よく気が付いたね」

「だって、ずっと考えていたんだもの。私、ステラと違って結構しつこい性格なのよ」

「ふふふ」

 カーラの言葉が可笑しくて少し笑ってしまった。


 次の日は、ジャンヌ・ダルクが滞在したと言う家に行き、昨夜行ったサント=クロワ大聖堂の中に入りジャンヌ・ダルクの礼拝堂で祈りをささげ、その後は旧市役所前のグロロ邸に行った。

「ここにもジャンヌ・ダルクの銅像!」

 もう街中にジャンヌ・ダルクが漂っている。

「でも、私はジャンヌ・ダルクじゃないぞ」

「いいえ、ナトーの存在は、私たちにとって彼女そのものよ」

「何故?それは既に戦ったと言う事に対しての憧れ?」

「違うよ」

「じゃあ、イラクで生まれたと言う異教徒っぽさとか?」

「それも違う」

「じゃあなんで?」

「私たちにも分からないわ。ただ一つ言えることは、ナトー、貴女は私たちを救ってくれたと言う事よ」

「救った?何を??」

「貴女が、どうして私たちの部屋に来たのか分かる?」

「それは4人部屋のベッドが1つ余っていたからでしょ」

「途中入校したナトーには知りようもないけれど、本当はもう1人居たの」

「その人は?」

「出て行ったわ」

「どうして!?」

「私たち3人の仲が悪いから」

「えっ!?でも……」

 確かに思い当たる事もある。

 転校してきた当初、3人が別々の行動をとるのを見て、私は喧嘩しているのかと思っていた。

「私は絵が好きで、いつも“うわの空”みたいでしょ」とステラ。

「私は音楽が好きで、楽器を演奏して勉強をしている人の邪魔になると思っていた」とカーラ。

「私は勉強で分からないところがあると、いつもイライラしていた」とメリッサ。

「でもナトーは私が勝手に貴女のノートに書いたイラストを“可愛い”と笑ってくれた」

「私が傍で音楽を演奏しても、邪魔にしなかった」

「ナトーは問題が分からなくてイライラしている私に、優しく勉強を教えてくれた」

「そしてランニングに誘って、私たちに共通する目標を教えてくれた」

「ランニングが?」

「違う、違う。ランニングじゃなくて、その先の先にある目標のこと」

「ナトーはさり気ないつもりだっただろうけど、私たちは分っていたよ。貴女が私たちの誰よりも早く走れるってこと」

「教練があるから隠せないよね」

「長距離も、つい立てを越えるのも男子学生も歯が立たないほど速いナトーが、私たちのペースに合わせるだけでなく、必ず落伍しそうになる人に寄り添って力を与えてくれる」

「自分の勉強が大変だと言うのに、困っている私たちに時間を使ってくれた」

「でも、それは……」

「そう。戦場で皆が生き残るためには、とても大切なことよね」

「うん」

「だから、貴女は私たちにとってジャンヌ・ダルクなの」

「いいでしょ」

「うん。有り難う。でも私だって皆に救われたよ」

「だから、それは救われた人間が、人を救う事を考えられる人間に育ったと言う事よ」

「それを育てたのはナトー、貴女よ」

「有り難う」

「ナトーがジャンヌ・ダルクなら、私たちも有名人になったのよ」

「えっ……?」

「誰だと思う?」

「シャルル7世?」

「まさか!シャルル7世は最後に捕虜になったジャンヌを見捨てたのよ」

「じゃあ誰?……ま、まさか!ダルタニアンの」

「そう。三銃士!」

「ダルタニアンじゃなく、ジャンヌ・ダルクに付く三銃士よ!」

「有り難う。でも私達は今日から四銃士になろう!」

「四銃士!?」

「いったい誰に仕えるの?」

「フランス!」

「いや、違う」

「フランスじゃなかったら国連?」

「いや、私達が仕えるのは“平和と自由”」

「平和と自由!!!」

「そのために、一緒に力を合わせて戦おう!」

「そうね。それぞれ部隊は違っても、目的は“平和と自由”」

「そして仲間の誰かが困っているときには、必ず助けに行く!」

 私たちは駅に向かう途中のマルトロワ広場にあるジャンヌ・ダルクの銅像の前で、お互いを抱き合った。


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