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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
136/301

【事件と対応②Incident and response)】

 次の日はウクライナ政府が我々の部隊に用意してくれた車の1台、シュコダ・スカーラ

に乗って内務省に謝罪に行った。

 内務省の建物は、去年ユリアと一緒にチェルノワ大統領主催の晩餐会に招待された、あの怪物屋敷から2つ目の通りにある。

 車窓からユリアと走った道や公園、道路の反対側には聖ヴォロディームィル大聖堂が樹木の陰からチラッと見える。

 アレクサンドラ臨床病院の所で大通りから離れて左に曲がり、一旦反対車線に出て直ぐに右に曲がるとヨーロッパらしい石畳が奇麗な急な坂道が出て来た。

 この道もそうだけど、キエフは街路樹が美しい。

 窓を開けて、木々から出されるマイナスイオンを取り込むために深呼吸をした。

 坂の頂上付近を右に曲がると直ぐに内務省の建物が見えるはずだが、一方通行なので曲がれないからそのまま直進して、チョコレートハウスの角を右に曲がる。

 チョコレートハウスと呼ばれるこの建物は、1901年にネオルネッサンス様式で建てられた個人の邸宅で、特にチョコレートを作っている工場でもなければ販売もしていない。

 外観はその名の通り色や雰囲気がまるでチョコレートで造られたような建物で、ロシアンアートの前衛美術館となっている。

 次の十字路を右に曲がると、ようやく内務省。

 ところがウィンカーを出して右に曲がった途端、道路脇にはギッシリと並ぶ車の列が出来ていた。

 駐車場待ちではない、路上駐車の列だ。

 “これだけ多いと、遅刻だな”

 時間はまだ充分余裕があるけれど一方通行なので後ろの車が出たところで戻れないし、道路でジッと待つスペースもないと諦めていたところ、道の端に見慣れた男が立っていて私に気付くとオーバーなジェスチャーで手招きを始めた。

 コヴァレンコ警部だ。

「おはようございます。どうされたのですか?」

「今日ナトーさんがお見えになると聞いたもので、ここはいつも駐車が大変なので……さあ、こちらへ」

 コヴァレンコ警部に案内されて、敷地内にある駐車スペースに車を止めさせてもらった。

「有り難うございます。ワザワザ恐れ入ります」

「いえ、部下の失態でナトーさんにご迷惑をお掛けしまして、せめてもの罪滅ぼしのつもりです」

 車を降りて礼を言うと、コヴァレンコ警部が恐縮して理由を話してくれた。

「こちらこそ、事情もよく知らないのに勝手な行動をしてしまって御迷惑をお掛けしました。警部も政府の方から、説明を求められたのではないですか?」

「そりゃあ有りましたが、そんな事はこの家業をしていると、しょっちゅうですよ」

「たとえば?」

「逃走車両を追っている最中に事故ってしまうドライバーに、立て籠もり犯との銃撃戦の最中に誤ってガス管を撃ってしまう警官、犯人追跡中の覆面パトカーを検問所で引き入れてしまう交通課の警官、最近ではテロの勃発で人手が足らずに休日者を緊急出動させたら途中で寝てしまってそれが運悪くテレビに映ってしまったやつ。この時は「テロ事件の最中に居眠りとは何事か!」って市民から沢山苦情を貰いましてね。犯人を説得中なんだから、少しでも休むときには休んでおかないと身が持ちません。だいいち彼は元々休みだったんですから」

「大変ですねぇ!」

「まあ、警官の仕事は多いですから、その分ミスや苦情も多く出ます。さあ着きましたよ」

 コヴァレンコ警部は話しながら私を内務省次官執務室に案内してくれた。

「駐車場を確保して下さったうえに、案内までしていただいて有り難うございます」

「なーに、礼なんて言われたらこっちが恐縮します。次官からなんて言われるか分かりませんが、“弱い者虐めは許さない”ナトーさんのアノ時の行動は常々我々警官が心がけておくべきことだと、改めて思いましたよ。こっちこそ有り難うございます」

 警部はそう言うと来た廊下を引き返しながらヨレヨレのワイシャツにネクタイもしていないくせしてニッコリ笑顔を見せながらネクタイを上げるジェスチャーをしたので、私は自分のしていたネクタイを同じように上げると、まるでコレージュ(日本で言う中学生)たちが学校帰りに良くそうするように中途半端な位置に手を上げたので同じように手を上げて笑って返した。

 コンコン。

「自衛隊キエフ北西部方面隊、ナトー・エリザベ・ブラッドショウ中尉です」

 ドアをノックして正式な所属と正式な名前を言うと、ドアの向こうから「入りなさい」と声がした。

「失礼します」

 中に入ると、50代の内務省次官が居た。

「すまんなナトー中尉、忙しい所を呼び出してしまって」

「いえ」

「今回呼び出したのは、既に承知しているだろう?」

「はい、ウクライナの内情も知らずに大変……」

 そこまで言いかけたとき、次官は私の言葉を止め、頭を下げた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  この前半の街中の描写は、まるで見ているままを描写したみたいで、凄いですね❗  ロシアンアートの前衛美術館はちょっと行ってみたいなあ、って思いました。  ネクタイを上げる仕草やコレージュの…
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