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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****謎の女(Mysterious woman )*****
130/301

【心配なNatowの体調①(Anxious Natow physical condition)】

 どうせエマは、とっくにお見通しだから、今更隠す必要もない。

 だから、これまで話していなかったハンスとの事を、全て話した。

 ザリバン高原の戦いの後にやってきたハンスが、私たちが立て籠もっていたトーチカの周りに無数に散らばる1発の銃弾で命を奪われた死体を見て、もしかしたら私がイラクで自分の兄を狙撃した“グリムリーパー”ではないかと言うことに気がついたこと。

 アサムの隠れ家で私がその事を打ち明けたこと。

 ハンスが“戦場に赴く者には、いつか死の順番が周ってくる”と慰めてくれたこと。

 そして、つい最近ハンスにプロポーズされたことも。

「それで、いま悩んで……」

 プロポーズの言葉に舞い上がってしまったエマは、まるでその後の私の言葉は耳に入っていない様子。

「それで妊娠検査薬キットなのね」

「そ、それは……」

「もちろん受けたんでしょ。結婚はいつ?新婚旅行は何処にするの?……私も一緒に着いて行っていい?」

 まるで結婚に憧れる子供のように、そして自分のことのように喜んでくれるエマ。

 なんて良い友だちなんだろう。

 エマと出会えて本当に良かった。

「ねえねえ、今度パリに帰ったら服買いに行こっ!もう“要らない”、“似合わない”なんて言わさないから。最低でも20着……いや、30着は買うから覚悟しなさい。あと下着も良いの買わなくっちゃ。もちろん今でも良い下着をつけているのは知っているけれど、結婚するってことは“毎日ヤル”ってことでしょう。とびっきりエロいの買って彼氏を飽きさせないことも重要よ」

「チョッ、チョット待ってエマ」

「どうしたの? あっ、そうか!お料理も勉強しなくっちゃ!いくらナトちゃんが魅力的だからと言っても最低でも毎日2回はSEXするでしょ。そうなると栄養は大切になるわ!カロリーだけ摂り続けると、次第にブヨブヨのオジサン体型になっちゃうから、必要な栄養素とカロリーのバランスは大切よ!そうだ、私が教えてあげる!だってハンスって以外に美食家じゃない?ナトちゃんの好きなサラダばかり食べさせていたら、シッカリとしたフランクフルトは味わえないわ!」

「えっ!?フランクフルトって?」

「あらやだ私ったら、ほらナトちゃんが食べるものよ」

 エマは、そう言うと寒い日に息を吐くように口を開け、その口の前で軽く握った拳を前後に振ってみせた。

「いや……だから」

「なに?玩具も欲しいの??」

「違うって」

「えっ!?なに?」

「断ったの」

「何を?もしかしてご両親との同居?それは私も断るわぁ……」

「違うの。断ったと言うより、保留にしているわけなんだけど、結果的には断ることになるの」

「なにを??」

 エマが私の顔を覗き込む。

「プロポーズを……」

 あとは、私が子供の頃にザリバンの狙撃兵として“グリムリーパー”と恐れられていた頃、ある町で敵の狙撃兵としてグリムリーパー暗殺作戦に従事していたハンスを撃ってしまい、その背中に傷を負わせてしまったこと。

 そしてその時に、エース狙撃兵として暗殺作戦の現場を任されていたハンスのお兄さんを殺してしまったことを話した。

 エマは心配そうに私の手に自分の手を添えてくれ、ハンスの言った“戦場に赴く者には、いつか死の順番が周ってくる”という言葉が仕方のないことだと言ってくれた。

「でも、私が殺してしまったのは、ハンスのお兄さんであることも間違いない事実だ」

「戦場で起きたことよ。撃たなければ、ナトちゃんが死んでいて、ハンスは貴女を好きになることはなかった」

「それが一番良い選択肢だった」

「違うわ!」

 急にエマの顔が厳しい表情に変わり、私の目を睨みつける。

「貴女は、それで良いのかも知れないけれど、ハンスはどうなの?貴女がお兄さんを撃ったグリムリーパーと知っていながら、プロポーズしてくれた気持ちはどうなるの?」

「もともと、あの時ハンスのお兄さんに撃たれて死んでいたら、合うこともなかった」

 パーン!と言う音の後に、頬が妬けるように熱くなる。

 エマに打たれた。

「いい加減にしなさい!」

 打たれた私と立場が逆転したように、エマの目は涙で濡れていた。

「ハンスは過去を乗り越えて前をむこうとしているのに、どうして貴女は過去に囚われたまま明日を見ようとしないの!?」

「その未来だって、過去と言う蓄積があって成り立つものだ。今はいいが、何年か経って恋という熱病が冷めた時、必ず身内を殺された恨みが出てくる」

「アンタ、ハンスがその程度の人間だと思っているの?」

「……いや、そうは思っていない」

「だったら」

「でも、ハンスの家族になるということは、必ず私が殺してしまったお兄さんの事から逃げることは出来ない。墓参りに行くたびに私は、その罪の意識に苛まれる」

「ナトちゃん……」

 エマが差し出してくれた手を握ると、その温もりに急に悲しみが胸に込み上げてきてしまい、その手を抱いたままお互いに泣き崩れてしまった。

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