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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****卑怯な敵の罠(Cowardly enemy trap )*****
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【お医者さんごっこ①(Play doctor)】

 あの頃の私はヤザに言われるまま、容赦なく人を撃っていた。

 敵の分隊長を誘き出すために、わざと敵の新兵の急所を外しなぶりものにしたことさえあった。

 薬などには手を出した事はないが、殺すことも自分が殺されることも恐れてはいなかったし、緊張して呼吸が乱れる事も無かった。

 その意味では、今日私がとった行動は間違っているのかも知れない。

 もし敵の中に私と同じ様な人間が混じっていたとしたら、相手の目を見て見分けることなど出来やしない。

 今でこそなるべく相手を殺さない様に努めてはいるが、殺さなければいけない状況であれば躊躇ちゅうちょなく決断を下してしまう私は、中東イラクでグリムリーパーとして恐れられた頃と何一つとして変わっていない。

 つまり人を殺すことに何の抵抗も感じなければ、興奮も緊張もしない。

 私の考えていることは過去の経験や、銃や銃弾の特性に気象や地理的条件を考えながら、いかにして発射した銃弾を目標物に届けるのかと言う事しか頭にない。

 それはたとえ空想だとしても、今日あのコミュニティセンターから直ぐ見える向かいの屋上で玩具のドラグノフ狙撃銃を構えていたサバイバルゲームプレイヤーの放った届くはずもないBB弾と何一つ変わりはしない。

 もし敵の中に、偶然ではなく確実に私を殺すことのできる者が居て、その者によって私が殺された場合、部隊は全滅の危機に直面する。

 自惚れではない。

 だから私は大切な仲間を守るために、敵に殺されてはならないのだ。

「よう!どうした考え事か!?」

 独りで考え事をしていた私の顔を、胸元から覗き込むようにしてトーニが言った。

 条件反射的に胸を隠す様に抑えて、正直に作戦中に自分の身に何かあった時の事を考えていたことを告げる。

「中尉、そう言う不吉な話は御法度ですぜ」

 迂闊な発言をしてしまった私をモンタナがたしなめると、いつもなら“珍しくまともなことも言うな!”などと茶々を入れて場を明るくするトーニたちが黙ってしまい、急にまるで誰かのお通夜のような雰囲気に吞み込まれる。

 屹度、あの事を私が司令部に行っている間に、トーニとカールが仲間に話したに違いない。

 あの事とは、私の失神。

 1度目は敵の狙撃兵が本物かどうかを見極めるために、ワザと囮になり潜んでいた本物の狙撃兵の放った銃弾を避ける際。

 2度目は失神とまでは行かなかったが、コミュニティセンターを襲いに来たサバイバルゲームプレイヤー達に混じった敵を倒すためにカーボン製の板で滑り降りた際、壁に打ち付けられた時。

 そして、ひょっとしたらトーニは気が付いたかも知れないが、グラコフに投げられた時にも意識を失いかけた。

「そう言えば、グラコフと闘っている時に私の名を呼んだのはトーニなのか?」

「名前を呼んだ?俺が?」

「違うのか?」

「俺は必死で爆弾の解除をしていたから、悪いが声を掛ける余裕もなかったし、そんな声すら覚えちゃいねえぜ」

 “だったら、あの時の声は……”

「ところでナトー、オメーどっか悪いんじゃねえか?」

「いや、特に悪い所はない」

「本当か?」

「本当だ」

「では、私がメディカルチェックをしましょう」

 いつの間に用意したのか、カールがポケットから聴診器を取り出した。

「医務室から盗んで来たのか!?」

「いや、My聴診器です」

「My聴診器?何故??」

たしなむ程度ですが、以前はこう言う仕事もしていたので……これでも結構腕はいいんですよ」

 嗜む程度と言う事は、研修医インターンの経験があると言う事なのか?

 しかし、こんな所で胸は開けられない。

「あー、服はそのままでも大丈夫です。専門医ではありませんから、心音に異状ないか診るだけですから」

 元アメフトのスタープレイヤーだったモンタナ、キックボクシングのチャンピオン候補だったブラーム、今は研修中でここには派遣されていないが元プロライダーだったキース。

 さすがに特殊部隊だけあって様々な輝かしい経歴を持つ者もいる。

 つまりカールは研修医の経験があると言う事なのか。

 脱がなくていいと言われたが、一応上着だけは脱いでTシャツ姿になった。

 カールの聴診器が肩甲骨の下に当たる。

 なるほど、先ずは肺の音から診るのだな。

「はい、大きく吸って」

 言われるまま大きく息を吸うとギャラリーから、どよめく声が漏れた。

 “なに!?”

 ナトーは気付いていないが、胸を張って大きく息を吸い込むことによって、胸の膨らみがより大きく強調される。

「ハイ止めて……吐いて」

 聴診器が肩甲骨の下から、更に下に移動する。

 そして大きく息を吸うたびに、何故かモンタナたちがどよめく。

 素直に何カ所か聴診器を当てられて、言われるままに息を吸ったり吐いたりしていた私も、聴診器が“ありえない1点”で止まったことでようやく気が付いた。

「カール、その聴診器で今何の音を聞いているつもりだ?」

「心音ですが」

「胸の天辺で心音を聞くのか?」

「あっ、すみません。もう少し下でした」

 カールの聴診器が胸の天辺からホンの少し下に移動した。

「先生、心臓の調子は、どうですか?」

「特に異常はないようですが、睡眠と休憩はキチンと取ったほうがいいでしょう。あとたまには休暇も取るように」

「有り難う。金庫破りの先生」

「いえ……(「なんで分かったんですか?」)

 カールが小さな声で聴いて来たので、私もカールだけに聞こえる声で返事をした。

「女子の心音を聞く場合は、胸の膨らみの上からではなく、その膨らみの下側だ。そして胸が大きい場合は、手で少し持ち上げるようにして脂肪を避けてから聴診器を当てるのが普通だ。男子とは違う」

「すみません。でも、なんで怒らないのですか?」

「君が問題ないと言ってくれたから。それだけで皆が安心してくれれば、それでいい」

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