表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****卑怯な敵の罠(Cowardly enemy trap )*****
121/301

【グラコフ少佐①(Barbarian Major Grakov)】

「やはり、お前が『グリムリーパー』か」

「納屋から抜け出して、どうするつもりだった?」

「どうするつもり“だった”?、何故過去形にした」

「お前はもうここから逃げ出せないからさ」

「馬鹿な。お前の仲間がここに到着するまでは全力で走っても3分は掛かる」

「だから?」

「たしかに『グリムリーパー』と呼ばれただけあって、銃の腕はいいが、どんなに時間稼ぎしたところで、俺がおまえを倒すのに3分は掛からないと言う事だ」

「自信家だな」

「なめるな!」

 グラコフは、おとなしい仮面を一瞬で脱ぎ捨てると、ならず者の様に私の顔面に凶暴な左フックを放ってきた。

 まともに受けたら“お嫁にいけない”顔になってしまう。

 決して女性に向けて放って良いパンチではない。

 スウェイバックして、目の前を通り過ぎようとする醜い拳の手首を包むように左手て掴み下げ、右手で肘関節を突いてやるとグラコフはまるで玩具の様に回転して壁にぶつかった。

「武術を使うとは、只の狙撃兵ではないな」

「そちらこそ、女性の顔面を狙うなんて、只の卑怯者では済まされないようだな」

「呑気に喋っていられるのも今のうち。と言う事を教えてやらねばならないようだな」

 グラコフは言い終わる前に、間合いを詰めるように右のローキックを放ってきたので手をクロスしてさばく。

 パーン!

 いい音をさせてやったが、奴の体力を考えるとこの蹴りはフェイク。

 最初のフックを放った手が左だったように、おそらく利き足も左。

 つまり2段蹴りを狙って来るはず。

「せいっ!」

 腕を下げた事で重心は低くなり、その分上半身の自由度が上がり上半身を大きく逸らしながら斜め前方に避けると、そこに左の前蹴りが飛んできた。

“早い!”

 空手の上級者だ。

 それにコマンドサンボの上級者でもあるはず。

 対格差から考えても、コマンドサンボと付き合わされるのは避けたいから、ここは距離を取って空手と勝負する事にした。

 一旦1歩後ろに下がり、前に出していた左足を後ろに引き右足を前に出すと、奴の目が下げた左足を見て笑う。

「運のいい野郎だ。だが運はいつまでも続かない」

 私が1段目のローキックを受けた際に、膝をカクンと折り斜め前方に体を振った事で、2段目の蹴りがローキックによるダメージが幸いして避けることが出来たと勘違いしてくれた。

 奴にその答えを導かせたのは、下げた左足。

「せいっ!」

 今度は左右の前蹴りに続いて、左右の掌底が、またしても私の顔面を襲う。

 コンビネーションが好きなのは勝手だが、顔を狙うのは、しつこい!

 美人に恨みでもあるのか?

「納屋の中でスウェイして、かわすだけでは逃げられんぞ」

 奴が言う通り、もう直ぐ納屋の壁。

 これ以上後ろには逃げられない。

 そろそろ攻撃に移らねば、コマンドサンボと闘う事になる。

 体を回転させて、左の裏拳を放ったが、ガードされ奴の顔面を捕えることは出来なくて逆に奴の右ストレートが私の顔を襲う。

 回転運動をそのままにして片膝を折り、軸を斜めにすることで奴のストレートを避けて伸びて来た奴の右袖を掴むことでバランスを保持し、折った片方の足で奴の脚を跨ぎ“蟹ばさみ”の体勢に持ち込むとバランスを崩した奴が納屋の壁に積み上げられた土嚢に勢いよく打ち付けられた。

 普通の男なら肩の脱臼か脳震盪を起こしてしまうほどの勢いだったが、部隊を預けられる隊長だけあって奴はタフだった。

 ホンの一瞬だけ驚いた顔を見せたものの、素早く土嚢の上に登ったと思うと、起き上がりかけた私の隙を突くように一気にジャンプして間を詰めて来た。

「キェ~ッ!!」

 奇妙な叫び声を上げて、飛び込んでくるその姿ははまるで“猿”

 でも猿の様に小さくはないし、ゴリラの様に愛くるしいわけでもない。

 “野蛮人!”

 そう奴こそ、文明を恐れる凶暴な野蛮人そのものだ。

 ジャンプしながら右足で踵落としを仕掛けて来るグラコフ。

 ナカナカ良い発想だが、股の真ん中がノーガード。

 でも、そんな所は蹴りたくもないので避けて、着地したところの顎を目掛けて蹴り上げた。

 ジャンプからの着地では、重力と体への衝撃を緩和するために直ぐに仰け反る事は出来ないので奴は左肘をガードに使って蹴りをかわしたが、それでもかなりの手ごたえがあった。

 確実に利き腕の左肘関節を痛めたはず。

 その証拠に、その醜い目が血走って更に醜くなった。

 着地後の体勢が整う前に、もう一発今度は右腹に回し蹴りを入れる。

 いわゆる“レバーブロー”と言うやつ。

 本来ならこの一撃で完全に倒れるはずなのだが、奴は顔を真っ赤にして大量の汗をまき散らしながら2段蹴りのラッシュを仕掛けて来る。

 蹴り自体は最初の2段蹴りに比べ威力は落ちているものの、さすがにこの鬼気迫る攻撃には私も引かざる負えない。

 油断したわけではないが、2段蹴りで間合いを詰められたところで、蹴りの陰から繰り出されていた左腕に胸倉を掴まれて強引に横に振り回された。

「ゴア”~~ッ!!」

 痛めている腕で投げを打ったグラコフが、人間のモノとは思えない様な奇声を上げる。

 服のボタンが一瞬で弾け飛び、さっき蟹ばさみで奴を打ち付けた土嚢まで飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ