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鐘楼の白い鳩が飛ぶとき (When the white dove in the bell tower flies)  作者: 湖灯
*****卑怯な敵の罠(Cowardly enemy trap )*****
118/301

【罠にかかったのは、どっちだ⑤(Which one was trapped?)】

「私に任せて!」

 準備を整えた私を制止するように、ユリアが言った。

「任せるって、どうするつもりだ?」

「敵のスナイパーは納屋の中。そして迫撃砲は納屋の外でしょ」

「そうだが」

「間接攻撃には、もっと強力な間接攻撃よ!」

 そう言ってユリアはドローンのコントローラーを取り出した。

 “空爆!”

 なるほど、その手があった。

 戦闘において、射程が長く山の向こうからでも敵の陣地を狙うことのできる野戦砲の敵は、同じ野戦砲か航空機による攻撃。

 私達歩兵も野戦砲を無効化することはできるが、それは見晴らしの良い山の頂上などに陣取る敵の着弾観測部隊を殲滅するだけ。

 この戦いは戦史上幾つもの戦場で、歩兵同士の丘や山の取り合いで多くの犠牲者を出している。

 ところが航空機の攻撃なら、高射砲や地対空ミサイルで守られていない限り、陣地攻撃はお手の物。

 ドローン対小型迫撃砲と規模は小さいものの、本来迫撃砲を守らなけれなならない狙撃兵が屋根のある納屋に隠れて居るのであれば、対空防御を持たない陣地相手ならユリアの大型ドローンでもなんとかなりそうだ。

 敵に気付かれないように、ユリアが超低空でドローンを呼び寄せる。

「カール。これを持って敵に気付かれないように左翼に回ってドローンの援護をしろ」

 カールにL96A1を預けると、驚いた顔をしていた。

「空爆終了後は、そのまま単独で納屋の裏手側から接近しろ。だが近付き過ぎるな」

「了解!」

 L96A1を手に持ったカールが速やかに左翼に移動して行った。

 そしてユリアとトーニで、カーゴスペースに信管をフリーにした40mmグレネードに搭載し、再び敵に気付かれないように低空で敵の左翼側から回り込ませる。

「頼むぜ、ドローン!」

「あら、そのドローンを操っているのは私よ」

「あっ、すまねえ。頼むぜユリア!」

「了解よ!」

 こちら側からの攻撃がないと敵に怪しまれるから、トーニに捕虜を見張らせて、私は残弾の少なくなったRPK軽機関銃から弾倉を外して1発ずつ弾を込めて狙撃銃として使う。

 距離は約1000mあるから、このRPKでは弾を発射して向こうに届くまで1.5秒は掛かる。

 相手のT-5000は同じ距離でも1.2秒弱。

 これがRPKではなくRPKS-74であれば、T-5000とほぼ同じ時間で弾が届くのだが、おそらくこの捕虜になった4人は完全に仲間に裏切られたのだろう。

 でないと、こんな骨董品に近い銃を持たされるわけがない。

 カタログスペックでは有効射程1000mと聞いたことがあるが、おそらくこれは5.56mm弾を使用するRPKS-74に限定される数値であり、この数値にしても実際は盛っているに違いない。

 元々のベースがAK-47の改良型であるAKMで、その銃身長436mmを540mmに伸ばしたのが大きな改良点。

 似た経緯でAK-47を参考に作られたドラグノフ狙撃銃の銃身長は620mmで、更に長射程用に向く7.62x54mmR弾を使用して有効射程距離は800m。

 RPKの使用弾はAKMと同じ中間弾の7.62x54mmR弾だから、この旧式のRPKでは有効射程も殆どAKMと変わらないだろう。

 AKMの実際の有効射程距離は600m~700mと言ったところではないだろうか……。

 その距離を元に射撃してみる。

 軽機関銃だから、勿論スコープもない。

 だけど中東で『グリムリーパー』と呼ばれていた頃から、スコープを使わない狙撃に離れている。

 ライフリングはAK-47やドラグノフと同様の、4条右回り。

 有効射程距離を過ぎる辺りから、弾丸の回転ズレは少し斜め右上にずれながら、下方向に緩やかに放物線を描き出す。

 このRPKが私の扱ってきたAK-47やドラグノフと同じ癖を持っていたとしたら、1000m時点の着弾地点はおそらくこの辺りになるだろう。

 私はこの銃をまだ使ったことがないし、トーニには捕虜の見張りを頼んであるので、着弾観測も自分で行わなければならない。

 そのときに、銃弾到達時間の差は大きくなる。

 つまりコンマ3秒敵が後に撃っても、その弾は先に届くから、居場所が知れてしまうと呑気に着弾地点を見ているわけにもいかない。

 だから私は2つの草むらの影に隠れて撃つことにした。

 1つの草むらでは敵を見やすいが、その分敵からも発見されやすい。

 2つの草むらが重なれば、敵は見えにくくなり、当然敵からも発見されにくくなる。

 納屋の暗い窓にスコープが反射する僅かな光を確認したので、そこに向けて初弾を放つ。

 私の計算があっていれば奴は死に、修正が必要なら納屋の何処かに弾は当たる。

 1.5秒後、銃弾は敵の狙撃兵には当たらずその位置より10cm上にある、納屋の窓枠をカスメて納屋の中に飛び込んだ。

 左右の修正はそのままだが、上下方向の修正を変える必要がある。

 “以外に伸びるな……”

 これは有効射程のこと。

 約4秒後、納屋から悲鳴らしき甲高い叫び声が聞こえた。

 おそらく、納屋の窓枠をカスメた銃弾が頭の天辺を更にカスメて通ったに違いない事は容易に想像できる。

 大怪我じゃない。

 屹度皮膚を1枚切り取られた程度の、かすり傷だろう。

 それ以上の深手だと、悲鳴を上げることは出来ない。

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