【罠にかかったのは、どっちだ①(Which one was trapped?)】
もうお遊びはここまで。
私たちは玩具のエアガンをお店の人に預かってもらい、それぞれの装備を整えた。
武器を帯同していないユリアも、敵からPP-19 Bizonを奪って装備し、狙撃用のL96A1とワルサーP-22しか装備していなかった私はトーニからHK-416を取り上げて、代わりにもう1人の敵から奪ったKBP A-91を預けた。
「なんだ?この不細工な銃は」
「こりゃあトーニ兵長さまには、お似合いの銃だ」
「なんでだ!!」
カールに茶化されて怒るトーニに、グレネード弾の入った弾帯を預ける。
「グレネード弾が発射できるのか?」
「だから、お似合いだって言っただろう。なんたってトーニ兵長はグレネード弾でヘリを撃墜した、類稀なる才能の持ち主なんだからな。おかげで俺は死ぬかと思って焦ったがな」
トーニにグレネード弾が発射できるKBP A-91が似合う様に、ユリアにもPP-19 Bizonが似合う。
この銃の最大の特徴は、銃身と平行に装着された円筒形の“スパイラルマガジン”と言う弾倉で、64発の連続射撃が出来る。
たった4人の部隊だが私たちはドローンと言う無人偵察機を持ち、支援用の迫撃砲と拠点制圧用の軽機関銃、それに歩兵支援用狙撃銃を持った小隊規模の火器を手にしていることになる。
少人数ながら、これは大分、有利な状況だろう。
街の中で、それから7人の敵をKOし、警官がピストン輸送でその者たちを捕獲して連れ去ってくれた。
これから先、空港までは、家並みが途絶え近接戦闘に持ち込むことは難しい。
どの草むらや木の陰に敵が待ち構えているか分からない。
ドローンで敵の居場所が分かったとしても、ここからは敵に見つからないで近付くことは容易ではないのだ。
つまり撃ち合いにならざる負えない状況になる。
撃てば私たちの接近を敵に知らせることになるだろうし、迂回して進めば前後に敵を抱えることになる。
「ユリア、ドローンを休ませてやれ」
「えっ、でも……」
ユリアが躊躇うのも無理はない。
ドローンのおかげで私たちは敵に発見されることなく、いち早く敵に気が付く事が出来、戦果に結び付けて来た。
しかし、見通しの良い平原では目立ち過ぎる。
もしドローンが撃ち落されたなら、私たちは切り札のひとつを失う。
切り札は、最後まで取っておく必要がある。
ドローンを置いて4人の分隊で進むと直ぐに、木立の中に隠れている軽機関銃を発見した。
もはや“殺さず”は、通用しない。
「カール、右に迂回して近くに他の敵がいないか探れ。私は左に回り、敵の人数を確認する。草むらに潜んでいる奴が居るかも知れないから注意しろ。それからこれを持って行け」
「これは?」
私が渡した小箱を不思議そうに見つめるカール。
「用心のためにグレネード弾に入った火薬をばらして詰めてある。万が一の時はこれに火を付けろ。そして何もなければ、戻る時にあの機関銃陣地から見えやすい草むらの端にこれを置いて帰れ」
「了解!」
「トーニ、距離は350mでグレネードの有効射程距離を越えているが、一発で仕留める準備をしておけ。ユリアは後方を警戒しろ!」
「あら、私も撃てるわよ」
「撃てたとしても目の前の敵はPP-19 Bizonの有効射程距離の外に居るから、今は撃つ事を考えずに警戒任務に当たれ」
「ちぇっ、つまんないの……」
「この戦闘ではトーニの40㎜グレネードの成否に掛かっている。だからトーニを守る事は最も重要な任務で、私はそれをユリアに託している」
「了解!任せて頂戴」
カールに任せた右側は緩い下り斜面になっているから近付くのは容易いが、その下にある草むらに敵が潜んでいたとしたら逆にケツを狙われる。
だから機関銃の陣地には近づかずに、他に敵がいないか確認に行かせた。
私が向かっている左の方は平らで隠れる場所がない代わりに、こちらからも敵は見やすい。
気になるのは、約1000m先に見える納屋。
おそらく、この弱点を補うために、ここには狙撃兵が待機しているはず。
狙撃兵に発見されないように、ほふく前進で敵に近づく。
軽機関銃はPKP ペチェネグ。
7.62 mm弾を毎分600~800発発射する強力な分隊支援火器。
有効射程1500m、最大射程はおよそ4㎞にも及ぶ。
出来ることなら、なんとかこれを手に入れたい。
ほふく前進で、距離150迄近付いたが、この先は草丈が低いので納屋に狙撃手が居た場合に容易に見つかってしまうので先に進むのは諦めた。
ワルサーP-22で狙えない事も無いが22口径では、たとえ命中したとしてもヘルメットやボディーアーマーを貫くことはできないし、骨を貫通する事も無い。
つまり傷を負わせることはできるが、敵の戦力を削る事は出来ないと言う訳だ。
ここはおとなしく引き下がるしかない。




