【玩具vs本物④(Toy vs. real)】
「ナトー!いったい何考えていやがるんだ!!」
「何って?」
警官が2人を連れて行ったあと、今まで見た事も無い物凄い剣幕でトーニが食いついて来た。
「何が!?サブマシンガンを持っている敵を相手に、玩具の銃と弾の入っていない拳銃で立ち向かうなんて、いくら格闘技に自身があるからって無茶過ぎるぞ!」
「でも、無事に確保したぞ……」
私の言葉にトーニは二の句が出ないでいた。
「それは結果論よ」
いつの間にか、上の非常階段に居たモシン・ナガンを持った青年を連れたユリアが現われて言った。
「ユリア、その青年は?」
「プレイヤーさんよ」
トーニ同様に、ユリアの美しい顔が怒っていた。
どうやら話を聞いていたらしい。
「ミスは誰にでもある事よ。でも、そのミスをカバーする仲間を巻き込むのはナトちゃんらしくないよ」
「巻き込む……」
「そう。もし貴女が失敗した場合、どうなるの?」
「ユリア、そりゃあいいって」
「いいえ、良くありません。貴女が撃たれた場合、直ぐ傍で待機していたトーニは、真っ先に助けに入るはず。でもトーニは、直ぐ目の前に居るサブマシンガンを持った敵2名と、拳銃ひとつで戦わなければならいのよ。……それが、どんな結果になるかは、ナトちゃんなら分かるはずよね」
ユリアの言う通り。
うまくいったから良かったものの、相手は銃身が長く近距離の取り回しに難のある自動小銃や、片手で持っているために奪いやすい拳銃ではなく、近距離に特化した銃身の短いサブマシンガン。
勿論、肩紐も掛けているから、そう簡単に奪うことなんて出来はしない。
「すまない」
「私に謝ってもダメよ。チャンとトーニに謝らなきゃ」
「すまないトーニ。君が怒るのも無理はない」
「いや、いいって。結果的にはチャンと2人を無傷で捕える事が出来たんだし、俺もチャンと生きているんだから。それに、……ナトーは優しいから敵を傷つけたくなくて、怪我をさせずに捕える自信があったんだよな」
トーニに言われて、はじめて気付いた。
自信なんてなく、深い意味もなく、ただ単に気が変わってしまっただけのこと。
予定では銃を構えたまま前に飛び出して、2人がリトル・グリーンメンであれば銃を撃ち、一般のプレイヤーであれば通り過ぎて後ろに居るトーニに託すはずだった。
それを何故変えてしまったのか、自分でも分からない。
「なーに、気にすることはねえです。戦場は全て結果論。敵は確実に捉えたし、トーニもナトー中尉も無事ですから何も問題は無いでしょう」
ピリピリしたムードを和ませる口調で、カールが声を掛けて来たが、その言葉は収まりかけていたユリアの苛立ちの炎に油を注ぐ事になった。
「結果論だから、問題ないと言う事は無いでしょう!もし、ナトちゃんやトーニが怪我しすれば、この作戦は一気に不利になるのよ!そうなれば、おそらく立て直すことは出来ないわ」
「いや、戦場にifは持ち込むべきではない。レーダーや各種、電子・通信機器を活用して早期に敵を発見できる航空機ならifを繰り返して最良の結果を導き出すことも出来るだろうが、我々歩兵は一瞬の判断に生死を預けるしかない」
「お言葉ですが、航空機に幾らレーダーや電子機器が積み込まれていても、こっちだってそんなに悠長に考える暇はありません!一瞬の判断はおろか、空では歩兵さんたちみたいに何の遮蔽物もないから、ロックオンされた時点で最後。だから判断も素早く的確に行わなければならず、アンタたちみたいに、ギャンブル的な事なんて何一つできないわ!」
「Mi-24でギャンブル的な事をする場面は、そうそう訪れんだろう。なにせ相手をするのが、空への攻撃を想定していない歩兵や装甲車・戦車と言う、言わば弱い者いじめが専門なんだから」
「弱い者いじめ!?お言葉ですが、何十両もいる戦車や装甲車、何百人居るか分からない歩兵を相手にたった数機、時には1機で立ち向かうのよ。当然空からでは相手が、どんな装備を持っているか分かりもしない。地対空ミサイル、いいえRPGや戦車砲だって当たらないわけじゃないのよ!」
「そりゃあ狙われるようなヘマをすれば当たるだろうよ。だがな、俺達歩兵は狙われていなくても弾に当たっちまうこともある。いわゆる流れ弾ってやつだ。お人形さんみてーに装甲板や防弾ガラスで出来たケースにゃ収まっていねーから、流れ弾だって当たれば即昇天というわけだ」
「何が言いたいのよ!」
「いつ死ぬか分からねえんだ。好きにさせてやっても良いんじゃねえか?」
「でも、皆が危険な目に合うのよ」
「俺はナトー中尉が失敗して死ぬのなら、躊躇わずに後を追うぜ」
“カール……”
何気に好いことを言われ、胸がキュンと鳴る。
「バカヤロー新米、好い所を横取りするんじゃねー!俺たちゃ家族も同然だ。そんな、当たり前な事を今更言って恰好つけた気でいるんじゃねえ」




