【玩具vs本物②(Toy vs. real)】
運の悪いことに、その非常階段の下にも2人隠れていることが分かった。
1人の装備はCZ スコーピオンEVO3A1だと言う事は分かったが、もう1人の装備は分からない。
万が一、3人とも本物の銃を持つ敵兵だとした場合、この距離からでは対応できない。
迂闊にエアガンを撃っても当たらない可能性が高く、逆にこっちの居場所を教えてしまう事になる。
実銃で対応するには、私以外の2人には決断を下す時間があまりにも短すぎるし、私も上下に離れた3名を同時に射撃するには時間的余裕がなさすぎる。
つまり“成功しても必ず1人が犠牲になるパターン”で戦場において最も決断しにくい場面……さて、どうする?
地下道を使ってエスケープするか?
それとも迂回して背後に回り込むか……。
地下道を通れば安全に敵の本部に近づくことは出来るが、その道中で敵に遭遇しないと言う事は、その者たちを全てコミュニティセンターへ送る事になる。
迂回も、危うい。
迂回した先に、新たな障害があれば必ずしも安全策を取ったことにはならない。
考えている時間は余りない。
更に敵が増えれば、こちらの犠牲者も増える。
ヴー。
「何の音だ!?」
間の悪い事は重なるもので、交差する十字路の向こう側から6機のドローンが集団でこっちに向かって来るのが見えた。
釣り道具は3つしかないから、3機は落とせない。
「戻れ!」
とりあえずドローンと敵兵の攻撃を同時に受けることだけは避けなければならないので、一旦引き返して、ドローンだけ何とかする事にした。
「あーっ!」
後退の合図を掛けた所で、先頭を走っていた警官が絶望的な声を上げた。
見ると向こうからも超低空で侵入して来る少し大型の白いドローンが迫って来ていた。
「撃ち落しますか!?」
「この高さでは無理だ!釣り道具を使え!」
カールが投げた仕掛けを、物凄いスピードで簡単に横移動して交わす白いドローン。
続いてトーニが投げた仕掛けも白いドローンは簡単に交わしてしまった。
「スピードが速すぎる」
犠牲を覚悟で撃つしかない。
銃を向けかけたとき、白いドローンの両肩が交互に上下に揺れた。
“これは……”
この動作は航空機同士が味方へ送る合図。
“味方なのか?”
しかしニルスは今頃国防省に出向いているはず。
だったら誰?
白いドローンは凄い勢いで私たちの横を通り過ぎると、一気に高度を上げて向かって来る6機のドローンを飛び越える寸前に何かを投下した。
“網だ!”
6機のドローンは白いドローンの投下した網に掛かり、瞬く間に落下する。
ガチャガチャガチャ。
お互いがぶつかり合う音と、地上に落下した音が同時に聞こえる。
白いドローンは、そのまま空中で一回転して私たちのところでホバリングしてから、ゆっくりと着陸して停止した。
味方であることは確かだが、一体誰なんだ?
「じゃじゃーん!」
突然、建物の角から声とともに現れたのは親友のウクライナ軍第14独立ヘリコプター部隊Mi-24 202号機のパイロット、ユリア・マリーチカ中尉。
「ユリア!もう退院したの!?」
「そりゃそうよ。だって、どこも悪くないんだもの」
「でも、どうしてここに?しかも、そのドローンは、どうした?」
「説明は後よ。とにかく前に進みましょう」
「ユリア来て早々だが、通りの向こう非常階段の3階に居る狙撃手の注意を引いてくれ」
「お安い御用よ!」
ユリアは背負っていたバックパックからエビアンを取り出すと、それをドローンのカーゴスペースに入れて、メモを張り付けてから飛ばした。
「なんて書いたんだ?」
「“運営より、ご自由にお取りください”よ」
さすがユリア。
これなら自然に目が離れる。
「カールは、ここで待機。トーニはMP7を持って付いて来い!」
「付いて行くってMP7でか?」
「ああ、私が撃たずに通り過ぎた場合は、お前が撃て」
「あいよ!」
ナトーが撃たなかったと言う事は、敵は敵じゃねえってことだ。




